繋ぎ屋つなぐ『肆』 vorbesc.でぃふぁれんとわーるど。
鎹屋はいわゆる一種の金物屋でございます。大きなものから小さなものまでありとあらゆる物を鎹屋は形作って来ているのでございます。
「蔵が沢山あるのですね」
案内された蔵の一つ、その蔵の他にも多数の蔵がつなぐの視界には入ります。不躾ながらきょろきょろとはしゃぐ子供のように辺りを観察してしまうつなぐの姿に鎹屋の一人息子、双弥はくすりと笑います。
「はい。用途によって蔵は使い分けておりますゆえ……、こちらの蔵には家で使う家財道具や小さな飾り物などがおいてあるんですよ」
手にした真鍮で出来た鍵を使い双弥は蔵の扉をギギギと開けました。中にはつなぐが見た事の無いような何に使うのかもわからない品まであり、蔵の中足を踏み入れたつなぐはまたしてもきょろきょろと首を動かしてしまいます。奥の方には二階へと繋がる階段もあり、この蔵一つとってもとても大きな物だと分かりました。
「それで鎹様。妖かしはこの蔵の中現れるのでございますか?」
「えっ!い、いや、そ、そうです……ね」
歯切れの悪い双弥を不思議に思うも、もしかしたらこの広い蔵の中何処にいるのか分かっておられぬ様子なのかとお見受けし、つなぐは一人その妖かしを探します。
蔵の片隅、物の影。つなぐは妖かしを探します。
「あ、あの、繋ぎ屋さん」
一緒に妖かしを探してくれている様子の双弥がつなぐに声をかけます。
「何でしょう?」
「あ、あの、つ、繋ぎ屋さんには、その……良い人はおられるのでしょうか」
「…………は?」
妖かしを探すつなぐの手が双弥の突拍子もない発言によりピタリと止まってしまいます。
「あの、鎹様。よく聞こえなかったのでございますが、もう一度言って貰えませぬか」
「その……、良い人はおられぬのか、と……」
つなぐは唖然としてしまいました。鎹屋の一人息子と言えば巷では良く出来た技量の子だと大変持て囃されている存在です。若きその歳で父にも負けない金物を造り、さらには人柄も良く大変頭の回転も速い。この息子あっての鎹屋とそんな風にも噂されている人なのです。
それがどうしてこのような色恋沙汰のまるで阿呆の様な発言を成されるのか。
「(鎹屋の息子は阿呆ではないはずなのですが……)」
もしや自分は何かに化かされてでもいるのでしょうか。そんな疑念もつなぐの心に湧きました。
「あの、繋ぎ屋さん……?」
「……おりませぬ。父様も兄の静も、そして私も。その様なものとは皆目縁がございませぬゆえ」
つなぐのその発言に双弥はほっと胸を撫で下ろします。繋ぎ屋の主人やつなぐの兄の事などは微塵も興味がありませんでしたが、これでつなぐには良い人がおらぬ事がわかりました。双弥の顔には自然笑顔が零れます。
「で、ではっ、繋ぎ屋さんはどのような方がお好きなのでしょう」
「……父様は少し間の抜けた、だけど明るい女性。あに様は……よく分かりませぬ」
静がこの女性が良いなどと言う話は聞いたことが無い。最近ではつなぐが好きだと冗談めかしていう静だがあれが静の本心だとはとても思えないつなぐなのでありました。
「…………で?」
「で、とは」
何か続きを促すかのような双弥の態度につなぐは首を傾げます。聞かれた事にはもう既に答えた筈なのですが。
「い、いや、その……つ、つな、つな、ぅ……何でもありません」
「はぁ……?」
涙を流す双弥。双弥の気持ちは残念ながらつなぐには届いておりませんでした。
「それで鎹様。この辺りには妖かしの姿は見受けられませぬゆえ二階に上がりたいのですが宜しいですか?」
「あ、はい……」
双弥の許可を取りつなぐは二階にあがります。ですが二回でも妖かしの姿を確認する事は出来ませぬ。
「鎹様、妖かしは夜にならぬと出てこぬ類の者なのでしょうか」
「うっ……、そ、その事なのですが、実は……」
妖かしの話は嘘なのです。
そう正直に謝ろうとした双弥でしたがそれよりも前につなぐが「しっ」と人差し指を口に立てるものですから双弥は口を閉ざしました。
「あ、あの、繋ぎ屋殿。何か……?」
「鎹様、何か聞こえませんでしたか?」
小さな音でも聞き漏らすまいと集中するつなぐの姿に双弥もまた静かに耳を澄まします。すると何処からかカタコトと音がするではありませんか。
「ど、泥棒」
「いえ、泥棒にしては音が小さすぎまする。きっと鎹様の仰られていた妖かしでしょう」
「え」
妖かしの話は嘘八百。なのに妖かしがいるとはどういう事でしょう。
「こちらです」
音のする方へとつなぐはそろりと足を動かします。そんなつなぐに「危険です!」と双弥。
「何がいるかわかりませんっ、俺の後ろに隠れて……」
「鎹様。妖かしに関しては鎹様より私の方が得手おりまする」
「し、しかしっ」
それは本当に妖かしなのか……?
双弥の心は気が気じゃありませんでした。もし賊だったら?つなぐが危険に晒されます。
「と、とにかく繋ぎ屋の娘さんは俺の後ろに……」
「いました!」
慌てふためく双弥とは違いつなぐは冷静に音の正体を見つけました。「いました」の声に双弥はつなぐの前に咄嗟に出るも、そこにいたのは賊などではなく。
「……まだ産まれたばかりの様ですね」
そこにいたのは小さな小さな片手で収まるほど小さな、そんな子供の妖かしなのでございました。
次回予告
蔵の中で見つけたのは産まれたばかりの小さな小さな妖かしの子供。そんな子供との縁を繋ぐため、つなぐは双弥の前で自身の力を解放する。
次回、最終回。妖かしと人との縁を繋ぐのはとても難しい事。だけどそれを望むのは悪い事ではございません。だからこそ繋ぎ屋は心と心を繋ぐため、怯えられようと蔑まれようと今日も力を使うのです、な話




