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ばんぱいあヴァンパイア  作者: 葉月
最終章 ツナグミライ
52/109

むらむらと… vorbesc.鎹・名々賀

「というわけで、はい」


お店に客がいなくなったのを見計らい、俺は首元を寛げて進藤を見る。進藤はそんな俺をじっと見ながら徐々にその顔の眉間に皺を寄せた。そしてこう言った。


「…どういうわけか、私にはさっぱりなんだけど」


いやだな、分かってるくせに。


「いや、四年ぶりの…はい」

「はい、じゃないから」


拒否られる。

だがしかし、俺も諦めない。


「俺さ、結構傷ついてるんだよね。あの時、つなぐに吸血鬼の目を使われたの」


遠い目をしてそう言ったら、進藤はぐっと詰まった。

俺はそれを逃さず、さぁやれ、とばかりに首元をさらに寛げた。結局進藤は折れるしかないのだ。


進藤が俺に近付いてくるが、まだ「うぅ」と目の前で躊躇しているその顔を俺は見る。じっと見る。じっとじっと見る。


懐かしい進藤。

あの頃と同じ顔。

同じ瞳。

同じ鼻。

同じ唇。


同じようでいて少し違う顔立ち。

それがすぐ手の届く範囲にいて、そして俺はさっきその唇に軽く触れ、キスをした。

触れるだけのキス。触れただけのキス。

やっぱりもう一回キスっていうのもありなのかもしれない。

そんな考えが俺の頭に沸き上がる。


「…………」


さっきは本当に触れただけだったからなぁ。唇に軽く触れただけ。ちょい、と唇を近付けただけ。ちょい、とその唇に唇を合わせただけ。あれも、一応キスだけど、俺のキスはもうちょっとこう。



そんな事を考えて無意識に腕を進藤の方へ動かしていたら、観念したらしい進藤が屈んで顔を近付けてきたので「おっ」と思ってしまった。やっぱり悪いとは本当に思ってるんだな、と思う。まぁ、別にそこまでは傷ついても怒ってもいなかったのだが。

どちらかと言うと、逃げられ消えられた事の方が俺の中では気にしている所なわけで。



進藤の顔がゆっくりと俺の首元に近付く。

俺の肩の上には進藤の手。ゆっくりゆっくり近付き、そして首元すぐ近くでピタリと止まった。牙はまだ俺の首には刺さっていない。ここまで来て、まだ躊躇するのか。それとも緊張でもしているのか。


「………」


ピタリと止まった進藤がすぐそこにある。

体が、顔が、匂いが。全部俺に伝わるほどすぐ近く。すぐそば。零距離。密着ではない。


肌と肌とが触れ合っているわけではないのに、熱を感じることの出来る久しぶりのこの距離感を、俺は一人懐かしんでいた。

高校の時のクラスメイトであり友達であり、そして今はただ一人の特別な存在になりたいと思う相手である進藤を身近で感じる。

進藤は息でも止めているのか、俺の首元に進藤の息は全くかかっていないのに、首もとにはやはり進藤の熱だけが伝わってくる。進藤の熱。四年ぶりの熱。四年ぶりの匂い。四年ぶりの進藤の匂い。四年ぶりの進藤はすぐ近くにいる。



進藤の首元がすぐ近くにあった。

目の前に。

すぐ傍に。

高校の時もそうだったけど。

髪の毛が短くなったからか、首のラインの肌が隠れることなく見える。白い肌。綺麗な肌。隠すことない首元が無防備だ。


ああ。

そういえば昔々に、俺はこの首に噛みついたことがあったっけ。




『…っ、ちょ、痛いっ!いたいいたい痛いっ!!』



「……………」


微かに汗の匂いがするその首もとが酷く無防備で。







無防備だなぁ。






ガッ!

と、俺は進藤を掴み押し倒した。



ガンッ!と物凄い音が響いた。


「…っ、いったっ…!!」


押し倒された進藤が床にぶつけた頭を押さえている。物凄い音の正体はソレ。だけど、そんなこと気にしてあげられる余裕は俺には無かった。悪かったとは思うけど。



うん。

まずいね、これはどうも。




「進藤、俺ヤバいかも」


つなぐ、と呼ぶほどの余裕も無かったぐらいだ。

そう言った俺の言葉は進藤に聞こえていたのだろうか。かなりの高さから床にぶつかった進藤の頭はそうとう痛かったらしく、未だ頭を押さえたまま悶えている。押し倒された事にも、もしかしたらまだ気がついていないのかもしれない。


そんな俺の下にいる進藤の無防備な首に、俺はそっと手をやり触る。掌の裏で、そっと触る。ビクッ、とそこでようやっと俺が上にいることに気付いたのか、進藤が体を震わせこっちを見た。


「か、鎹君、ちょ…」

「いやぁ、…首が」


「く、くび…っ?!」と進藤は今の自分の状況にパニック状態らしい。視線があっちこっちしている。しながらも、進藤の首に触れている俺の手を掴むべきか掴まないべきか分からないのか、進藤の手は右往左往している。かなりのパニック状態だ。

だが俺も今それどころじゃない。


掌の裏でそっと触る。指を動かしてすっと触ったら、進藤の首がビクリと揺れた。その反応が、また無防備で。


下にいる進藤は本当に無防備で。

無防備で無防備で無防備すぎて。









むらむらする。




「むらむらする」



相当まずいと思う。



「ちょ、ちょっ…」



進藤が泣きそうな顔をした。



うん。

大丈夫大丈夫。

いや、ホント大丈夫だって。

俺はそこまで非人道的じゃないから。




触るだけ触るだけ。






俺の中の四年分の何かが暴走した。


















―――――――――――――――――――――





「進藤ちゃん、たっだいまー!」


そう言って店のドアを開けたら、そこには押し倒されている進藤ちゃんの姿。


こ、これはっ!!



「進藤ちゃんが危なーーいっ!!」


俺は走って進藤ちゃんに圧し掛かっている男をドンッと突き飛ばす。男は吹っ飛ぶ。そして進藤ちゃんを掴み起こす。


「大丈夫?進藤ちゃん」


「な、名々賀さん」と進藤ちゃんが言う前に、俺は進藤ちゃんをぎゅっ、と抱きしめる。


「怖かったよねー」


いつもならすぐに突き飛ばされるが、この時は数秒そのままの状態が続いた。そして思いだしたかの如く突き飛ばされた。


「…し、進藤ちゃん。酷くない?」

「な、なっ、名々賀さんっ。何でここにいるんですかっ!」

「何でって…。つい今しがた日本に戻ってきたからだよ。で、進藤ちゃんの顔を見に来たの。しばらく離れてたから寂しかったでしょ?俺も寂しかったよー」


「寂しくありません!」と顔を赤くして叫ぶ進藤ちゃんのすぐ近くから、先程突き飛ばした男が顔を出す。もうちょっと寝ててくれて良かったのに。


「何でここにいるんですか」


その男、鎹は言う。


「何で、って…。進藤ちゃんに会いに?」


鎹が責めるように進藤ちゃんを見る。多分、何でこいつがお前の居場所知ってんだよ的な視線だろう。


何で、って。

そりゃ、俺ってばそういう気配に敏感だから。


だから、わりとすぐに進藤ちゃんがいる場所を見つけ出せたのだ。

しっかし、ようやっと鎹もここまで来れたのか。遅いなぁ。

そう思いながら二人を見ていたら、いつの間にやら二人は口論へと突入していた。さっき鎹を邪魔しちゃったからその勢い冷めやらぬ、って所かな。


だけど。



俺は進藤ちゃんを見る。


やっぱり進藤ちゃんは鎹といる時が一番いい顔してるんだよね。

俺は手にしていたカメラのシャッターをきった。


あの時。

あれからの俺が見た進藤ちゃんは、やはり何処か元気がなく。この四年。正確にはこの二年、俺は何度も進藤ちゃんの所へ行っていた。

元気がないのも、高校に行かなくなったのも。全て鎹のせいだってことは分かってたので、鎹の話をこれでもかというほどふってやった。そうすることで、進藤ちゃんを突き動かそうとしたのだ。

だってそうだろ?

進藤ちゃんの悩みの元は鎹なんだから。

でも、なかなか思うようにはいかなかったけど。



「そうだそうだ。進藤ちゃん、写真見る?今回のは結構力作ぞろい」


そう言って鞄から現像した写真を取り出す。全て、今回行ってきたイギリスで撮ってきたものだ。

俺も、もう二十七になっている。たまに、ではあるがこうやって海外に行き動物の写真を撮れるぐらいに成長していた。

だが、写真を取り出した俺に気付く様子は、二人にはない。


本当に、結構力作だから見てほしいんだけどな。


俺は二人を見る。

ぎゃいぎゃいやってる二人がそこにいて。

進藤ちゃんが凄く生き生きして見えたから。


俺は二人に近付き、また進藤ちゃんを後ろからぎゅっと抱き締めた。

「名々賀さんっ!」と二人は怒ったけど。


俺も四年待ったんだぜ?



今を生き出した彼女。


そんな彼女に俺がどうしようと、もう構わないだろ?



だってさ。



「俺も進藤ちゃんが好きっ」



それが俺の楽しみで、生き甲斐で。

好きなもの、なんだから。





本編完結、です。

ここまでお付き合い下さった方々にはとても感謝しております。

本当にありがとうございました。


で、本編に入れると本編が長くなって嫌だな、と思いましたとある方。

もとい、吸血鬼さんの話を(まだ書けてませんが)番外編として載せようと思っております。

番外編なので読まなくても支障はないと。

ただの、吸血鬼さんの気まぐれじゃない『気まぐれ』話なので。


お気に入り登録や、ご感想など頂きまして誠に嬉しく思っております。この場で申し訳ありませんが深く感謝の言葉をお届けしたく思います。

本当にありがとうございました。



……で、ここからの後書きは、私的色々言いたい事と私的色々置いて来たもの達の駄文をつらつら書きたいと思いますので、この先は読まなくても本当に大丈夫ですっ!!

では、いってみよーう。



ではまず。

鎹に『ドキドキ』はないけれども、『むらむら』ならあるんです。

と、いうのを書きたくて書いたのが最後の『vorbesc』話です。感想で、一度『ドキドキは?』みたいな感想を書いて貰ったのを読んで、鎹についてはドキドキは無くむらむらなんだよ、と思ったので書いたのです。むらむら感が上手に出せませんでしたが。残念です。もっとむらむらさせたかった。


で、同じ話で名々賀さん登場。名々賀幕引きが可哀想すぎたので。あんなフェードアウトはあまりにもだから。


では、名々賀さん繋がりで『置いて来たもの』をここで記載をば。

『vorbesc.名々賀・空』で、蝙蝠を助けたことを名々賀さんは否定していましたが、これは名々賀さんです。忘れてしまっているだけです。


次に、ちょい出していた『蝙蝠のヒナ、天使なお姉さん田中真菜、よく頼みごとをしてくる教師』の三人には繋がりがあります。名々賀が学校に来た時、頼みごと教師が学校案内時に名々賀さんを『こいつ』呼ばわりしてるのはそのせいです。


それぐらいですかね。置いて来たものは。多分。


あとは、久遠とカグラですが。

これは番外編で少し登場する予定です。予定です。大事なので二回言います。


最後に。

無事本編終了出来て本当に良かったな、と思います。陰謀が渦巻いた時などもあり、何だ何だと焦ったりもしましたが、本当に『完結』がちゃんと出来て良かったと思います。ホント。マジ。完結出来るって素晴らしいですね。終わり方どうのは抜きにして。


でも、ここまで長くなるとは予想だにしていなかったです。

50話超えるて…。自分でびっくりです。でも分かってます。四章で予定外の話を書いた自分の責任ですね。でも楽しかったんだもん。

あと古い所で言うと、楽しかったのは三章の進藤さんと小日向君のくだりですかね。小日向君の激昂が楽しかった。普段大人しいからね。


あと、誰も進藤さんの下の名前について突っ込んでこないのがちょっとビックリしてました。何故そこは突っ込んで来ない。

進藤さんの名前については、とくにこれといって『何か』があるわけでもなかったのですよ。すいません。


ただ、主人公の名前って考えるの難しいんだよな。と思いつつ先々書いてたら出すタイミング失っただけなんです。

最後には出しましたけど。

あのまま出さなかったらどうなっていただろうか、と今ちょっとわくわくしてます。

あと、やっぱ『何か』は付けた方が良かったかなとも思います。何かがあるんだ、って思われてたら洒落にならんですし。



このあとがきも読んで下さった方、ありがとうございました。

もう終わります。

とりあえず、言うべき事は言ったと思いますので本編最後のあとがきを終了いたします。

本当にありがとうございました。


番外編もちゃんと書けるように頑張りたいですね。

途中までは書けてるんだけどなぁ。


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