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ばんぱいあヴァンパイア  作者: 葉月
最終章 ツナグミライ
33/109

それは『私』が見た真実

「ねぇ、昨日さ、変な夢を見たよ」

「そうか」

「吸血鬼さんが泣いてる夢。変でしょ?泣いてる所なんて見たことないのに」

「そうだな」

「何であんな夢見たのかな。吸血鬼さんはいつだって無表情の仏頂面なのに」

「さあな」

「変な夢…」







――――――――――



かぱりと靴箱を開ければ、そこには自身の靴の上に見慣れぬ白い封筒があった。手に取ってみる。差出人の名前はない。ぺらりと捲る。宛名もない。

差出人の名前も宛名すらもない、ただの真っ白い封筒。中には写真らしきものが入っているのが外見から分かった。


「………」



何だろう、これは。

嫌な予感がした。封筒の中には写真。宛名も差出人の名前もない、あえて教室の机などではなく下駄箱に入れている所から見ても、中にある写真が普通の写真であるとは思えなかった。


最近夢見が悪い。

何を見ていたのか、詳細ははっきりとは覚えていないのだが、あの吸血鬼の男が出てくるという事だけは、はっきりと覚えていた。



嫌な予感がした。


封筒を手にしたまま動けなかった。中を確認しなければいけない。中にある写真がどんな写真なのか、私は見なければならない。


「…………」


意を決して私は封筒からゆっくりと写真を取り出す。写真は数枚入っていた。その写真に写っているのは私。一緒に写っているのは鎹。


だけど、それはただの2ショット写真ではなくて。


ただの二人がいる写真などでは決してなくて。



その写真には。





写真に写っているのは。










「邪魔」

「……っ!!」


後ろからかけられた声に驚き、ばっと振り向く。写真は背後に隠す。


そこにいたのは無気力久遠だった。



「く、くどく…」

「靴」


靴が取れない、と言いたいのだろう。久遠はじとりと私を睨む。


「あ、ああ、ごめん。どうぞ」


私はその場から数歩離れる。久遠は靴箱から靴を取り、履いていた上履きを入れ、外靴を履いた。


そして何を思ったか、私の方をじっと見る。


「な、何?何かついてる?」


顔や頭に何かついているのだろうか。そう思い聞いてみるが、全く違った。


「写真、危ないんじゃないか」

「……!」


どきりとした。

持っていた写真を見られてしまったのだろう。


「う、うん。見られないように気を付ける。ありがと」


久遠は私をその場に残し帰っていった。



最近の久遠はおかしい。

いつもなら、というか私や学校の生徒や先生が知っている久遠ならこんな事言うわけがない。

何しろ無気力やる気なし久遠なのだから。


教室でも久遠はおかしかった。授業中に寝てなかったり、日直の仕事をたまにだがしたり。掃除に出たり。


無気力ではなかった。

やる気なしではなかった。


気力があるか、と言われれば無いと言える。

やる気があるか、と言われれば無いと言える。


だが、今までとは違う。



久遠に何があったのだろうか。



私は頭にとある少女の顔を浮かべてみる。多分、あの少女がらみで何かあったに違いない、と思う。今度聞いてみよう。



後ろ手にしていた写真。

それを前に持ってきて、もう一度確認する。


数枚入っている写真、全てが鎹と私だ。その写真の一枚にマーカーで文字が書いてあった。

時間と住所。



ここに来い、ということだ。



「………」



私は写真を封筒に戻して鞄に入れ、靴を履き替え学校を出る。

指定の時間までまだ少しある。場所は調べなければ分からない。




何の目的か。

どういう意図か。

私に何を望むのか。



何にしろ、ろくなことにはならないだろう。







だって写真には。


私が鎹から血を吸っている所が写されていたのだから。








―――――――――


「ここ…、だよね」


目の前の洋館風な家を見つめる。写真に書いてあった住所はここだった。

だが、明らかに廃墟感が出ていて、いわゆるちょっとしたお化け屋敷状態の家に、私は何かの間違いだろうかと立ち尽くしていた。

じっと家を見つめる。ここで合っているのか。合っていたとして、ここに足を踏み入れる事は自殺行為にならないだろうか。

写真を撮って私の下駄箱に入れた犯人の考えは分からない。ここに呼び出し、何をするつもりか。何をされるのか。

脅されるか。

金を要求されるか。

それとも。


写真なんて何の証拠にもならない。吸血鬼がこの世に存在しているだなんて、きっと誰も信じない。写真を見ても、私が合成だ作り物だと言えばきっと私の方を信じてもらえるだろう。


だから大丈夫。

何が起こっても、脅されたとしても。私が屈しない限りは。


大丈夫。



私は洋館風の家の扉を開いて中へと入った。

外からは解らなかったが、中には電気が点いていて明るい。それほど埃まみれでも蜘蛛の巣まみれでもなく、人の手によって掃除はされているようだった。


誰かがいる。


私は足を進めた。




リビングのような場所に出ると、そこには三人ほど横に座れそうな長さの紺色のソファに座って、カメラを弄っている男がいた。


「お、来た来た」

「………」


若い男だ。

私とそう歳は離れていないと思う。


「本当に来たんだ。危ないことするなぁ、女の子なのに。って、させてるのは俺か。あはははは」

「………」


何なんだ、この男は。


「あの…」

「あ、うん。自己紹介からしちゃう?しちゃおーか。しないと話進まないもんね。でも自己紹介ってちょっと緊張するんだよね。今もうすでに心臓ばくばくなんだ。名前と歳と…、あと趣味とか言うべきだよね。自己紹介だもんね。あ、でも好きな食べ物とかも聞きたい?」

「………」


どうでもいい。

歳も趣味も好きな食べ物も。名前すらどうでもいいのかもしれない。だって、私が気にしてるのはこの男の目的だけ。


何も言わない私に、男は何を満足したのか、うんうんと頷きながら切れ長の瞳を細めて笑顔を向けた。


「俺は名々賀静ななが しずか。三十歳。カメラマンをしてる。君の下駄箱に入れた写真、あの写真を撮ったのは俺。あれ以外にも実はまだあるんだ。見たい?」

「……いいです」


名々賀は残念と笑った。

三十歳。見た目より歳はいっているようだ。


「結構いい感じに撮れてるから逆に見てほしかったんだけど…。ま、いいや。見たかったら言ってよ。いつでも見せてあげるから」

「…何が目的ですか」


話がいっこうに進まなく、らちがあかなかったので私は自ら切り出した。目的は何だと。


「目的?目的、目的か…。んー…、目的?目的っていうか、ただ単に興味があるっていうか」

「興味?」


何処かで聞いた言葉だ。

何処かで感じた響きだ。

私は鎹の顔を思い浮かべる。あの男も、最初は興味から始まった。吸血鬼に興味がある。名々賀も同じか。


「君に興味があるんだ。吸血鬼の進藤ちゃん」


私は自己紹介などしていない。だけど名々賀は私の名前を知っていた。それは当たり前のようでいて当たり前じゃない。この分だと鎹の名前も知っていると思っていいだろう。


「人間と違う生き物。俺達とは別の生き物。そんな進藤ちゃんに興味深々」


パシャリ、と名々賀が持っていたカメラで私を撮る。


「…写真、撮られるのあんまり好きじゃないんですけど」

「ああ、ごめんごめん。でもほら、俺カメラマンだし。写真家だし。無意識っていうか。職業病っていうか。ごめんね」


パシャリ。

また撮られる。やめる気はないらしい。



「…………」



『人間と違う生き物。俺達とは別の生き物』




違う者。



そんな事分かってる。

そんな事、重々承知している。

自分でも何回も言ってきたことではないか。



なのに。


他人から聞くその言葉が、酷く痛いのは何故だろうか。

突き付けられたその言葉に、酷く動揺してしまうのは何故なのか。


私はちゃんと理解している。

私は違うんだと。

私は皆とは違うんだと。


鎹や小日向や瀬川とは、



違う者なのだと。






パシャリ。

名々賀がシャッターをきる。


「俺さ、人じゃないものを撮りたいんだよね」


パシャリ。


いい加減にして欲しくて、私はキツく名々賀を睨み付ける。

名々賀は声なく笑った。


「一番撮りたいのは動物。野性動物。アフリカとか行ってみたい。いいよね野性動物。可愛くてさ。でも俺まだ経験とか少なくて。本当は人じゃないものを撮りたいんだけど、今は人を撮る仕事もやらされてる。ほら、まだ俺若いからさ。二十三だし」


…さっき三十歳って言ってなかったか。


「三十って言った方がはくがつくでしょ。今後は髭とか伸ばして行こうか、とも思ってるんだけど、どう思う?」

「………」


知るか、の意で無言で返した。


人じゃないものに疼くんだよね、俺の心は。

そう言って名々賀はカメラを構える。構えただけで撮りはしなかった。


「進藤ちゃんを見つけたのもホント偶然でさ。俺のレーダーが感知したのかな、こうビビビッと。俺ってそういうのに敏感なんだ。で、駄目もとでここに呼んでみたんだけど…。駄目もとでも何でも、やっぱ何でもするべきなんだよな。やって良かったな、俺。こうやって会えたし話せたし」


笑顔の名々賀。

何を考えているのか分からない。結局何がしたいのか。写真を撮りたいのか。吸血鬼である私の写真を。会いたかっただけか。近くで見てみたかっただけなのか。吸血鬼と話をしてみたかっただけなのか。


「名々賀さんの、目的は何ですか」


何がしたい。

何のために私を呼んだ。


「だから目的ってのは別にないんだって。ただ興味があっただけ。進藤ちゃんに。吸血鬼である君に…」

「…………」

「あー、でも会っちゃったら駄目だね。興味の底は深くなるばかりだよ。ね、血を吸われるのってどんな感じなのかな?鎹、だっけ写真の彼。彼の血って美味しい?」


鎹の血が美味しいかどうかなんて答える必要はないと思った。だから私は無言で通した。

名々賀は苦笑する。


「進藤ちゃんってば、ちゃんと会話しようよ。俺、君と話がしたいだけなんだけど」

「………」


残念、と苦笑いした名々賀は「…じゃあ」と切り出す。


「俺の血を吸ってみてくれない?」

「…………………」


鎹と同じ事を言う。


「嫌です」

「嫌なの?じゃあ仕方がないか…。撮った写真、使っていい?」


鎹と同じ事を言うのに、この男は鎹とは違う。違うのはこの男が私を脅しているから。

写真を何に使うのか。

私には分からない。


「血を吸ってくれる?進藤ちゃん」



この男は鎹の事も知っている。調べている。私だけじゃない。

鎹のことも、調べたんだ。

写真をどう使われようが、否定し続けていればいいだけの話だ。だが、写真には鎹が写っている。





巻き込むわけにはいかない。




血を吸うぐらいで済むのなら、そんな事ぐらいでこの男の気がはれるのなら。



私は喜んで吸血鬼となろう。


お望み通り、

血を吸ってあげる。




卑劣なこの男の血を。




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