Let's do basketball vorbesc.鎹・小日向
進藤さんがもしかしたら死んでたかもしれない原因である所のグラウンドでバスケな話。
楽しくない話ばかりがこの先続くので、息抜きしてました話。
『さあ、バスケをしよう。』
テストが終わった。
解放感が半端ないぜ。
うーん、と背一杯伸びをしてから俺は帰り支度を始める。友人らが「帰りにどっか寄って行こうぜ」と言ったが、俺は寄るところがあるからと断る。
教室を出る時に後ろから「彼女だよ、彼女」と、冷やかしの声が聞こえてきたがいつもの事なので放っておいた。彼女がいないからって僻みも大概にして欲しい。俺だって本来は彼女なんていないんだから。
俺は今から進藤のクラス、一組に行こうと思っていた。
ここ何日か、俺は小日向や瀬川達と一緒にテスト勉強をしていた。勿論進藤も一緒だ。テスト勉強、と言うよりは皆で進藤に勉強を教えていた、と言った方が的確かもしれない。
俺や小日向、瀬川とは違って進藤はわりと頭が良い方ではない。
寧ろ悪い。
本人は認めたくないようだが、成績は下の下の下、ぐらいだろう。
バカやアホ、とまではいかないが、このままだと不味いぞと言えるような成績だ。
ので、ここ最近は一緒にテスト勉強をしていたのだ。
そのテストが今日終了した。
あれだけ教えてやったのだ。手ごたえはどうだったか、気になるのが普通だ。
あれだけ教えてやったのだから。
「帰ったわよ」
一組教室で見当たらない進藤に、「進藤は?」と瀬川に聞いたらそう言われてしまった。
「…早いな」
早すぎないか?帰るの。
「早く帰って、撮りためてたテレビ番組見るんだって言ってたわ」
「容量がやばい、容量が。って言ってたよね。進藤さん」
瀬川の隣で、今日行われたテストの問題を片手に小日向が言う。この後、瀬川とテスト解答の比較をすると言う。
「鎹君も混ざる?」
「いや、俺はいいや。進藤がどうだったか気になっただけだし。進藤、出来てそうだったか?」
瀬川はその俺の言葉に首を傾げ「さぁ?」とだけ言った。
「知らないのかよ」
「帰っちゃったし」
「でも進藤さん、落ち込んではいないようだったのでそこそこ出来てたんじゃないですかね」
多分、と最後は自信なさ気な発言の小日向に俺は「そうか」とだけ言って、小日向と瀬川に別れを告げその場を離れた。
帰ったら何をしようか。
そんな事を考えながら一人歩いていると、グラウンドで数人がバスケの試合をしているのが窓から見えた。一年生、二年生が混ざってバスケをしている。その中に数人、見知った奴らが混ざっているのを見て、俺は何となくだが足をそっちに向けていた。
「何やってんだ?」
そう声をかけると一、二年生に交じって遊んでいたらしい同級生の友人が、「見てわからんのか」と馬鹿にしたように俺に視線を向けた。
俺はそれに答える。
「バスケだろ」
「分かってるじゃないか」
いやそりゃ誰でも分かる。
「そうじゃなくてさ」
「息抜きだよ。あいつらがバスケしてるの見てたらやりたくなってな。テストテストでストレス溜まりまくりだったから、こう、スカッとしたくて」
確かに。
運動したら頭はスッキリリフレッシュできるな。そう思ってたら、「鎹もやるか?」と誘ってくれたので俺は有難くその言葉に甘えることにした。
帰っても特にやることないしな。
だけど、そこに玲衣がいたのは不味かったなと思う。そう思ったのは、しばらくバスケをしてからなのだが。
「…なんかさ、あいつ凄いお前に敵対心ねぇ?」
「…そう思うか。お前も」
何やら玲衣の俺を見る目が酷く冷たい気がしてならなかった。そして、ボールを玲衣に取られる確率がそこはかとなく高い気がするのは気のせいではないだろう。
確かに、俺は玲衣に嫌われる要素は持っている。何故なら俺は玲衣の姉である凛と付き合っていたが、つい最近別れてしまったからだ。
進藤から聞いた話だと、実は進藤と玲衣が付き合っていたアレはフリで、俺と凛との仲を陰ながら支えるためにそうしていたのだという。まさか俺達のためにそこまでしてくれていたなんて。
知らなかった。
だが、結果俺達は別れてしまったわけだから。
玲衣が怒るのも無理はない。
「ま、元彼女の今彼氏なわけだから殺気立つのも無理はないよなー」
「ま、頑張れよ」と肩を叩いて去っていく友人。
元彼女の今彼氏。
ま、それは敵対心の原因には入らないな。それはどっちも本当のことではないんだから。
ガンッ!
とダンクを決めたら「きゃぁーーーっ」と悲鳴が聞こえた。さっきからギャラリーが増えてきてるなとは思っていたが、いつの間にか女の子達がいっぱいいた。汗を拭う。
「ダンク決めるとかありえねぇ」と羨ましそうに言われ、俺は笑う。
「お前もやれば?」
「失敗するだろっ」
「俺もさっきから何回かミスってるけど」
「最終的にやれちゃうようなお前だからいいんだよ。俺は無理」
悔しそうに、それでも何だかんだでダンクに挑戦して失敗して笑われる友人を見ていたら、近くに玲衣がいたので俺は声をかける。
「玲衣君」
何故かすこぶる嫌そうな顔をする玲衣。
あれ、俺ってそんなに嫌われてましたか。
「ダンクなんて決めてカッコいいですね」
「玲衣君も決めてたじゃない」
「俺は中学の時やってたんで」
そう言った玲衣に、そういえばと思い出す。
「玲衣君と凛ちゃん、俺と同じ中学だったんだよね。凛ちゃんに聞いて知ったんだけど」
「…そうですよ。それが何か」
「……いや、中学の話でもどうかなー、って思ったんだけど」
そんな雰囲気じゃないね。
これは。
「きゃーきゃー騒がれて嬉しいですか」
「え?」
玲衣は俺を侮蔑の眼差しとでも言うような視線で見る。皆何か溜まってでもいたのか、ギャラリーの女の子達はさっきからきゃいきゃいと騒いでしょうがない。
娯楽でも求めているのか。
「別に俺だけが騒がれてるわけじゃないし」
玲衣君だって、ダンク決めた時は黄色い声援が聞こえてたじゃないか、と思う。
それに、他の連中らもパスカットやシュート決めたら黄色い声がどこからともなく聞こえてくるのだ。俺だけが騒がれているわけじゃない。
「進藤先輩がいるくせに」
玲衣はそう言ったが、俺は首を傾げる。玲衣は進藤から聞いていないのだろうか。俺達の今の関係も、玲衣達の関係だったのと同じなのだと言う事を。
玲衣にそれを言おうとしたが、声をかける前に玲衣は走って行ってしまった。俺は諦め、今度進藤に聞いておこうと考え、バスケに戻った。
――――――――――――――――――
「あ、あんな所に鎹君」
教室を出て帰り道、グラウンドの横を通っていた空が指差す方向を見れば、そこには何やら物凄い盛り上がりを見せている群衆があった。何の塊だと思ったら、それは男子がバスケをしているらしい光景だった。その中に鎹君もいるらしい。
「よく見えたね、空ちゃん」
僕には見えないが、あの女の子達の壁の向こうに鎹君がいるらしい。それにしても、凄い人だかりだなと驚きながら僕は足を止めた空の横に並ぶ。
「凄い騒がれようだね」
「皆何か溜まってるのかしら」
「ストレスとか?」
「ううん。性的な何かよ」
「………」
女の子がそう言うこと言うのはどうかと思う。
それにしても鎹君は凄いな、と先程からちらちら見え隠れする鎹君を見ながら思う。勉強も出来て、スポーツも出来るだなんて。しかも、顔もいいときたらもてるのも仕方がない。ちょっと憧れてしまう。僕には無理なことだから。
「瑛士君も混ざってきたら?」
「僕が運痴なの知っててそういうこと言う?恥をさらすだけだよ」
「そんな事ないわよ。今どきの女の子は完ぺきな男より、ちょっと抜けてる母性本能擽るような可愛い男が好きな女子が多いんだから」
空ちゃんもそうなの?
と聞きたかったが聞けない。
勇気ない僕を笑えばいいさ。自分でも分かってんだから。
「それにしても……」
そう呟いた空が、じっと群衆の方を見る。
「どうしたの?」
「んー、いや…。これは進藤さん大変なんじゃないかな、って思って」
進藤さんが大変。
「…鎹君が騒がれてるから?」
「そう。一応進藤さん、鎹君の彼女じゃない?ここで増えてしまった鎹ファンが進藤さんをどう思うか…」
彼女だと思うのではないだろうか。
それってそんなに大変なことか?
「羨ましいとか思われるんじゃない?」
進藤さんは実際には鎹君の彼女ではないけれど。だが、空は「それだけならいいけどね」と、何やらこの先の展開に何かを見たのか、にやにやとほくそ笑んでいる。
「空ちゃん、あんまり進藤さん虐めちゃ駄目だよ」
「私は虐めないわよ。私じゃなく、あそこの女の子達が虐めるの。…っていうか、瑛士君は進藤さんがそんなに心配なわけ?」
じとり、と空が僕を睨む。怖い。
「…なんで睨むの?」
「睨んでるって感じるんだ?」
いや、誰から見ても睨んでます。
「ま、それはいいとして」
空がまた群衆をじっと見る。暫く無言で見ていた後、空がにやりと笑ったので、これはまたろくでもない事考えてるな、と空を呼ぶ。
「空ちゃん」
「何?」
「何考えてるの?」
「面白い事」
ふふふ、と悪な顔で笑う空。
「お金もーけっ」
やはりろくでもない。
いやいや。
別に玲衣君が書きたかったわけじゃないんだよ。
ホントほんと。
瀬川さんと小日向君は書きたかったんだけれども。
この翌日から進藤さんは女の子達の手により図他襤褸にされます。瀬川さんが面白が…、いえ、心配してくれて進藤さんを助けます。
友達想いですね。書かないけど。




