表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ばんぱいあヴァンパイア  作者: 葉月
最終章 ツナグミライ
45/109

出会いと別れは変わりはしない vorbesc.名々賀・空

「あ、あんな所で鎹が女の子と話してるよ」


そう言ったら、隣にいた進藤ちゃんが俺の視線の先を見る。鎹と、下級生らしき女の子が何やら話している場面を進藤ちゃんが見る。


「ホントですね」

「…気になる?」


淡々と「ホントですね」などとそう言った進藤ちゃんに、気になるか、とからかうようにそう言うが、からわれているのが分かっているのか進藤ちゃんは何も言わなかった。

最近はこんな反応ばかりが返ってくるので、少々つまらない。



「告白でも受けてるのかな」

「そうかもしれませんね」


興味なさげな進藤ちゃん。


鎹は本当にもてるな。

学校にいるとそれを強く感じた。顔はいい方なのだからもてるのは納得だが、最近それに拍車がかかったのだと女の子達が言っていた。

若いっていいな。俺もまだ若い方だけどさ。

そんな鎹の様子を遠目に、しばらく様子を見ていると、ふいに女の子が鎹に抱きついた。


パシャッ。

俺はシャッターを切った。


「…何、撮ってるんですか」


進藤ちゃんが訝しげに問う。


「記念。鎹、浮気記念。ひどいよねぇ、進藤ちゃんがいるのに」

「浮気って…」


進藤ちゃんと鎹は別に付き合っているわけではない。進藤ちゃんは鎹の彼女だけど、彼女

じゃない。付き合ってはいるけど、付き合ってはいない。


そんな微妙な関係の二人。


鎹の方を見る。いまだ女の子に抱きつかれたままの鎹は、女の子を無理に引きはがす事が出来ないのかそのままの状態で立ちつくしていた。

すると、鎹の胸に顔を埋めていた女の子が顔を上げた。女の子が鎹の胸元を引っ張り、鎹の顔と女の子の顔が近付く。



キス、したように見えた。


隣にいる進藤ちゃんを見る。その進藤ちゃんの顔を見て、俺はシャッターを切った。


近くでしたカメラのシャッター音に気付き、進藤ちゃんが俺を見る。カメラのレンズ越しに見るその顔は、微かに不機嫌そうだった。


「…名々賀さん、今撮るべきは私じゃなく鎹君の方ですよ」


不機嫌そうに進藤ちゃんがそう言う。今こそ浮気現場だろう、とでも言いたいのだろう。

だけど、俺が撮ったのは進藤ちゃんの顔。鎹が他の女の子とキスしているのを目撃してしまった時の、進藤ちゃんの表情だった。俺は進藤ちゃんにこう言った。


「いや、今撮るべきは進藤ちゃんだよ」

「……?」


進藤ちゃんが、意味が分からないといった感じで眉根を寄せる。それが俺は可笑しくて、またシャッターを切った。


「いい顔だねぇ」


進藤ちゃん本人は気付いていない。だけど、俺から見たら分かる。分かりすぎる。分かりすぎるだけに、面白くってついからかってしまう。

鎹の方を見る。抱きついていた女の子は、もう抱きついてはいなかった。キスされて慌てて突き放しでもしたか?


進藤ちゃんがそれを見てから、廊下をまた歩きだしたので、俺もそれに続く。


面白いなと思う。

こんなにも進藤ちゃんの鎹を見る目はあからさまなのに、本人は気付いていない。それとも無意識に気付いていないことにでもしているのだろうか?










「だから、まぁ突っついて見たんだけどさ。ちょっとやり過ぎたかなって」


俺は田中にそう言った。

田中真菜。俺の会社のスポンサー的な存在で、実は俺の中学の時の先輩でもある。

今俺がいるここも、田中が撮影用に用意してくれた家だ。


以前、進藤ちゃんを呼びだす際、吸血鬼が住んでそうな古い洋館っぽい家をと手配したらこの家を貸してくれた。

会社の上司連中には内緒なので、 バレたらどやされる事間違いない。


「やりすぎたって、また今度は何したのよ」


呆れたように言う田中。


「んー、痛い所をぐりぐり抉たって所かな」


数日前、俺は学校で進藤ちゃんに問い詰めた。誰が好きなのか。誰のことを想っているのか。進藤ちゃんの気持ちを自覚させるために。

それでも彼女の態度は変わらなかった。


気付いているとか、

気付いていないとかのレベルではないな、と思った。

彼女の中で、それは考えないようにしている事なのだ。考えないから、考えるのを止めてしまっているから、そんなこと思いもしないのだろう。


だから、俺はそれの枷になっているのであろう事を言ってやった。考えないのは、それがあるからなのだろう。



『吸血鬼なのに?』







「あんたのドSっぷりにはホント怖気が走るわ」

「お褒めにあずかり光栄です」



俺は動物が好きだ。

人間と違って従順で、野生的で、今を生きている感じがする。自分を生きている感じがする。そんな動物達を見て写真に納める事が俺の生き甲斐。俺の楽しみ。俺の幸せ。


そんな俺が見つけた被写体。

『吸血鬼』






そんな吸血鬼に、実は俺は昔一度会っている。






『うわぁ、なんやこれ』


誰かの声。男の声。


『あらら、こらもう皆死んでんなぁ…。ホンマエグイことしよるよなぁ、人間さんは』


死んでる?誰が?皆が?


そうだ。俺は死んだんだ。あの男共に刺されて。急に入ってきた男達。そいつらが次々に皆を刺していった。何が何だか分からなくて。俺も刺されて。


『……っ…』

『お、生きとる奴おるやん。大丈夫かー?…って、こらあかん。アンタ、この出血量、あと10分ももたんで。5分…ももたんかもなぁ。残念やな』


生きてる?

俺は生きてるのか?


『まーったく、人間っちゅうんは恐ろしいやっちゃな。俺達よりよっぽど恐ろしいで。な、お前もそう思わん?』


誰に話しかけているのだろう。俺なのか?


『……ぅ…』

『ん?なんや言いたい事でもあるんか?まぁ、ここで会ったのも何かの縁やし…、聞いてやろか?血まみれの兄ぃちゃん』


言いたい事?そんなものない。だけど、俺はこのまま死ぬのか。こんな理不尽に。こんなにもあっさりと。誰かに殺されて。まだ全然やりたいことやってもいないのに。まだ成人すらしてないんだぞ。


『兄ぃちゃん。言いたい事あるんやったら早いいや?もう死んでまうで』

『……っ…ぁ…』


死にたくない。

何だって俺がこんな目に合うんだ。皆がこんな目に合うんだ。何で殺されなきゃいけないんだ。理不尽だ。横暴だ。こんなの、誰も許さない。許されない。だって俺達、別に何もしていないじゃないか。少々の悪さなら今までやってきたよ。でも、殺されていい理由になんてならない。


死にたくない。

まだやりたいこと、やってない。


俺はまだ、生きたい。


『…もぅ待つの飽きてきたな…。兄ぃちゃん言いたい事も言えんみたいやし。帰ろか』


男が立ち去ろうとした所で、何かが俺にぶつかる。目の前に黒い物体。バタバタ動く。


『ぉわっ、…お前何やっとん?もー、足滑らしたん?どんだけドジなんや、ったく……、え?この兄ちゃんが?」


俺の顔辺りでバタバタ動くもの。バシバシ当たって動くもの。


『ホンマかぁ?もう、お前の間違いに付き合うておれんよ?俺。しかも、この兄ぃちゃん死ぬし。なぁ兄ぃちゃん、アンタに聞きたい事があるんやけど…って、喋れへんやん!!この兄ぃちゃんっ!……えぇー…、マジで言うてんの?これで違ったらどうしてくれんの?無意味に人間助けるん、俺嫌やねんけど。この兄ぃちゃんが、お前の言う【恩人さん】なんやったら良いんやけどさぁ…。……あぁはいはい、分かった分かった。しゃーない、か』


男が近付く気配。しゃがみこみ、俺のすぐそばにいる。


『兄ぃちゃん、アンタ運が良かったな。これで恩人さん違ったら…、ホンマに運が良かったんやろうな』


男はそう言って笑った。

そこからの記憶はない。気付いたら俺は助かっていて。死ぬはずだったのに生きていて。そして男はこう言った。


『兄ぃちゃん、アンタ蝙蝠助けた事あるか?』


ない、と俺が言ったら男は凄くショックを受けたみたいだった。だけど、予想もしていたのか、すぐに立ち直った。そして、頭の上にいた黒い物体に話しかけた。蝙蝠だった。


『もうお前の言う事は信用できんっ。これで何回目やの?間違えるん。しかも今回は人助けてもたし…』


頭の上の蝙蝠がバタバタ動く。


『もうアカン。俺、付き合うてられん。何言われたって嫌やしな。じゃあな兄ぃちゃん。ホンマ運良かったな。もう会う事ないやろし、お礼は今言うてくれ』


俺はお礼を言い、何者なのか聞いた。

その時、男はこう言った。


『吸血鬼』と。










『君に興味があるんだ。ほら、吸血鬼なんて初めて見たしさ』

そう俺が言った言葉は嘘。


進藤ちゃん。

吸血鬼なのに人間くさい。

人間ではないのに、人間の感情で動く。


なのに、やはりどこか人とは違う雰囲気がある。

あの時会った吸血鬼とは何か違う。


見ていて飽きない。からかってやると面白い反応をする。もっと人間からは遠い存在なのかと思っていたら、そうでもない。やはり、人間臭い。


俺のものに出来たらなってそう思う。


そうしたら、一生可愛がってあげるのに。




「…何、にやにやしてるの?」


田中が不気味そうに俺を見る。


「んー、早く来ないかなって思って」



進藤ちゃんはいつここに来るだろうか。

今日、明日、明後日?

それとも、まだまだ先かな。




進藤ちゃんの俺への返事は『NO』だろう。そんな事は分かりきっている。分かり切っているからこそ、早く来てほしいと願う。ここに。俺の所へ。



「ふふ、早く会いたいなー」

「……来ない方が身のためだと伝えて来た方がいいかしら」


小さく呟いた田中の言葉は俺の耳には聞こえていなかった。



だから俺は、人間とは違う者に敏感なのかもしれない。あの時のことがあったから、吸血鬼に会ったから、吸血鬼に助けられたから。

だから、俺は進藤ちゃんを見つけ、

進藤ちゃんに出会えたんだ。














―――――――――――――――――――



「好きなんじゃない?」



まだ友達だとでも言うのかしら。

こんな自分自身の態度を見て。


「…好きだよ。でもそれは」


友達だからだって言うのかしら。

でも、それは逃げるための代名詞みたいなものよね。


「本当に?」


そろそろいいんじゃないかしら。

鎹君も自分の気持ちにようやく気付いたのだから。進藤さんも気付くべきよ。いえ、気付いているんじゃない?


「進藤さん、よく考えてみて」


貴方は何故逃げているの?

貴方の今の気持を、よく考えるの。


「…考えて、どうするの?」


考えた先に何が見える?考えた先にある貴方の気持ちは何?貴方にとって、鎹君は何?友達?友達でいいの?それ以上があるのに。それ以上を望む事だってできるのに。


本当は、それ以上を求めているのに。

それ以上があるって気付いているのに。


「もう、分かってるんじゃない?」


逃げるのはやめない?

だって貴方はそれを手に出来るんだから。だって相手もそれを望んでいるのだから。



だけど。


「私は、鎹君を好きにはなれない」



…どうして?



貴方を縛るものは、何?

好きになれない、だなんてそんなこと言わないでよ。

そんなこと、ないでしょう?

何が問題なの?









『進藤は消えた』

『何よ、消えたって。意味分かんない』

『空ちゃん………』

『…何なのよ。私にはさっぱり分からないわ!進藤さんが消えたってどういう事?昨日はいたじゃない!学校にも来てたじゃない!鎹君、貴方昨日進藤さんと一緒だったんじゃないの?何よ消えたって。意味分かんない』

『空ちゃん…、ちょっとま』

『瑛士君が私を止める権利なんてないっ。瑛士君も何か知ってるんでしょう?鎹君と一緒。…みんな、皆知ってる。私だけが蚊帳の外。…私だけが何も知らないなんてもう嫌。私だけが何も知らずに何もしないだなんて、もうたくさんっ!!』





ねぇ進藤さん。

どうして私に言ってくれなかったの?



そんなに私を見くびらないで欲しいものだわ。





貴方が吸血鬼だとしたって、


貴方が貴方である事に、変わりはないんだから。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ