繋ぎ屋つなぐ『参』 vorbesc.でぃふぁれんとわーるど。
一目見たその瞬間から恋に恋する事もある。鎹屋の一人息子双弥が昔馴染みの友人である瑛士と空に語る話は最近流れて来た『繋ぎ屋』という一風変わった職を生業とする家族の事でありました。
「繋ぎ屋の娘さん?あぁ、つなぐさんの事ね」
「知っているのか、瀬川」
勿論と空。ですがこの空、知っていると言いましても二言三言会話を交わしただけでつなぐとは知り合い程度にもなりませぬ。
「そのつなぐさんに双弥は惚の字というわけか」
「惚の字というかなんというか……ちょっと気になる」
それが惚の字なのだと言う事に気付いていぬのは本人のみ。
「なら早くつなぐさんに気持ちを伝えた方が良いと思うわよ。静さんもつなぐさんが好きみたいだし」
「静さん?」
その名前は繋ぎ屋の息子の名前ではありませぬか。その静がつなぐを好きとはどういう事か。そもそも二人は兄妹ではないのか。双弥は首を傾げます。
「あそこの家族は皆血の繋がりが無いそうなんですよ」
おっとりと頬笑み瑛士が言います。
「息子の静さんも娘のつなぐさんも、繋ぎ屋さんに拾われた拾われ子らしいんです」
「そう。だから一つ屋根の下、男と女が一緒に寝て食べて一緒の時間をずーっと共に過ごして来ているってわけ」
「……!!」
それは既に親公認の仲と言う事なのでしょうか。双弥は大層傷付きます。目には涙がうるうると溢れて来ております。ですが瑛士が慌てたようにこう取り繕って下さいました。
「あっ、で、でも静さんの一方通行なんだよね、空ちゃんっ」
今のところはね、と空。意地が悪いにも程があります。
「でもこれから先どうなるか分からないわよ。何せ一つ屋根の下一緒に住んでいるんだから。もしかしたらもう既に……」
「空ちゃん!」
楽しむ空に瑛士がぴしゃりと窘めます。
「ごめんごめん。でも、早くつなぐさんに想いは伝えた方がいいわよ?」
「だけどどうやって……」
双弥とつなぐは話した事などございません。いきなり話しかけ想いを伝えた所で怯えられるか断られるか訝しげに見られるか。その三択しかありませんでしょう。
「ならまずは仲良くなる事よね!」
楽しそうな空に双弥と瑛士は嫌な予感しか致しませんでした。
繋ぎ屋の娘さんが町を出る所を見たとの情報を掴み、三人は町の出入り口付近へとその足を向けました。
「まずは自然な出会いから」
空言う自然な出会いとは、双弥がつなぐにぶつかるというものでした。それが自然な出会いになるのかと言われれば謎ですが、双弥は今、藁をも掴む思いなのです。
「いい?つなぐさんを見つけたら何食わぬ顔で歩いて行って肩と肩をぶつける。そして言うの。『ぶつかってしまいスミマセン。詫びにこの後団子でも、と」
「ぶつかってしまいスミマセン。詫びにこの後団子でも」
双弥は複唱します。一字一句間違えずに。真面目です。
「その後は団子屋で和やかに会話。そののち次に会う約束を交わす。ばっちりだわ!!」
「ばっちりだな!!」
「…………」
一人瑛士のみがばっちりなのだろうかと不安でしたが、その不安もどうやら無駄に終わってしまう様でした。何故なら戻ってきたつなぐの隣にはあろうことか一人の男がおりましたのですから。
「がーーーん!!」
「あらら」
「そ、双弥君っ落ちついて」
はてさてつなぐの隣を歩くあの男は誰でしょう。それは繋ぎ屋の依頼人である久遠希遙だったのですが、この三人がそんな事を知っているはずもなく。
「つ、繋ぎ屋の娘さんには既に男が……」
「双弥、ご愁傷様」
「ちょ、ま、待って下さい。もしかしたらほら、ただの知り合いなのかもしれませんしっ」
瑛士の意見虚しく双弥の心には大きな傷が付いてしまいました。なんと哀れな事でしょう。
「残念ねぇ、双弥」
「ううう」
「もう、空ちゃん!あの、双弥君もう少し近付いてこっそりと二人の話を聞いてみましょう。そうしたら二人の本当の関係が分かります!」
その瑛士の提案にて、三人は見つからないようにこそりこそりと二人の後を追いかけました。あまり近付くとバレてしまうので距離は多少取りつつ二人の会話に耳を凝らします。すると男の声が聞こえました。
「俺と一緒になってくれと言ったのだ」
「いっ!!」
あまりの男の発言に叫び声を上げてしまいそうだった双弥の口を空と瑛士が慌てて塞ぎます。見つかっては洒落になりません。
「い、一緒!今あいつ一緒って、いっしょってっ!!」
「お、お、お、お、お、落ちつきなさいよっ双弥!!一緒って言ってもそれが一緒なのかどうかは分からないしもし仮に一緒なのだとしても一緒が一緒でいっしょうのいっしょ」
「……空ちゃんも落ち着きなよ」
一番冷静なのは瑛士なのでした。
「娘さんとあの男は早くもその様な仲に……」
「双弥……」
さすがに可哀想になったのか空が双弥を憐れみます。何だろう、この三門芝居と一人瑛士は思います。芝居などでは無くこの時の二人は本気そのものだったのですが瑛士の目にはそう写っておりましたのでした。
「はぁ……。双弥君、空ちゃん。二人ともちゃんとあの二人の会話を聞きなよ。どうやらあの人はつなぐさんに一緒になって欲しいと言った訳ではないみたいだよ」
どうやらあの男の想い人は他にきちんといる模様。双弥はそれを聞きほっと胸を撫で下ろします。
「よ、良かった」
「どうやらつなぐさんが間に入って二人の仲を取り持とうとしているみたい」
それならあの男とつなぐさんの間には何もありません。ということは。
「双弥!次の作戦を実行するわよ!!」
「おう!」
「…………」
大丈夫だろうかと心配しているのは瑛士のみでした。
「つ、繋ぎ屋さん!」
名前を呼ばれふり返るとそこには見慣れぬ男が一人。ですがつなぐはこの男を目にした事がありました。
「……確か鎹屋の」
「は、はいっ!鎹屋の双弥と申します。知って下さっていたのですか!」
きらきらと瞳を輝かせる男につなぐはこくりと頷きます。鎹屋と言えばこの町では五本の指に入るほどのお金持ち。知らぬ者などおりませぬでしょう。商売をする者ならそれは知っていて当然の事なのです。
「……お金持ち」
ぼそりとつなぐは呟きます。出来る事ならこう言った者からの仕事を沢山承りたいものです。
「……?何か言われましたか?」
「いえ、何も。それで鎹様、私に何かご用でしょうか」
そう尋ねるつなぐに双弥は慌ててごほんと咳払い一つ。そして「あ、あー、あー」と何やらよく分からない発声練習を始め、気が済んだのか「よし」と小さく呟いた後つなぐへと視線を戻し発声練習の快無く言葉を詰まらせながらこう言いました。
「お、う、わっ、私の家の倉に妖かしが住みついてひ、しまいまし、てっ!是非見て頂きたく!!」
「……はぁ」
鎹屋の一人息子双弥の用事はどうやら仕事の話の様でした。
影から二人の町人、空と瑛士がガッツポーズを決めていた事は繋ぎ屋の娘、つなぐは梅雨知らず。
次回予告。
鎹屋の双弥に頼まれ妖かしが出ると言う倉へと赴いたつなぐ。だけど鎹屋の一人息子は妖かしには関係の無い質問ばかりをつなぐに問いかけて来て。
次回、やっと話が出来ました。やったね!だけどまさか本当に妖かしが倉に住みついていようとは、な話




