俺がすべきこと vorbesc.玲衣
玲衣視点
「じゃ、何に乗ります?」
俺はそう聞いた後、進藤先輩と向き合うように体を動かす。
「進藤先輩、なんか乗りたいものあります?特に何も希望とか言わなかったですけど」
遊園地に入ってから、進藤先輩が何かに乗りたいというのを聞いていなかった。そもそも、遊園地があまり好きではないのだろうとは思う。だが、一応聞いてみた。
「あー…、特にない、かな」
聞いた俺に対して、特にないと進藤先輩はそう返した。
だろうな、とは思ったし、多分考えてもいないだろうなとも思う返事だった。少し前からおかしいな、とは思っていたので俺は早々にこう切り出した。
「そうですか。じゃあ、この後俺にちょっと付き合ってもらえませんか?」
進藤先輩の是非を聞かずに、凛と鎹先輩に「二人でどこか回ってきなよ」と促す。
「別行動?皆のが楽しいのに」
凛が不服そうな顔をした。
遊園地に入って、最初こそどこか進藤先輩に対してそっけない感じが少し出ていた凛だが、一緒に遊ぶうちに自然とそれも無くなっていた。凛は進藤先輩が嫌いなわけではないのだ。ただ、鎹先輩の事があるから普通に関係を築けないだけで。
「二人で行きたい場所があるんだ。悪いけど」
俺はそう言った。
凛に、そして鎹先輩に聞こえるように、伝わるように、はっきりと。
『二人で』、と。
鎹先輩の様子を窺う。鎹先輩は進藤先輩を見ていた。
聞いていたのかいないのか、よく分からなかった。
「行きましょう」と、すっ、と手を差し出せば進藤先輩は別段何も言わず俺の手を取ってくれた。それに少し心が痛んだ。何も言わずに、ただ黙って俺にしたがってくれる進藤先輩。俺のわがままに付き合ってくれる進藤先輩。心が痛む。俺がこの人にやっていることは最低な事だ。凛のために、俺はこの人を良いように使っている。
俺は進藤先輩の手を握った。
「じゃ、またメールするから。後でな」
凛にそう言う。凛は複雑そうに見ているだけだった。
鎹先輩が何か言いたげに俺を見た。だけど俺はそれを無視して進藤先輩の手を引き歩きだした。鎹先輩の言いたかったことは聞かなくても分かったから。
進藤先輩は具合が悪いのだ。
休憩場。
俺は進藤先輩にアイス珈琲の入った紙コップを渡した。
「ありがとう」
進藤先輩が受け取りそれを口にする。少し微笑した。
良かった。珈琲で間違いではなかったらしい。
何が飲みたいか、何が食べたいか。それを聞いたが進藤先輩は「特にない」と言った。だから自分で考えるしかなかったのだ。進藤先輩が望んでいるものを。
進藤先輩と嘘の彼氏彼女になって一緒にいる時、珈琲を飲んでいるのをよく見かけていた。好きかどうかは分からないが嫌いではないだろう。そして俺はあっさりした感じの珈琲を選んだ。それで正解だった。
「大丈夫ですか」
俺は落ち着いてからそう進藤先輩に聞いたのだが、進藤先輩は何を勘違いしたか珈琲の感想を言った。わざとか天然か。それとも具合が悪くて頭が回っていないのか。
さっきもそうだった。
休憩場までの道のりで、進藤先輩は、鎹先輩と凛を二人きりにしたかったからこんな事してるのかと聞いてきた。それは違う。二人きり、なんていつもの事なのだから。それに二人きりにするなら一番最後、観覧車でそれを実行した方が利があるのだから。
俺はあの時、ただ見せつけてやりたかったのだ。
鎹先輩に。
貴方が入る余地はないのだ、と。
進藤先輩は俺のものなのだと。
だから貴方は凛を見ていろと。
凛だけを見て、凛だけを好きでいるべきなんだと。
『二人で』を強調した。
進藤先輩が自分から俺の手を取るのを見せつけた。
凛のために。
姉のために。
双子の片割れ。
半身である凛のために。
俺はあの時、進藤先輩の具合が悪いのを利用して、凛のために行動した。
「具合、あんまり良くないですよね?それが大丈夫ですか、って聞いてるんですけど」
見当違いな返事をした進藤先輩に、俺は目を細めてそう言う。この人は本当にわざとやっているのではないだろうか。だが、見当違いは俺だった。
「…あからさまに出てた?」
隠し通せている、と思っていたらしい。
不安げな表情の進藤先輩に。俺は首を横に振る。
「上手く隠してたと思いますよ。凛は気付いていなかった。……鎹先輩も気付いてなかったんじゃないですかね」
嘘だ。鎹先輩は気付いていた。進藤先輩の具合が悪い事を。
だけど言わない。
言ったら駄目だと思った。
進藤先輩が鎹先輩を好きだと言う事はありえないと思う。好きなのだとしたら、ここまで俺に付き合ってくれない。俺の言う事をきいて、凛のために動いてはくれないはずだ。
だけど、鎹先輩と進藤先輩の間には何かある、と思う。
二人の関係が分からない。
噂であったような、ただの男女関係には見えない。鎹先輩の方は分からないが、進藤先輩を見てきてそんなものでは無かったのだろうと感じる。
だから不安だった。
鎹先輩は凛の彼氏だ。鎹先輩が進藤先輩を気にしているのは分かってる。それが恋愛感情なのかと聞かれれば、そうだとは断定できない。
分からないから引き離すしかない。
引き離して、見えなくすればいい。
だからそうしている。
今も、こうやって。
なのに。
「ん、んー…ま、少しね。寝不足で」
「言って下さいよ」
「大丈夫かなって」
「大丈夫じゃないじゃないですか」
「あはははは」
進藤先輩が笑う。
それを見ていると胸が痛む。心が痛む。
大丈夫だ、と。
心配ない、と。
無理して我慢して、俺に付き合ってくれる進藤先輩を見ていると、俺がひどく悪者のようだった。
この人を傷つけている。俺が。俺の手で。俺の勝手で。この優しい人を。
ずっと傷つけている。
それなのにこの人は「無理をしていない」と言う。
きょとん、とした顔で何を言ってるんだと言った感じで。
どこまでも優しい人。
どこまでも馬鹿な人。
俺は貴方を利用しているのに。
凛のために利用しているだけなのに。
気付いてますか?
気付いてませんか?
気付かないフリをしているのですか?
気付いていて、それでも俺に手を貸してくれているのですか?
真っ直ぐに俺を見る進藤先輩。
その真っ直ぐな黒い瞳が、俺の胸をたまらなく騒がせる。
「じゃあ、進藤先輩。俺に何かして欲しい事とかあります?」
俺が貴方のために出来ることは何だろうか。
俺は貴方のために何かしなくてはいけない。




