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ばんぱいあヴァンパイア  作者: 葉月
第三章 血
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キレる女。呆れた男。巻き込まれる男。


「で、一体どういう事なんだ?」


私が聞きたい。

今のこの状況は一体全体どういう事なんだ?と。


ここは東棟三階にある第二多目的教室。いつも私が鎹から血を貰うときに使っている、部活でしか使われない人通りも少ない教室だ。そして今ここには私と鎹、そして何故か小日向までがいて、何故か私が鎹からえもいわれぬ尋問を受けていた。


今日の五時限目、化学の授業中に起きたあの事件の後、教室内はあれに荒れた。現場を見ていたクラス連中から「どういう関係」「付き合ってるの」「怪しい」「舐めた」「ちゅーした」「らぶらぶ」などなど、あらぬ疑いをかけられ騒ぎに騒がれ、何も気付いていなかった連中も「何事だ」「何かあったのか」と一緒になって、さらに騒ぎが大きくなり一瞬にしてクラス全員の知る事となった。


クラスメイトから口々に発射される猛攻撃に私は焦り戸惑いながらも必死に否定していたのだが聞く耳もたず。

さらに言えば指を舐められたのは事実なのだ。そこを突っ込まれても、私には何も言うべき言葉が見つからない。ただただいきなり舐められたのだとしか言えない。

舐めた当の本人久遠は、クラス連中からの攻撃に「うん」とか「ああ」などと、絶対に聞いてないだろこの男、みたいな適当な返事をぼけっとした表情でしていた。そのせいでますますクラス連中の質問責めの被害にあう私。

久遠に文句言ってやろうにも周りを固められ、あーだこーだ言われては言おうにも言えず。私はこの数時間で屍のようにぼろぼろにされてしまったのだった。


そして放課後。

逃げるように帰ろうとした所を私は捕まり、東棟三階にある第二多目的教室であるここにいる、というわけだ。




「付き合ってるのか」

「付き合ってない。教室でも私さんざ皆に言ってたでしょーが」

「付き合ってもないのに指を舐めるとはふしだらな」

「ふしだらって」

「ふしだらな」

「二回も言わんでいい」


はぁ、とため息をつき、私は小日向に向かい合う。


「小日向君からも何か言ってやってよ」


ため息混じりにそう言うと、小日向は「…本当に付き合ってないんですか?」とおずおずといった感じで聞いてきた。


「小日向君までそんなこと言うの?!」


違うってこんなに言ってるのに!よもや真面目な小日向まで信じてくれていなかったとは!!


「いや、まぁ、なんと言いますか…」


なんと言われても信じていないことには変わらない。ちょっと裏切られた気分だった。


「付き合ってるのか?」


鎹が今日何回目かも解らないほどの質問を私に向けて尋ねてくる。

いいかげん、私の苛々も我慢の限界が来ていた。


「…何度も、何度も何度も何度も何度も何度もなんどっっっも言ってるけどね!!!!久遠君とは何もない!!付き合ってない!!何の関係もない!!!クラス連中もだけど、私が違うって言ってんだから信じなさいよね!!!何回言わせれば気がすむわけ?!いいかげん疲れる!!」


ぜはーぜはーと息切れしながら怒鳴り付ける。いくら人通りが少ない東棟三階の場所だからと言って、あまり大声を出すのはよろしくないのだがそれに気を使えるほど、この時の私に心穏やかさはなかった。


「大体、普通に考えてないに決まってるでしょ?久遠君だよ?やる気なしの無気力久遠だよ?そのうち空気になる、とか意味不明な事言われてる久遠君だよ?半年も一緒にクラスメイトしてきて分からない?絶対ないから!久遠君はないからっ!!」


あの男に惚れる女など、世界中探しても絶対に一人もいない。寧ろいたら止める。全力で止める。


「駄目男が好きな女子もいるだろ。なぁ小日向」

「えっ!?あ、はい、そう、ですかね?」


急にふられた小日向は驚きに肩を揺らしながらも、しどろもどろしながらそう言って乾いた笑いを溢す。


「私は、駄目男が、好きな、女子、じゃない、から」


一言一言強めに言葉にし鎹を睨む。どうしてもこの男は私と久遠の関係をどうにかしたいらしい。本気でぶちギレそうだった。


「もし仮に私と久遠君がどうにかなってても、それを誰彼構わず言わないといけないことなんてないし。それを周りの他人が土足でどかどか踏み荒らすなんて人としてどうなのよ」

「結局、久遠とはどうにかなってるわけだ」

「だからっ…仮にだって言ってるだろーが…っ」


苛々する。

小日向が私のただならぬ空気に感ずいたのか、「ま、まぁまぁ」と間に入ってきているのに、それすらも気づかないほど私は怒りに奮えていた。


「そもそも鎹君にそこまで言われる筋合いない!お前は私の奥さんかっ!!」


お前しつこいっ、とハッキリキッパリ言ってやる。鎹は「私の奥さん」発言に眉を上げいぶかしみながらも、これまたキッパリハッキリ私に向かって宣った。


「ズルい。進藤はズルい!」

「はぁ?」


何がズルいのか全くちっともピンとこない。小日向も私と同様なのか、何を言ってるんだろうと首を傾げている。


「俺は彼女を諦めたのに、進藤は彼氏を作る気か!」

「…………」


私はその場に崩れ落ちた。頭を抱える。


「小日向君、私もう無理」

「し、進藤さん」



頭がいたい。


今日は一体全体どういう日なのだ。これほどまでに追い詰められ、追い込まれ、精神的に殺られた日を私は知らない。

一体全体何だってこんな事になっているのか。原因は何だ。誰が悪い。どこから間違った。何が間違ってしまったのだ。


席替えをして

新しい席になって

授業を受け

共同作業も出来ず

授業を受け

私がやらなくてもいい事をやって

授業を受け

問題に苦しめられ

授業を受け

眠くなって

昼休みに友人らから憐れみと意味不明な助言を受け

授業を受け

指を舐められ



大騒ぎ。








私が何をしたというのですか神様。










「疲れた」


ぽつりと溢した一言は、きっと鎹の耳には届いていなかったのだろう。

鎹は座り込んで頭を抱える私にこう言ったのだから。


「進藤が彼氏を作るなんて俺に対して不誠実だ」









ぷちりと音が聞こえないまでも、私の中の何かがぐしゃりと潰れ、頭の中が妙に冴え渡る気がした。




私はゆっくりと立ち上がり静か過ぎる教室の中にいる、ある一定の人を何の感情も持たないまま見て口を開いた。


「二度と私に話しかけるな」

「し、進藤さん…」


小日向の怯え混じりの私の名を呼ぶその言葉も、今の私には酷くどうでもいいもののように聞こえた。

さすがの鎹も一瞬たじろぎ、何も言えずにそこにいた。


「鎹君が彼女を作ろうが作るまいが私にはどうだっていい。どうでもいい。勝手にして。好きにやって。だから、私には二度と関わらないで。話しかけないで。金輪際一生近寄らないで下さい。今までありがとうございましたさようなら」



私は教室を出る。

追いかけてくる者の姿は無かった。










その頃東棟三階、第二多目的教室、進藤さんがいなくなった教室。


僕は鎹君をちらと見てとりあえず声をかける。


「鎹君…さすがにあれはないんじゃないですか」

「…………」

「思いっきり怒ってましたよ」

「……怒ってたな」

「追いかけます?」

「追いかけてどうにかなると思うか?」

「……思いませんね。下手したら更に取り返しのつかないぐらい怒らせる事になると思いますよ」


はぁ、と鎹君がため息をつく。


「やっぱり久遠と付き合ってるって事なのかな」

「…………」



それはないと思います。

と言ってあげたかったが鎹君のあまりの解ってなさに漠然と不安を持った僕は、口を開く事も出来なかった。



僕は何かとてつもなくややこしい事態に巻き込まれてしまったのかもしれない。




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