くーちゃん。 vorbesc.カグラ
私に対するくーちゃんの気持ちには、とっくの昔に気付いてた。
くーちゃんが私に寄せる感情、心、想い、祈り、
そして願い。
それは、恋。
それは、愛。
くーちゃんは私をそういう目で見てる。一人の女として私を見る。くーちゃんは一人の男として私を見る。そうやってくーちゃんの目は私を見ていた。そんなくーちゃんの視線に感づいたのは、わりとすぐの事だったかしら。
くーちゃんはああ見えて分かりやすい。
普段は、やる気がないわ無気力だわ何も言わないわ何考えてんだか分かんないような顔してるわ無口だわ無表情だわな子だけれど。
自分が決めた事には物凄くやる気を出す。俄然張り切る。目がキラキラとする。それこそ、子供のようにわいわいはしゃぐ、とまではいかないけれど。
分かりやすい子で
単純な子。
だからこそ、くーちゃんの血は甘いのかもしれない。単純で分かりやすくて、素直で優しい。
いつか誰かに騙されるわ。現にこうやって、今現在も私に良い様にされているんだもの。
くーちゃんの私を見る目が変わったのはいつからだったか。はっきりとこれだと分かる時期と言えば、やっぱりあれね。
風呂場の脱衣所でばったり会った時。
あの時は私もさすがにびっくりしたわ。だって私は素っ裸だったんだもの。裸よ裸。一糸纏わぬ姿。
だけど、私にとっちゃくーちゃんに裸を見られることぐらい特に何とも思わなかった。くーちゃんは違ったみたいだけど。
くーちゃんも男の子なんだな、と思ったものよね。あの時は。
こんななりしてるけど、私はくーちゃんより年上なのだ。年下の、まだ子供であるくーちゃんに裸を見られたことなど、意識もしていなかった。もし、これがくーちゃんじゃなく吸血鬼様だったとしたら…、と考えると恥ずかしくて顔から火が出そうになっちゃうけど。ああ、勿論出ないわ。いくら私が蝙蝠でも、そこは無理よね。
だから、私にとってくーちゃんは男としてみていない存在。
恋愛対象としては、全く考えていない相手なのよ。
『そんな、風にしか見られないの…?』
見られないんじゃない。
見ていないのよ。
論外なの。
私にとってくーちゃんは吸血鬼様の餌以外の何者でもない。くーちゃんが私をどう想おうと、それは変わらない。だから、私はくーちゃんの気持ちに気付かないフリをしてきた。くーちゃんも、別に告白だとかしてくる様子でもなかったから、私はずーっと気付かないフリ。
それが一番良かったのよ。
くーちゃんのためにも。
傷つきたくはないでしょう?
だけど、ここ最近のくーちゃんの態度はあきらかに可笑しくなってしまった。
私を遊園地や動物園に誘ったりと、まるでデートのお誘いだ。
さらに、今度はしーちゃんに恋愛相談なんてものをするなんて。
くーちゃんの行動にもほとほと頭を痛めさせられるわ。
さすがに煮詰まってきたのかしら。男の子だし。
『くーちゃんが思うような関係は築けない。私は蝙蝠で、あの子は人間だから』
私達蝙蝠という存在が、ただの黒い翼の生えた人のような存在だと思っているならそれは間違い。蝙蝠は吸血鬼のしもべ。吸血鬼の手下。吸血鬼の手先。
今でこそ血を見るような争い事などなくなってはいるが、遠い昔はそういう行為や行動もしてきているのだ。
吸血鬼のために。
吸血鬼の命令で。
人間に対して何をしてきたか。
だから、しーちゃんに対してそう言った。
だけど、私はそれを言うべきでは無かったのかもしれない。
それは私の考えだから。
しーちゃんに押し付けているわけではなかったのよ?
人間じゃない。
違う者。
生きる世界が違う。
一緒にはいられない。
好きにはならない。
あの時、しーちゃんにそんな話をしなければ、あんな事態にはならなかったのかもしれない。私の責任ね。私の軽い言葉が、あの子を追い詰める要因の一つとなってしまったのかもしれないのだから。
…いいえ。
そもそもしーちゃんを吸血鬼にした吸血鬼様。その方の責任が一番重い。
しーちゃんを吸血鬼にしておきながら、吸血鬼の事など少しも話していない。吸血鬼がどういう存在か、どうやって生きているか、どうやって生きて来たか。
しーちゃんを吸血鬼にした吸血鬼。
貴方がもし、私が聞いた話の吸血鬼本人なのだとしたならば。私はそれをあの子に伝えるべきなのかしら。
伝えたらあの子は傷つくかもしれない。
あれでいて、しーちゃんはとても弱い。とても弱くて、そして頑固。
私はあの子に真実は伝えた方がいいのかしら。
貴方を吸血鬼にした吸血鬼様は、
普通の吸血鬼じゃないのかもしれない、って。
もしかしたら、
吸血鬼にはありえない『同胞殺し』をした吸血鬼なのかもしれない、って。




