八話
時は少し遡り、海都と別れ買い出しを任されたエーベハルト達は服屋を目指していた。
「あの野郎……」
「まぁ、エーベ。カイトが何を頼んだか知らないけどお金はたっぷり貰ったんだから」
「貰いすぎだぞ!!てか、アイツは何を買わせたいんだ!!」
別れ際に海都に渡されたお金と注文用紙にエーベハルトはお金の重さと注文用紙に書かれた注文数に悪態をついた。それにアルシュタートは苦笑した。
「本当に宜しいのでしょうか?」
「アイツの金だ。気にするな」
「カイトが自分から言い出したんだから気にしなくて良いんじゃない?」
フィオリーナは申し訳なさそうに言っているがエーベハルトとアルシュタートは二人揃って平然と言った。それに苦笑するフィオリーナ。子供達はフィオリーナに引っ付いて歩いている。
そんな調子で歩いていたら服屋に到着。
「好きな服を選べ。何着でも良いぞ。」
「本当に良いの?」
「良いぞ」
エーベハルトの独断で服選びが始まった。子供達は大喜びで選びに行った。
それを横目にアルシュタートは海都から受け取った注文用紙を店員に見せた。
「注文した品を取りに来ました」
「はい。カミガヤ様ですね。少々お待ちください」
アルシュタートから注文用紙を受け取った店員は裏に入って品を持ってきた。それにアルシュタートは顔をひきつらせた。
「これが注文された品になります」
「全部、ですか?」
「はい。全部です」
「……。お会計お願いします」
「畏まりました」
大量の箱の山にアルシュタートは言葉を無くし、店員に支払いをした。
「エーベ、僕は一旦カイトと合流するよ」
「あ?……あぁ、わかった」
「カイト、引っ張ってくるから」
「頼んだぞ」
エーベハルトにお金を渡したアルシュタートは大量の箱を持って服屋を後にした。
外門をくぐり街に入った私の前から大量の箱を持った人が歩いてきた。
いや、見覚えがある。あれってもしかしてアルシュタート?でも、纏うオーラが黒いんですが……。
「あ、アルさん?」
「カイト、良いところに。貴女の物ですよ」
「すみませんでした」
私に気が付いたアルシュタートが真っ黒い笑みを浮かべて毒を吐いた。それを見て私は直角のお辞儀をし謝罪した。
「馬車の用意は出来てますか?」
「うん。案内するよ」
アルシュタートから小さい箱を受け取り、外門をくぐって馬車まで戻った。
「おや、早かったですね」
「いや……また行く。取り合えずこれを置きに来たんだ」
「……何を買ったんですか」
「ドレス一式」
「アホですか」
「だって……」
馬車の外でなんかしていたミカエリスが私を見て目を丸くしたが、私とアルシュタートが持つ箱を見て半眼した。目をそらした私に呆れの色を濃くしたミカエリスがいた。
「全く……人様に迷惑をかけるなんて申し訳ありません。これには仕置きしておきます」
「止めてくれ!!そんな美しすぎる笑みで私を見るな!!」
「ふふふ」
ミカエリスはアルシュタートから荷物を受け取り、頭を下げた。そして綺麗な笑みで私を見た。ミカエリスの瞳には虐めっ子の光が宿っていた。それをアルシュタートは唖然として見ていた。
「まぁ、それは後にして。これは如何しますか?」
「部屋に突っ込んどいて。アル、何人か荷物持ちを連れていくからちょっと待ってて」
私はアルシュタートに待ってるように告げて馬車の中に入った。
私は居間でグリモワールを開いて更に執事を召喚した。
「悪いけど、荷物持ちよろしく」
「畏まりました」
「じゃあ、行くよー」
召喚された執事達は私に続いて馬車から降りる。外で待つアルシュタートの元に行く。
「お待たせ。戻ろうか」
「……彼らは何処から来たのかな?」
「……面倒だから後で話すよ」
馬車から出てくる私達を見ていたアルシュタートの最もな疑問に説明が面倒な私は後回しにした。
アルシュタートを引っ張って街に戻り服屋に行くと会計を済ませたエーベハルト達が大量の荷物を持っていた。それに私とアルシュタートは苦笑した。
「皆の荷物を馬車に持っていって」
「畏まりました」
私の指示で執事達がフィオリーナ達から荷物を受け取り馬車に戻っていく。それにエーベハルトとフィオリーナ達は唖然とした。それを見てアルシュタートは苦笑した。
「エーベ、次はどこに行くの?」
「ッ!!次は食材だ。その後に道具屋に行って終了だ」
「了解。アイツらに戻るよう指示しといて」
「畏まりました」
私の言葉に我に返ったエーベハルトが答えた。食材の買い込みだと残ってる執事五人じゃ不安だから呼び戻すように指示をした。馬車には冷蔵庫などが完備されているので大量に買い込んでもオーケー。さぁ、買うぞ!!
意気揚々と肉屋で肉を大量に買い込み(即馬車戻り)、八百屋で野菜を買い込み(量が少ない)、米を大量に買い込み(即馬車戻り)、調味料を大量に買い込み(即馬車戻り)、果物を大量に買い込み(即馬車戻り)……なんてしていたらはたと気が付いた。アレがないよ。アレが。
「ねぇ、エーベ、アル」
「なんだ?」
「何?カイト」
「小麦粉が無いんだけど」
「あー……」
「小麦はね、一般には出回らないんだよ」
「なんで?」
「この国じゃ全く採れないから他国からの輸入になるんだ。そのお陰で一般には出回らない。貴族専用の高級素材になってるんだよ」
なんてこったい。砂糖があるからお菓子作れる!!とか思っていたらなんて落とし穴があったんだ!!小麦粉が無いとお菓子作れないよ!!うぅ……仕方ない米粉で作ってもらうしかないか。健康で良いんだけどね。
エーベハルトとアルシュタートから聞いて一気にテンションが下がった私はズーンと暗い空気を背負ってエーベハルト達の後をついていった。
「オイ、カイト。置いてくぞ」
「……はーい」
道具屋から出てきたエーベハルトが私に声をかけた。てか、いつの間に道具屋来たよ?え?ついさっき?全然記憶に無いわ。
そんな訳で反応が薄い私をエーベハルトが首根っこを掴んで引きずっていった。もう買うものがないらしく馬車へ行くことになった。本来の案内役である私がちゃんと機能していないのでアルシュタートが案内することに。
小麦粉がないなんて……この国滅ぼすべきか……。
邪悪なオーラを振り撒きつつ、引きずられる私に子供達は怯えて居たそうな。それを見ていた回りの人間もドン引きしていたらしいけど。私は知らない。
馬車に戻るとリュツィフェールとミカエリスが外にいた。私は二人目掛けて突撃した。
「リュツィ!!エリス!!」
二人は私を受け止めてくれる!!なんて思った私は馬鹿だった。コイツら悪魔なんだよ。助けるわけないじゃん。
リュツィフェールとミカエリスは突撃する私を寸のところで避けた。私はそのまま地面にスライディングした。
「なんです。騒々しい」
「いだい……」
「自業自得です」
「全く……子供じゃないんですから大人しくなさい」
リュツィフェールとミカエリスの毒舌に私の心が折れた。この傷をシドに癒して貰うために私は馬車の中に駆け込んだ。
「シド!!」
「おっと。如何しましたか?カイト様」
「お菓子!!お菓子が作れないよ!!この国!!小麦粉が無いんだって!!高級素材なんだって!!」
突撃した私を優しく受け止めてくれたシド。優しいよね〜。さすが熾天使。何処かの大魔王二人組とは違うね!!
落ち着くように私の頭を撫でてくれる。
「おや、それは困りましたね」
「どうしよう!!お菓子!!」
「取り合えず、これでも食べて落ち着いて下さい」
落ち着いた声音は全く困ってないけど。取り合えず、私は訴えた。私の活力源がないと。そうしたらシドが私の大好物を出してくれた。私はそれを受け取りシャリシャリ食べる。
「カイト様、お連れ様を置いていくとはどういう了見ですか」
もはや疑問系にすらなってないリュツィフェールの言葉を無視してシャリシャリ食べる。
「カイト様」
シャリシャリ食べる。
「カイト様」
シャリシャリ食べる。
「……」
「グホッ!!」
キレたリュツィフェールの回し蹴りが炸裂した。綺麗に顔から壁に衝突しノックアウトした私。よ、容赦がないぜ……。
「リュツィフェール、あまりカイト様を伸してはダメですよ」
「シド……」
「私が大変ですから」
「……」
「それは失礼しました」
アレ?前が霞んで見えないや。え?シドはなんて言ったの?私、耳が遠くなったのかな?
素敵な笑みで毒を吐いたシドと同じく素敵な笑みで同僚に謝罪したリュツィフェール。あれ?私ってコイツらの主だよね?誰か教えて欲しいな……。
「あ、お帰りー。さぁさぁ、座って座って。今、お茶を用意させるから。シド、桃(その固いの)仕舞ってカイト(それ)を二階に捨てて来て」
「はい」
「うわぁ!!シドの馬鹿ぁぁぁ!!」
シドは私を担いで二階に放り投げた。でも、受け身を取って衝突を免れる。てか、誰だよ。シドに命じたのは!!
そう思って一階を見ると見覚えのある黒髪と茶色い髪がいた。
「……お茶持ってきたよ。お菓子はカイトの隠し菓子」
「……食べていいの?」
「……うん。良いよ」
「って!!ゴラァァァ!!クリシュナ!!マーラ!!テメェラ何してる!!」
黒髪もといクリシュナと茶色い髪もといマーラがエーベハルト達を接待していた。喚んでもいないのになんで居やがる、あの馬鹿兄弟ー!!
ついつい怒鳴ってしまった。それに子供達が怯えてしまった。一番小さい子が泣いてしまった。
「!?」
「あー、カイトってば泣かせた」
「……カイト、大人げないよ」
「お前らが原因だろ!!菓子はくれてやる。取り合えず、エーベ達は茶をしててくれ」
クリシュナとマーラが泣いてしまった子供をあやしつつ、私に文句を言う。元はと言えばお前らだろ!!
クリシュナとマーラの首根っこを掴み、居間の端に連れていき正座をさせた。二人の額に反省中の札を貼り付けた。
「で?なんでお前らいるわけ?」
「面白そうだから」
「……兄さんに連れてこられたから」
「……クリシュナ……お前本当にマーラ大好きだな」
「そりゃ、大事な弟だからね」
あぁ……本当に……お前ら自由だな!!特にクリシュナ!!
反省中の札の呪縛を逃れ、マーラに抱き付くクリシュナ。私は呪縛の縄でクリシュナを縛り上げ二階から吊るした。
「酷いよー、カイトー。鬼ー」
「お前は一生、ぶら下がってろ」
ミノムシ状態のクリシュナが体を揺らしながら抗議してくるが基本無視だ。その内、勝手に呪縛を解呪するだろう。マーラはクリシュナが何かしなければ基本的に大人しいので放置。