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ばんぱいあヴァンパイア  作者: 葉月
最終章 ツナグミライ
35/109

売って売られて商売人

「この人は、この家の持ち主で田中真菜たなか まな。真菜ちゃん、って呼ぶと怒るから田中さんって呼んであげてね、進藤ちゃん」

「……よろしくね、進藤ちゃん。大丈夫だった?怖がらせちゃってごめんね。まさか静が進藤ちゃんに迫ってるとは思わなかったもんだから助けに来るのが遅れたの」

「俺も迫っちゃうとは思わなかったからな」


しみじみと名々賀が呟く。


「可愛くて、つい」

「つい、じゃないでしょ。会って、近くで見て、写真撮って、話してみるだけだって言うから私はこの家用意したんだけど。犯罪者の手助けしたくてここを貸したわけじゃないわよ」

「犯罪者って、酷いな。口説いてただけなのに」

「怯えてたわよ」

「怯えてたね。いや、それが可愛くて可愛くて仕方がないね。でも女の子って強引な男好きでしょ?俺もどちらかと言えば強引にしたい方だし。こう、近くにいると触りたくならない?こう、ね。それに逃げるんだもん。追いかけたくなるのが男の性っていうかさ」

「変態ドS男には何を言っても無駄ね。進藤ちゃん、危険だから近付かない方がいいわ」

「………」


近付きたくないです。

むしろこれっきり話したくもないです。



美人のお姉さん、田中が出てきてくれた事により、あの場はなんとかおさまった。今は三人ともが席に着き落ち着いて話をしている所だ。

名々賀がソファに。

私と田中はソファの向かいに、床に敷かれた絨毯の上に座っている。私は出来るだけ田中の近くに座っていた。その方が安心できたから。


「バタバタしてると思ったら急に静かになったり、変な叫び声も聞こえてきたし。心配になって降りてきて正解だったわ」


田中はずっとこの家の二階にいたらしい。二階で終わるのを待っていたそうだ。一応この家の持ち主なので、何かあっては不味いとでも思ったのだろう。


「で、もう済んだんでしょ?進藤ちゃんには帰ってもらうわよ。もう遅いし」

「まぁ、ね。楽しかったし、今日はお開きにしようか。家まで送ってくよ、進藤ちゃん」


にこりと笑顔の名々賀。がしっ、と近くの田中の服を私は無意識に掴む。


「遠慮します」

「しなくていいよ」

「やめなさい、静。あんまり行き過ぎると逆に嫌われるわよ」


田中がそうキツク言ってくれたので、名々賀はくすくすと笑いながらも諦めてくれた。


「残念」

「…………」


一刻も早く逃げたい。


「はぁ…。でも本当に大丈夫?私が送っていこうか」


田中が優しくそう言ってくれたが私は断った。


「大丈夫です。そんなに夜深いってわけでもないですし。帰れます」


帰ります。

私は立ちあがった。


手には名々賀が私に渡したフィルムと写真の束がある。名々賀はこれで全部だと言った。それは本当だろうか。信じていいのか。まだどこかに持っていて、また私を脅す材料にでもするかもしれない。

それに、私が吸血鬼であるとこの二人には知られてしまっている。それを誰かに言ってしまったりしないだろうか。私はこの人達を知らない。私よりも大人で、私よりも世の中に精通している。そんな人達がこれで本当に私を解放してくれるだろうか。


マスコミに売ったり、ネットで流したり。

そういう事をするのではないか。

吸血鬼だと信用されなくても、騒がれはする。騒ぎが大きくなったら、どんなことになるのか予想は出来ない。


黙って立ちつくしてしまった私に、田中が声をかける。


「大丈夫よ、進藤ちゃん。吸血鬼だってことは私と静しか知らない。周りに言うつもりもないから」

「野生動物は保護されるべき対象だからね」


私は野生動物じゃないんだが。


「静は本当に吸血鬼である貴方に会いたかっただけよ。貴方を貶めたりはしない。まぁ、ちょっと行き過ぎた所はあったけど」

「行き過ぎた所?あったっけ?」


名々賀がすっとボケる。


「行き過ぎた所は『多々』、あったけど」


田中が言い直す。


「大丈夫。心配しないで。貴方の秘密は守るから」

「…………」


信用していいのだろうか。さっき会ったこの人達を。

田中は別にしても、仮にも名々賀は私を脅してきた張本人なのに。この人達の言う事を信じていいのか。信用していいのか。


「…帰ります」


信用、できない。

だけどどうしようもないのだ。私には何の対処法も浮かばないのだから。この人達が私の正体をばらさないように祈るだけしかできない。そうするしか、方法がない。


私はフィルムと写真の束を持って、その家を後にした。




















「進、藤、さんっ」


瀬川がにこやかに私に話しかけてくる。またか、と私はため息を吐き瀬川を無視する。


「進藤さん、無視はよくないわよ。無視は。ただちょこーっとお願いしてるだけなのに」

「そうね。そのお願いを既に私は何度もお断りしたはずなんだけどね」


朝一から今の今まで瀬川のお願いはしつこかった。その瀬川のお願い、というのがこれまた厄介なお願いなので、私は聞き入れるつもりは少しもない。


「友達でしょ?」

「友達だっけ」

「……鎹君は友達で、私は友達じゃないと」

「…………」

「友達よね?」

「…ともだちですね」


にこーり、と瀬川は満天の笑顔を作る。


「じゃぁ、友達のお願い、聞いてくれる?」

「嫌です」

「……強情ね」

「他の人に頼んでよ。私は嫌」

「進藤さんが適任だから。てか、進藤さんにしか出来ないでしょ」


そんなことはない。

私以外の女子でも出来る。

何だったら男子にだって可能だ。


「絶対に、嫌っ!」

「進藤さん、貴方……強情ね」


それはさっきも聞いた。


「…てわけで、はい。よろしくね」

「ちょっ、瀬川さんっ!」


瀬川は私の手にデジカメを握らせる。


「大丈夫。ぱぱぱっと三十枚ほど撮ってきてくれればいいから」

「多いっ!」


三十って!

多いし、多すぎだし!


「仮にも鎹君の彼女でしょ。少ないぐらいだわよ」


瀬川がじとりと私を睨む。


そう。

瀬川のお願いと言うのは鎹の写真を撮ってくること。何故そんな写真が必要か。それは聞きたくもないし聞かなくてもなんとなく分かっていた。酷い悪女なのだ、瀬川は。


「隠し撮りでもいいわよ」

「だったら私じゃなくてもいいでしょ!?」


他の子にやらせろ!と私は怒鳴る。


「隠し撮りじゃないのがいいいのよ。隠し撮りは最終手段よ。…こう、カメラ目線で、笑ってて可愛さ三割増し、だとか、きりっと真面目な顔のカメラ目線でカッコよさ三割増し、だとか、私服姿萌ぇー、だとかがいいのよ。そういう鎹君を撮れるの進藤さんだけでしょ」


ぽんぽん、と瀬川が私の両肩を叩く。


「ちょ、そんなの私にも撮れないわよ!何なのよ、その注文はっ!無理!私にも無理っ!私には絶対無理っ!嫌っ!返すっ!」


私は無理やり瀬川の手にデジカメを戻そうとするが、瀬川は受け取らない。それどころか、瀬川は私を脅して来た。悪女すぎる。


「いいの?ばらすわよ」

「何をよ」

「貴方達がカップルじゃないって。カップルのフリをしているだけだって。どうなるかしらねぇ、それを知った女の子達は。進藤さん、貴方、すでに魔性の女として過去に噂されてたし。どうなるかしらねぇ。鎹君に惚れてしまった女の子達は。どんな事が待っているか想像もできないわねぇ、貴方の未来に」

「……ぐっ…」


女の子達が恐ろしいのは既に体験済みだった。

今更私が鎹の彼女なんてものではないと言ったら、どんな報復が私に待ち受けているか想像するだけで恐ろしい。


そ、っと瀬川が私の手を撮る。


「大丈夫よ、進藤さん。ちょっと写真を撮ってくるだけでいいんだから。鎹君にむけて、ちょちょちょーっとデジカメのボタンを押すだけで良いんだから」

「…うぅ」


私はついに観念した。

















「全て鎹君が悪い」

「…俺は何もしてないだろ」

「全て鎹君が悪いっ!」

「…進藤、お前最近情緒不安定だな。病気か?」


瀬川からデジカメを手渡された週の日曜日。私と鎹は外で待ち合わせして会っていた。

もちろん私服姿、だ。


「はいっ、もう、早く鎹君その辺に立って!」


私は開き直っていた。こうなったらガンガンに撮ってやる、と。撮りまくって撮りまくって売り上げの何割かを瀬川からむしり取ってやる、と。




瀬川が何故鎹の写真を欲しがるか。

それは売るためなのだ。鎹の写真を。


今から数週間前。何でこんなことが始まったのか、男子生徒がグラウンドでバスケットをしていた、らしい。私は知らなかったが。

一年や二年、三年生までもが混じってしていたそれに、鎹もいた。参加していた、らしい。

そして、それがわりとヒートアップしていたらしく、グラウンドには大勢の見物客が。バスケをしていたのは男子なので見物客は女子が多い。きゃーきゃー言われていた、らしい。

その中でこの男は、恥ずかしげもなくかっこよくダンクなどを決めたりしていた、らしい。


ダンクってぇ、かっこいいよなぁー。

バスケしてる男ってぇ、かっこいいよなぁー。



鎹ファンが増えました。





「やっぱり全て鎹君が悪い」


ぎりぎりと歯をかみしめながら、目の前の鎹にデジカメを合わせボタンを押す。ピピッっと音がして画像が撮れる。

もちろん、鎹以外にもバスケをしていた数人の男のファンも増えた。そこまで鎹だけが目立っていたわけではないのだ。

鎹だけが目立って、鎹ファンだけが異常に増えていたら私は今この世にいないだろう。

死んでるよ、既に。女の子達の手によって。


不服そうな顔の鎹にピントを合わせ、ボタンを押す。

ピピッ。


「…そんなに怒られるような事、俺、してないのに」

「黙れ、にわか良い男めが」


鎹は知らないのだ。

バスケ騒ぎがあった翌日から私がどんな目に会ってきたか。マジで死ぬかと思ったから。女の子に恐怖を感じたよ。女の子怖いと改めて思ったよ。


「笑え」

「……笑えと言われて笑えるのは俳優だけだぞ」


ちっ、と私が舌打ちしたら鎹がため息。

ピピッ。

私はボタンを押した。








「テストはどうだったんだ?」


鎹がぶらぶらと歩きながら聞く。


「鎹君達のおかげで上々。平均点ぐらいは取れたよ」


デジカメから鎹を見ながら私は答える。シャッターチャンスは見逃さない。


「そうか、それは良かった」

「どうもありがとう。助かったよ。次もよろしく」

「……まぁ、いいけど」


鎹の呆れた横顔に合わせてまたボタンを押した。

ピピッ。


「…なんか、撮られるのって凄く気になるな」

「気にしないで」

「気にするだろ。しかも俺一人だし。一緒に写ってくれよ、せめて」


何アホな事言ってんだか、この男は。


「客は鎹君一人の写真を御所望よ」

「客て」


鎹が苦笑する。

ピピッ。


「写真なんてそんなに欲しいものかね」

「欲しいんじゃない?鎹君、アイドルの写真とか持ってないの?」

「持ってた事はあるけど…、俺の写真だぞ?」

「女の子はね、好きになったら一直線よ」


イノシシよ。

突撃してくるんだから。


「俺ってもてもてだな。全然そんな気はしないんだが」

「水面下で動いてるからね。一応、ほら、鎹君には彼女さんがいますから」

「あぁ、彼女さんね」

「そうそう。彼女さん」


私がね。


「別れた方が楽かもね」


ため息をつく。「別れるか?」と鎹。


「んー…、いや、ちょっと待って。別れたら別れたで何かめんどくさい事が起こりそうな気がする。ややこしい事態が来そうな気がする。…現状でとりあえず収拾はついてるから下手に動かない方がいいかもしれないわ」


現状維持が一番いいだろう。

下手に動いて火に油を注いだら、本気で大変なことになりそうな気がした。


「じゃぁ、現状維持だな」

「そうね」


高校卒業するまでは、カップル、としておいた方が無難だ。

私の病気も除々にだが治ってきていた。

今は鎹の血を飲むのは四分の一ぐらい。飲まなくても大丈夫になるのは近いだろう。


鎹が笑っていたのでデジカメのボタンを押す。カメラ目線ではないが、これはこれでいいと思う。


「楽しそうだね」

「そうだな」


私は首を傾げる。何で楽しそうなのか不思議だ。さっきまでは嫌そうだったのに。


「撮られるの、慣れてきたの?」


もしや快感でも感じ始めたか。


「んー、うん。まぁ、そうかもな」


鎹がこっちを見て笑ったのですかさずボタンを押す。

ピピッ。


「…やっぱ慣れないな」

「そ?」


今度は私が笑った。









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