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ばんぱいあヴァンパイア  作者: 葉月
第一章 吸血鬼
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吸血鬼の女

吸血鬼になって早幾年。

人間から血を吸うことも、動物から血を吸うことも、草木や花からエネルギーを貰うことも随分と馴れてきた。


草木や花からエネルギーを貰う時は周りに人間がいないか注意をし。

動物から血を吸う時は周りに人間がいないか確認しながら、血を吸いすぎないように注意する。


そして人間の血を吸う時は。







喉が渇きを覚える。

教室には私ともう一人。私は吸血鬼でもう一人は人間の男。

クラスメイトの男の子。


「めんどくせぇなぁ」


机を合わせて向い合わせに座り、教師から頼まれた雑用を二人で片付ける。

日直だったがために押し付けられたプリント作り。めんどくさいのも無理はない。


夕方の教室に二人。

喉が渇く。

前に人間の血を飲んだのはいつだったか。


黙々と作業しながら、私はそんな事を考えていた。

学校で、自分の教室で、しかもクラスメイトの血を吸うことはこれまでしてこなかった。

それは私が吸血鬼である事がバレてしまう可能性が高いから、という理由とクラスメイトの血を吸って学校生活に支障が出るのを少なからず恐れていたから。


ああ、

それにしても喉が渇く。



考えまいとすればするほど意識がそっちに行ってしまうものなのだな、と自嘲する。


仕方がないか。





私は一度目を閉じ、ゆっくりとその目を開ける。目の前が真っ赤な世界に染まる気がしたがそれは気のせいだ。私が変わろうとも世界はその色を変えはしない。


前に座るクラスメイトの男の子の名を呼ぶ。

男はこちらを見、私を見る。

視線が合い、私の赤く染まった瞳を見て男は驚愕するが、その後すぐに意識を朦朧とさせるかのようにゆっくりと体を傾がせた。目は何処か遠くを見ているかのように焦点が合っていないように思える。


私は立ち上がり男の子に近付き、顔にそっと手を添え、首もとに顔を近付け、


その適度に陽にやけた細い首もとに、ゆっくりと二本の鋭い牙をたてた。


口の中に広がるのは生暖かい人間の血。鉄臭くて赤い色の液体。

私も随分と吸血鬼らしくなってきたものだなと思う。初めは嫌で嫌で、怖くて恐くて仕方なかったこの行為も手馴れたものになってきた。

この行為に対する罪悪感も嫌悪感も、泣きたくなるようなあの感情も、いつから無くしてしまったのだろうか。


人間の血が甘く感じることはない。ただ鉄臭いだけの液体だ。美味しいとも思えない。今までも、そしてこれからもそうだと信じたい。

なのに禁断症状のように飲まないと喉が渇きを覚える。

それが吸血鬼としての宿命なのか。

吸血鬼になってしまった私の宿命か。




カタッ、と音がした気がして私はびくりと肩を揺らす。

クラスメイトの首から牙を引き抜き、振り向く。



「大胆な事してるなぁ」


そう言って驚き顔でこっちを見ていたのは、クラスメイトのかすがいだった。


見られた、と焦る気持ちとバレたと緊張する気持ち。そして何故鎹がいることに気付くことが出来なかったのかと戸惑う気持ち。

そんな感情が体の内を犇めく中に、もう一つ、何処か少し安心した気持ちがあるのは何故なんだろうか。

吸血鬼だとバレたら、もうここにはいられないのに。人間ではないとバレたら殺されてしまうかもしれないのに。



吸血鬼だとバレてはいけない。


私は鎹から顔を背け、口許を拭う。血が付いている訳ではなかったが、もしかしたらの可能性も考えてとった行動だ。

その間に先程まで血を頂いていたクラスメイトの首もと、私が牙を突き立てた所も確認する。

舐めとる事の出来なかった血が首を汚していた。



「進藤って新谷のこと好きだったんだな」


そう言った鎹は何か勘違いをしているらしい。私がこの男、新谷の血を吸っているのを見てはいないのだろうか。

それならそれで誤魔化せばいいだけの話だ。


「違うよ。先生に頼まれた日直の仕事してたら新谷君が寝ちゃったから起こそうとしてただけ」

「ふーん」


信じたのか信じてないのか。

曖昧な返事をした鎹はスタスタとこちらに近付いてくる。

私は鎹の目線に入らぬように体で庇いながら新谷の首もとの血を拭き取る。新谷を起こすふりをして。


「新谷君」

「……うぅ…」


新谷はゆっくりと目を開け、ぼんやりと辺りを見回す。


「…あれ、俺……」

「寝てたんだってよ」


すぐ近くにいた鎹が新谷にそう言う。鎹が「な?」と私に同意を求めたので私は無言で頷いた。


「マジか…。全然覚えてないわ…」

「寝てたからな」

「新谷君、帰っていいよ。あとは私がやっとくから」


新谷に私はそう言い、まだ頭がハッキリしていない新谷は私の言葉に甘えて帰っていった。

教室には私と鎹が残される。


作業を進めようと椅子に座った私に、鎹は「ああいうのがタイプなのか?」と、まだ勘違いした質問をぶつけてきた。

帰る気はないらしい。


「違うってば。さっきもそう言ったでしょ?」

「寝てる新谷を起こそうとしてたって?」

「そう」


それも嘘。

本当の本当は喉が渇いて手近にいた新谷の血を吸っていたのだ。


「そんな雰囲気じゃなかったけどな」

「………」

「なんか、艶かしいっていうのかな。そんな感じが出てた気がしたんだよなぁ」


ガタッ、と先程まで新谷が座っていた椅子に座る鎹。自然、向き合う状態になってしまう。

机に肘を置きこちらを見る鎹に、私は視線を合わさず作業を進める。

この男が何をしたいのか知らないが、関わる気など私には無かった。



吸血鬼になってから、人と距離をとるようになった。友達を作らない、とまではいかないまでも、深くは関わらず、一定の壁を作ってきた。

吸血鬼だとバレるのを恐れるように。

吸血鬼の本性が表れ、襲ってしまわないように。


だから、この男、鎹にも関わるつもりは無かった。関わっても欲しくなかった。


なのに鎹はそれを許しはしなかった。







「進藤って『ばんぱいあ』なのか?」







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