最初で最後の吸血鬼
番外編
『Honesty and a liar』
これは吸血鬼さんの気まぐれじゃない『気まぐれ』話。
全八話。
二話目からが『本編』的な感じになります。
『Povestea suplimentar』話が色々出てきてしまい収拾つかなくなってきましたので、一回目『瀬川空』はのちのち吸血鬼さん話の後ろに移動させようかと思います。
では、前書きを終わります。
『どうして私を吸血鬼にしたんですか』
雨の中、傘も差さずびしょ濡れになりながら少女は言う。俺が吸血鬼にした少女。最初で、そして最後だろう俺が牙を向いたただ一人の少女。
『気まぐれなんかで、私を吸血鬼にしたんですか』
気まぐれ。
俺は少女に、少女を吸血鬼にしたのは気まぐれだと言った。俺の気まぐれで少女を吸血鬼にしたのだと、そう伝えた。
そんな『嘘』を少女に伝えた。
だけど少女はやはり聞く。
どうして、と。
何故、と。
何で、と。
泣いているのかもしれない。
あの日から『泣かなくなった』少女の顔には水が流れる。
それが涙なのか雨なのか。
どちらかだと断言する権限など俺にはない。
人間だった少女を吸血鬼にしてしまった俺には、少女を語り少女を判断することは出来ない。
気まぐれ。
俺はその時初めて嘘をついた。今までずっと嘘などついたことなどなかった。嘘などつく必要もなかった。
だけど、最初で最後の、俺が吸血鬼にしてしまった初めての、たった一人のその少女に、俺は初めて嘘をついた。今まで長い間生きてきた中で一度もしてこなかった初めての『嘘』という行為を行った。
だから、なのだろうか。
「分かった」
嘘は嘘だとバレてしまう。
気まぐれが本来の理由ではないのだとバレてしまう。偽りが偽りなのだと少女には分かってしまう。
気まぐれ、という嘘を少女は許しはしない。
だから俺は少女に話す。
『嘘』ではなく『真実』をこの少女に伝える。
「俺がお前を吸血鬼にしたのは、俺がお前をリコの代わりとしたからだ」
今目の前にいるのはたった一人の少女。
俺が血を分けた、ただ一人の人間。
「気まぐれなんかじゃない」
気まぐれじゃなく『身代り』。
少女が吸血鬼になったのは。
俺がリコを好きになったから。
人間だったリコを愛したから。
リコが大切だったから。
リコが大事だったから。
リコだけが願うものだったから。
リコを欲したから。
嘘つきだったリコ。
リコのように、俺は上手に嘘をつくことは出来なかった。
そうしてそれが、今少女を傷つけている。
リコの身代り。
そんな真実も少女を傷つけるだろう。
嘘も真実も、
この少女を傷つける。
俺の嘘。
俺の真実。
『俺』という存在。
白木の杭。
吸血鬼の弱点。
殺せる道具。
少女でも扱える道具。
それを渡した少女は、少しの間の後ソレを俺に返した。
「無理、…ですよ」
そう言って。
戻れない。
戻らない。
そう口にした少女。
そんな少女に俺は手を貸してやる。
遠くからではなく今度は近くで。
俺は少女を見守ることになる。




