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ばんぱいあヴァンパイア  作者: 葉月
第四章 友達
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むず痒いその言葉は、

私は鎹の手を取った。

私の意思で。

私の意思を信じて。


「けど、どうしてあんな事になったんだろうな?もしかして、あの時よっぽど喉が渇いてたのか?」


吸血鬼的な意味で。

そう鎹が尋ねる質問に、私は淡々と答える。


「喉は渇いてたよ。もの凄く。全然血を口にしてなかったしね」

「何で口にしてなかったんだよ。確か、二週間にいっぺんは口にしないといけないんだろ?」

「時間がなかったの。最近はいつも玲衣君と一緒にいたし」


それに鉄臭い血の味は、私を酷く不快にさせて口にするのが億劫だった。


と、私はここではたと気付く。


「ねえ…、凛ちゃんは?こんな所見られたら凛ちゃんが……」


教室での鎹とのやり取り自体がすでに致命傷だったが、私はこんな所見られたら、と言う。


だが、鎹は少しだけ目を伏せ、それは大丈夫だと言う。


「別れたから」

「わか、別れた!?」


私は思わず叫ぶ。


「まぁ別れた、というよりフラれた、だな」

「フラれ……、何?鎹君、凛ちゃんに何かしたの?」


佐倉が鎹を振るなんて想像もしていなかった。鎹が何かしたに違いない。佐倉の嫌がる何かを。


「何かした、と言えば何かしたかな…。俺が不甲斐ないばかりに…」

「な、何したの?」


よっぽどの事をしたのだ。きっと最低なことを。


「友達を放ってはおけなかった」

「友達?」


友達って誰だ?そんなに危機迫ってる友達なんて、鎹の周りにいただろうか。

むーん、と一人で考えこんでいたら無言で鎹が私を見ていた。とても悲しそうに。


「…………?」


もしや私?の意で私は自身を指差す。


「お前以外に誰が?」


その言葉に私は目を見開く。


「友達だったの!?」

「酷いっ!」


鎹が泣き崩れるかの如くしゃがみ込み、顔を手で覆う。


「お前は俺を何だと思ってたんだ!!」


何だ、って。


「いや、クラスメイトだけど……」


少々お節介な。

ただのクラスメイトの男の子。


鎹が酷く傷ついたかのような悲壮感で、がっくりと肩を落としている。

そんな鎹を私はまじまじと眺めていた。



友達。



ともだち。



「……友達」


確かめるように、声に出して言ってみた。

むず痒かった。


なんだかむずむずする。

だけど、どこか心地よい響き。



「…友達、なの?」

「お前はどこまで俺を傷付ける」




そうか。


友達。



友達なのか。



ただのクラスメイトじゃなく。




クラスメイト、ってだけじゃなく。



『友達』






自然顔が緩んでいた。



笑みが溢れる。



ふふ、と忍び笑っていると、鎹がそれに気付いたのか不服そうな顔をした。

それがまた楽しくて。



「あっはははっ。変な顔!」



友達。



私と鎹は友達らしい。



変なの。

私と鎹が友達だなんて。





変なの。





「あははははっ」

「…笑いすぎじゃね?」



鎹は私の友達。

クラスメイトでも、血をくれる人でも、ただの知り合いでもない。



友達。




私は鎹の友達なのだ。




おかしかった。




そして楽しかった。




嬉しかった。




私の友達。

鎹双弥は私の友達。




友達。








そうして友達になった私達は二年生を無事に終え、三年生へと進級した。




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