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ばんぱいあヴァンパイア  作者: 葉月
番外編 Honesty and a liar
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少女が望む真実の話

太陽も月も隠れたその真っ暗闇のその中で。

産まれたのは一人の『怪の者』だった。


怪者は笑い、

怪者は泣き、

怪者は怒り、

怪者は呆れ。

怪者は狂喜し、怪者は微笑み、怪者は愛しく想い、怪者は想像し、怪者は夢を見て、怪者は絶望し、怪者は諦め、怪者は捨て去り、怪者は話をした。




そして怪物は『死』を迎える。



どんな生き物にも、公平に『死』は訪れる。

どんなものにも『終』は来る。



『怪の者』もそれは替わらない。





遠い昔、とある『場』に、とある『鬼』の、とある一族が住んでいた。

怪者に死が訪れた時、そのとある鬼の一族の中から五人のまだ幼かった鬼達が集められた。

それは何故か。


それはその鬼達に怪者を残すため。

怪者の『力』を残すため。


幼かった鬼の子。

そのうちの一人がオルロックだ。


ある鬼の一族。

ソレすなわち『吸血鬼』だ。









僕達吸血鬼が人の血を求めるのはどうしてなのか、君達は知ってる?




僕はそれを知ったんだよ。

だから教えてあげる。

だって僕達五人は『同じ』だから。

同じ『怪者』の血を継いだ者どうしだから。

『直系』なんて言葉で括られて縛られてきた僕達だから。


だから知ってほしいんだ。

君達にだけは知っていて欲しい。






吸血鬼がさ、人間の血を吸うのは




『人に戻りたいから』


なんだって。




オルロックはそう言って、

寂しそうに笑った。










――――――――




「同じ怪者の血を継いだ者どうし…」


目の前にいる大人になった少女は確認するかのように小さくそう繰り返した。


「そうだ。オルロックと俺、そしてあの時俺達を追って現れた吸血鬼もそのうちの一人だ」

「あの時の吸血鬼もそうなんですか」


俺は頷く。

二年前のあの日、俺達の前に現れた吸血鬼。まさか俺達の前に現れるのが、おなじ『直系』である所の吸血鬼であったことに、あの時は多少驚きはしたが。


「確か、この店を開くようにって言ってきたのも、あの吸血鬼の方なんですよね?」


この店。

お酒を飲める店。


「ああ。なんのつもりかは分からないけどな」


店を開いて欲しい。

そう言ったアイツの真意はまだ聞けていない。多分、この『場所』を『何か』に使うつもりなのだろうが。


「直系と呼ばれる吸血鬼のうち、あとの二人。そのうち一人は、オルロックが手にかけて既に死んでいる。だから五人の中で今生きていると確かなのは俺と、俺達の前に現れた吸血鬼、そしてもう一人の三人だけ」


オルロックが今、どうなっているのかは俺にも分からない。何処にいるのか、何をしているのか。

死んでいるのか、生きているのか。



「オルロックが最初に手をかけたのは『直系』である吸血鬼の一人だった。どうしてオルロックがソイツを殺したのかは、今になっても分からない」


分からなかった。

分からなかったからこそ、俺はあの時に動くべきだったのだ。動いていたら、もしかしたら何かが変わっていたのかもしれないのだから。


今更何を言ったところで手遅れだが。


「…そしてそこから、オルロックによる『吸血鬼の虐殺』が始まった」


オルロックによる吸血鬼の大量虐殺。

オルロックは『同じ』吸血鬼だけではなく、他の吸血鬼達もその手にかけた。かけていった。

それが今から二百年ほど前の出来事。



少女は『虐殺』の言葉に目を伏せる。


「吸血鬼は吸血鬼を殺せない。だが、俺達は違う。怪者の血を継いだ俺達だけは少し特殊だからか、普通の吸血鬼達とは違いそれが可能だった」


そもそも俺達は、俺達とは違う吸血鬼達を『仲間』だとは心の底から思っていなかったのかもしれない。だからソレが可能なのだろう。それとも、俺達は『吸血鬼』ですらなかったのかもしれない。俺達は別の生き物だった。


じゃあ、俺達は一体『何』だったのか。


「…カグラちゃんは、オルロックさんが中途半端な吸血鬼に吸血鬼を殺させたんだ、って言ってたんですけど」

「それも可能だろうな。ただ、殺された吸血鬼の大半はオルロック自身の手によるものだっただろう」


オルロックにはそれだけの『怪者』の力があったから。


だけどアイツにその力は強大過ぎた。

俺達五人の中で一番優しく、そして一番怪者の力のせいで色々と背負わされてきたオルロックは、その内を全て一人で抱え込んでしまった。


きっとそれであんな事が起こってしまったんだと思う。

吸血鬼の大量虐殺。それを知っている者達はその出来事を『最厄』と呼ぶ。


今の若い吸血鬼達はその事実を知らない。

カグラ、と少女が呼ぶ蝙蝠も然り。

オルロックの件を、少女は三十年ほど前のことだと聞いたと言った。だが、それも間違い。三十年ほど前、何かがあったのは俺なのだから。


俺達は『最厄』を起こしたオルロックを止める事が出来なかった。同じ『仲間』であるオルロックの考えを理解してやれたであろう『吸血鬼』は俺達だけだったのにと、今ではそんな考えばかりが頭を過っていく。

昔はそんなこと考えもしなかった。


「…吸血鬼さん」

「オルロックは優しすぎた」

「…………」


黙る少女は俺を見つめる。

俺が吸血鬼にしてしまった少女。

二年前のあの雨の日。少女にはここまで詳しくは話していなかった。だけど、少女は望む。


『真実』を。


『真実』だけを望む。




「まだ聞くか?と言っても当事者である俺も細部までは知らないが」

「……いえ、いいです」


少女はじっと俺を見た後、かぶりを振った。そしてにこりと笑顔を作り、「リコさんの話が聞きたいです」と何故かそう言った。


「リコの?」

「はい。リコさんとこんな話をした、とか。どんな小さな話でもいいですよ」

「…聞いてどうする」

「吸血鬼さんは私を吸血鬼にしました。その原因である所のリコさんの話を私に話すのに、理由などいらないのではないですか?」

「…………」


にこりと笑う少女。

そんな少女を怪訝に思いながらも、俺はリコの話を少女にする。


初めてリコの話を少女にしたのは二年前。あの雨の日から二年の歳月が流れ、少女は大人になった。


その少女が望む、

嘘つきだった彼女の話。



「リコの話すことは殆どがくだらない嘘だった」

「あはは。リコさんは相当嘘つきだったみたいですね」


笑う少女を俺は見る。





『貴方は正直者だものね』



リコ。


俺がリコに会ったのは偶然だった。

だけど、リコは嘘つきだから。

嘘ばかり言う女だったから。



もしかしたら、あの時会ったそれすらも『嘘』だったのかもしれないな。

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