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ばんぱいあヴァンパイア  作者: 葉月
番外編 Honesty and a liar
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目を瞑ってちゃいけないの?


「ちょうど良かったわ。ねぇそこの人」


俺が歩いていると、そんな声が何処からか聞こえてきた。声の主を見てみると、その人物は俺に背を向けた状態で少し離れた所に一人で立ちすくんでいる。



白いワンピース姿の髪の長い女。


その女の周辺には俺以外にも周りに何人か人間がいたので、きっとこの女はその中の誰かにでも話しかけているのだろう。

そう思い、俺は止めてしまった足をまた動かすのだが。


「ねぇ、ちょっとってば」


そう女は声を出し続ける。だが、その女に近付く者は一才見当たらない。一向に誰も近寄ってはこない。


もしかしたら、これは俺に話しかけているのだろうか。


背中を向けているそいつをじっと見た後、俺はそいつに近付いていく。


気配に気付いたのか、そいつは薄く笑い「釣れたわ」と小さく一言。


「ね、その辺りにタオル落ちてないかしら。風で飛ばされちゃって。色は赤と青で、変なキャラクターが書いてあって派手派手なやつなんだけど」


俺は辺りを見回す。そんなに派手なタオルなら、この付近にあったらすぐ見つかりそうなものだが、そんなものは見当たらない。そう伝えると、そいつは「本当に?ない?」と諦めきれないのか俺が言ったことを信用していないのか、俺にそう返してきたので俺は頷く。


「ない。そんなに言うならお前が探せ」


何故他人に探させるのか。


「私も探したのよ?でも無かったから」


本当か?本当にそうか?俺はその言葉に疑いを持つ。

何故ならそいつは。




「目を瞑っていないで、その目を開けて探せばいいだろう」



ずっと目を瞑っていたのだから。



「あら、目を瞑ってちゃいけないの?」


笑いながらそう言うそいつに、俺は「目を開けて探す方が効率がいい」と言ってやる。そもそも、目を開けずにどうやって探すのか。

そいつの格好を見る。白いワンピースが所々汚れている。這いつくばって探してでもいたのだろうか。


「効率…確かにそうかもね」


そう言いつつも、そいつは目を開ける気はないらしい。目はいつまでも閉じられたままだ。

変な人間だな。そう思った。顔立ちは綺麗で、血は美味しそうなのだが。


「ねぇ、本当にないかしら?」

「ない」


そんなに大事なものなのか。だが、目を開けずに探すという無謀なことをしている時点で本当に見つけようとは思っていないのかもしれない。

見つけたいのか、見つけたくないのか。どっちなんだ。


「目を開けて探せ。お前達人間ならそうやって探すしかないだろう」


俺なら別の方法で見つけられなくもないが、こいつにそこまでしてやる義理はない。


「お前達人間ならって…。まるで貴方は人間じゃないとでも言いたいみたい」

「俺は吸血鬼だ」


そいつはきょとん、とした後、声を出して笑った。


「あはははは。貴方、冗談のセンス最高ね」


冗談ではない。本当のことだ。だけど、信じて貰えないことなど百も承知。何故俺は今言葉にしてしまったのだろうか。


自分が吸血鬼だと。



「目を瞑っていないで開けて探せ」


最後にそれだけ言って立ち去ろうとしたが、そいつは「あ、ちょっと」と言って追いかけてきて、そして





こけた。


ずざざっ、と後ろで何かが地面と擦れる音。さすがに無視することなど出来ずに、俺は振り向きそいつに手を貸す。


「いたた…、ありがと」

「何の用だ」


俺を追いかけてきて転けたそいつに俺は尋ねる。


「誤解されたまま、っていうのもどうかと思ったの。貴方、誤解してるみたいだけど、私好きで目を瞑っているわけではないのよ?」


意味がわからず、俺は眉を寄せる。目を瞑っているから見えていない筈なのに、そいつはそんな俺の表情を察したのか微かに笑う。「まだ分からない?」と。

そしてこう言った。




「私、目が見えないの」






それだけちゃんと伝えたかったの、じゃあね。そう言って俺に背を向け走り出すそいつ。

そしてまた転ける。


「………」


俺は近付いて言って手を貸してやる。目が見えないなら走るべきじゃないだろう。


「目が見えないなら走るな」

「少しなら大丈夫なのよ?この辺りの地形は大体把握してるし」


そもそも目が見えない人間なら、棒で地面をつついて歩くものではないのか。


「黙って出てきたから。忘れちゃったの」


忘れるものなのだろうか。


「迷惑かけちゃったわね。二度もありがとう。じゃあ、今度こそさよなら」


そう言って、そいつは今度は走らず歩いて行ったのだが、


何故か転けた。

足元には何もないはずだが?

俺は手を貸してやる。


「いたた」

「何故転ける」


歩いていて何故転ける。歩いているのに何故転ける。


「…私、実はここにはナンパされに来たの」


ナンパ。

確か、男が女に声をかける行為をそう言う。


「だけど、タオル無くしたのも、今ここで何度も転けて貴方の気を引いてる行為みたいな感じに見えるのも、そういうんじゃないのよ。それだけは誤解しないで欲しいんだけど」


つまり、一連の行動は意図があったわけではなく、地であって素なのだと言いたいのだろう。


「それがどうした」

「どうしたって…。何故転けるのか聞いたから答えたんじゃない」


そういえば聞いていた。ナンパとか、あまりにこいつの言うことが突飛だったからか一瞬忘れていた。


結局、どこか抜けている人間ということなのだろう。


「二度あることは三度ある、って言うけど……。貴方には本当に迷惑をかけたわね。もう大丈夫よ。三度目も終えたことだし、次はないわ」


そう言って自信満々に歩いて行くが。



「わっ…」


転けそうになった所を、そいつの腕を掴んで

俺が止める。


「お、おかしいわね。四度目はないはずなのに」

「何でもいいが、俺の前で転けるな」


目の前で転けられたら放っておくことが出来ないではないか。


「そ、そうよね。ごめんなさい。今度は転けないように、慎重に歩くわ」


では今度こそ。と、ずりずりずりずりと靴を引きずって歩くそいつ。確かに、足を上げなければ転けることもないだろう。


だが。



ガンッ!

「痛いっ!」


そいつの頭に飛んできたボールが当たる。その衝撃でそいつは倒れ込んでしまう。


ごめんなさいお姉さんっ、とボールの持ち主らしき男の子達。

大丈夫大丈夫、とそいつは笑って

立ち上がったが、もうこいつ何なんだ、といいたくなるほどの確率でもってしてすぐ側の噴水に落ちてしまった。


バシャンッ、と水しぶきが上がる。


「………」


俺は噴水まで歩いて行きそいつに声をかける。


「大丈夫か」

「あ、あら。貴方まだいたの?」


水浸しになって噴水の中に座り込んでいるそいつを引っ張って助ける。髪も服もびしょ濡れだ。


「夏で良かったわ」

「………」


そんな問題だろうか。


「あと、今のも別に貴方の気を引こうとしたわけじゃないのよ」

「………」


そこも別にどうでもいい。見ていたら分かる。今のが事故であって不運だったのだと。こいつはついてない人間なのか。それともただのドジなのか。


「じゃ、じゃあ今度こそ」

「ちょっと待て」


このままだと俺はずっとこいつから目を離すことが出来ない。


放っておけばいい。

そうも思うのだが何か気になる。そんな感覚を残したくはない。


だから。


「家は何処だ」


送っていった方が早い。


「送ってくれるの?」

「その方が早い」

「…あ、りがとう。すぐそこに白い建物あるでしょ?そこよ」

「………」


俺はそれらしき建物を見る。すぐそこ過ぎる。五分もかからないのではないか?


俺は手を貸してやり、横に並び歩き出す。白いワンピースが濡れて肌に張り付いている。黒い胸ほどまである長い髪の毛も濡れて張り付いている。下着が透ける。どうにかしてやった方がいいのだろう。あまり気は進まなかったが、着ていたシャツを脱ぎ、頭から無理やり突っ込んで着させる。


「わっ、何!?」

「透けてる」

「え、ああ…さっき濡れたから。…ありがとう」


俺は上半身裸になってしまった。太陽の光がギラギラ暑くて辛い。さっさと終わらせよう。


「あ、あの。これも別に期待して噴水に落ちた訳じゃないのよ?」



どうでもいい。



「あ、あと透けた下着とかで男誘うとか考えたわけでもな」

「よく喋るな」


別に言わなくていいことまでよく喋る。


「誤解されたら嫌じゃない?だから、誤解されそうなことはこうやって自分から言うようにしているんだけど。…煩いかしら」


煩いと言えば煩いな。

だけど、俺は何をしているんだろうか。こんな人間相手にして。血を吸うわけでもないのに。


「………」


そうだ。

血を吸えばいい。これだけやってやったんだから、それぐらいいいだろう。上手い具合に、こいつの血は美味しそうだからな。


と、考えた所で気づく。


目の見えない相手に、どうやって吸血鬼の瞳を使えというんだ。

瞳が使えなければ血を吸うことなど出来ない。


「ちっ」


舌打ちしてしまう。

やはりただ働きか。


「煩いのね」


勘違いしてそう言ったみたいだが、俺は特に弁解もしなかった。

そこからは無言が続いた。







白い建物、それは病院だった。


「着いたぞ」


中に入りそう言ってやる。上半身裸のせいか、周りの視線がこちらに集まる。ここまで連れて来てやればいいだろ、と帰ろう思うのだが、こいつに着せているシャツをどうしたらいいものか迷う。

そうこうしているうちに、一人の看護婦が足早にこっちにやってきた。


「りこちゃん!」

「その声は、…原さん?」

「違うわよ。貴方分かっててそうやって間違えるのやめなさいよ」

「ごめんなさい。高田さん」

「…山崎よ。まあ、いいわ。それより勝手に病院抜け出してっ。一人じゃ駄目って言ったでしょ!貴方希にみないドジっ子なんだから」

「ドジじゃないわよ。それにナンパされに行って看護婦付きだったら、寄ってくるものも来なくなるじゃない」


その言葉に、山崎と言う看護婦はちら、と俺を見る。そして、こそこそと俺を置いてリコと呼ばれた女と二人で少し離れた場所まで行く。どうでもいいが、シャツを返してもらえないだろうか。


「りこちゃん、貴方ナンパ成功したの?」

「したわっ!」


自信満々に偉そうに言うそいつ。ナンパではないのではなかったか。

俺はそんな二人に近付いて行く。


「シャツを返せ」

「シャツ?」

「濡れちゃって、透けてたから。コレ、貸してくれたの」

「濡れたって…。そういえば濡れてるわね。全く、何したの?」

「噴水に落ちたわけじゃないわ」

「落ちたのね」

「酷いわ。信じてくれないなんて」

「落ちたんでしょう?」


山崎が俺を見て聞く。


「落ちた」

「ほら見なさい。早く着替えましょう。貴方も着いてきてもらっていいですか?」


そう言って歩き出した二人に、俺は着いていった。




着いたのは病室だ。一人部屋。


「はい、りこちゃん。これに着替えて」

「ありがと。………、別に生着替えを見られるのを期待してるわけじゃ」

「外にいる」


俺はそれだけ言って廊下に出た。出る前に手渡された病院のだろうシャツを着る。

暫くしてから「もういいですよ」と山崎に声をかけられて部屋に入る。


「このシャツ、洗って返しますね」


山崎のその言葉に、俺は首を降る。


「いい。そのまま着て帰る」


シャツを受け取り、今着ていたシャツを脱ぎ自分のシャツをきる。微かに濡れていたが、外を歩けば乾くだろう。


病院のだろうシャツを返そうとして止まる。


「これは洗って返した方がいいか?」


そう聞くと、病院のだから構いませんと山崎は言ったが、それに意を唱えるものがいた。

リコだ。


「駄目よ。洗って返すのが常識でしょ?貴方、自分の肌に触れたものをそのまま返すつもり?あと、それ病院のじゃなくて私のだから洗って返しなさい」

「………」

「りこちゃん、病院のだから。嘘はやめなさい」


あきれた声で山崎がたしなめる。そんな山崎にシャツを渡し、俺は病室を出ていった。



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