二話
翌日、すっかり寝坊した私は開き直って一階に降りた。
すると、一階のソファに苛立った様子の昨日絡んできた兄ちゃんと爽やか系優男のお兄さんが座っていた。片や殺気を振り撒き、片や苦笑して。
それを見なかった事にした私は素通りして掲示板を確認した。今現在受けられるクエストはギルドの依頼で薬草採取とグルニア討伐か。薬草採取はリッシュ草を十個納品でグルニア討伐は十体討伐か。どうしよう。同時攻略するか?グルニアの生息地は世界中だし団体行動が基本だし、薬草採取している間に遭遇しそうな感じなんだよね。んー……二回も外に出るのは面倒だから同時攻略でいきますか。
私が同時攻略を決めて受付に行こうと振り向いたら、ソファに座っていた筈の苛立った様子の兄ちゃんと爽やか系優男のお兄さんが立っていた。特に兄ちゃんの方は目に怒りが隠っています。取り合えず挨拶だ。基本は大事だし。
「おはようございます」
「おはようございます」
「おい、アル!!暢気に挨拶してんじゃねぇよ!!おい、嬢ちゃん!!なんでもっと早く起きてこないんだよ!!」
私が挨拶すると爽やか系優男のお兄さんが笑みを浮かべて返してくれた。それに突っ込みと文句を入れる兄ちゃん。いやいや、兄ちゃんに関係ないでしょ。
「疲れがたまってたようで寝坊しただけですよ。それで?ご用件は?」
「お前のクエストに付いていってやろうと思っただけだ!!」
「どこのツンデレだよ、お前……」
まさかのツンデレ属性だったのか、兄ちゃん。私ビックリだよ。
「は?」
「なんでもない。わかったよ。勝手に付いてくれば良い」
私の言葉に兄ちゃんは訝しげに私を見る。ここで断っても昨日みたいにストーカーされるのが落ちだ(話が途切れて以降私の後をつけていた兄ちゃん)。仕方ない。許可してやるよ。
私はクエストを受ける為に受付に申請した。
「すみません。クエストを受けたいのですが」
「では、ギルドカードの提出をお願いします」
「はい」
「お預かり致します」
私は受付嬢にギルドカードを渡した。受付嬢は受け取ったギルドカードを水晶に通した。すると、水晶から文字が浮かび上がった。
「現在のカミガヤ様のギルドランクはGランクになります。受けられるクエストは薬草採取とグルニア討伐になりますがいかが致しますか?」
「両方受けることは可能かな?」
「禁止ではありませんが、確実に完遂するために皆様は一つだけお受けになります」
「両方でお願いね」
「……畏まりました。失敗した場合、違約金が発生致しますのでお気をつけください」
駄目元で聞いたら案外イケたね。同時攻略なんてする馬鹿は私くらいなものだろう。受付嬢も断りたかったんだろうが押し切った。後ろにいる二人から呆れた雰囲気が漂ってきたよ。そんなに嫌なら来るんじゃない。
内心で怒ってる私に受付嬢が声をかけてきた。
「クエスト受理が完了いたしました。クエストの期間は本日から一週間となります。その間に報告をお願いします。ご武運をお祈りします。行ってらっしゃいませ」
「行ってきます」
私は受付嬢からギルドカードを受け取り、クエスト内容が書かれた用紙を二枚受け取った。受付嬢に挨拶をしてからギルドを出た。
「良し、行くぞー!!」
「ちょっと待った」
「はい?」
意気揚々と外門に向かおうとした私を爽やか系優男のお兄さんが引き留めた。なんだよー、せっかくヤル気満々だったのにー。不貞腐れる私を見て爽やか系優男のお兄さんは苦笑した。
「その前にちゃんとした自己紹介とかしておきたいんだけど良いかな?」
「あ、はい」
あ、確かに。私、この二人の事知らないや。うっかりうっかり。
「じゃあ、改めまして。僕はアルシュタート。弓使いだよ。よろしくね」
「俺はエーベルハルト。剣士だ。よろしく」
「私は海都。一応、魔法使いだよ。よろしくね」
ふむふむ。爽やか系優男のお兄さんはアルシュタート……長いからアルで良いや。で、兄ちゃんがエーベルハルトか……こっちも長いからエーベで良いや。弓使いと剣士か。なるほどね。戦闘形態とか入る隙が無さそうだ。後ろで大人しくしてるか?私が魔法をぶっ放した時点で巻き込むのは確実だし……。追々考えるか。
「魔法使いってお前、そんなんでクエスト二個も受けたのか!?」
「一応って言ったよ。こう見えても武術だってできるし。ただ魔法の方が使いやすいんだよ」
失礼しちゃうな。こう見えても強いんだぞ!!
「まぁ、本人が良いって言ってるんだから良いんじゃない?エーベ」
「はぁ……先が思いやられる……」
アルシュタートとエーベハルトを睨み付ける私にアルシュタートは苦笑し、エーベハルトはため息を吐いた。
「取り合えず装備を整えに行くか」
「装備なんて必要ないよ?武器だってあるし」
「は?そんなんで行くつもりか?お前やっぱり冒険者なめてんだろ」
「そんなわけないし」
目が座ってるよ、エーベルハルト。そんなに心配しなくても全部避けるよ。
「だけど、アイテム袋だけは買わない?採取したアイテムを入れる袋はあった方が良いしね」
「……そうだね。それだけ買いに行こうか」
アルシュタートに言われてしばらく考えた私は頷いた。アルシュタートに案内されて道具屋でアイテム袋を六枚購入して不思議ポーチに突っ込んだ。
「良し、行こう!!」
「……心配だ……」
「まぁ、大丈夫だよ」
意気揚々と外門を潜る私と心配を隠せないエーベハルトとエーベハルトに苦笑するアルシュタート。なんとも言えない組合せだよね。浮き足立つ新人冒険者に保護者な先輩冒険者。第三者からすれば微笑ましいかもしれないけど。残念ながら私はこう言うのはベテランです。
スキップでもしそうな私は一番初めにいた森に入った。
「待てカイト。余り奥には行くなよ」
「?……わかった」
エーベハルトの言葉に私は頷いた。なるほど。エルフとは中が悪いのか。まぁ、よくある話だよね。
地面を見ながらリッシュ草を探す。多年草の癖に見付からないとはどういう了見だ!!リッシュ草を探して辺りを見回すと犬に似た魔物を発見。あれがグルニアか。額にある角が討伐部位ね。
「グルニアが来たぞ」
「グルニアは団体で行動するから一匹見付けたら他にも居ると考えてね」
「グルニアは全部で十匹。様子を伺ってるね。まぁ、すぐに終わるよ。【風】で【切り裂け】ば良いだけだし」
アルシュタートとエーベハルトが戦闘体勢に入った。けど、私は武器を手にすることなく突っ立ったまま喋った。その瞬間、グルニアに風が襲い掛かり切り裂いた。それを皮切りに隠れていたグルニア達が襲い掛かってきたが意思を持った風がグルニアを切り裂いた。風に切り裂かれ絶命したグルニア達の他に危険が無いか探った私は生体反応が無いのを確認して風にお礼を言った。
「ありがとう、シルフィード」
風は優しく私を撫で消えた。その様子を見ていたアルシュタートとエーベハルトは唖然としていた。そんな二人を横目に私はグルニアの討伐部位である角を採取する。後、魔核の回収も忘れない。グルニアを十匹解体し終えてもアルシュタートとエーベハルトは唖然としたままだった。
「戻ってこーい」
「はっ!!」
「凄いね、カイト。詠唱も無しに魔法を使うなんて」
「あー、うん。詠唱しない分威力調節が難しいんだけどね」
私がさっき使った無詠唱の魔法は風にお願いをしただけ。この世界の精霊も使い方をよくご存じで。まぁ、二人に突っ込まれないように気を付けないと。
「後はリッシュ草だけ!!群生地があれば良いんだけど……」
「後は自力で探してもらうしかないね」
言われなくても頑張りますよ。
下を見ながらフラフラ歩いていく私。アルシュタートとエーベハルトは後ろから辺りを警戒しながら付いてくるだけ。
移動式の結界を張ったから魔物は寄ってこないけどね。
「お、白い花は咲いてないけど葉っぱの形がハートっぽい。これがリッシュ草か。採取採取〜」
なるべく綺麗なリッシュ草を選んで地面に出ている部分のみ採取する。根っこまで採取してしまってはここにあるリッシュ草が全滅してしまうからだ。根っこの部分を残せば来年また新しい葉を出す。そうしてリッシュ草を十個採取した。
「クエスト完了でーす」
「……本当に俺達の手も借りずやりやがったな」
「手際が良いし、これは僕達並みかもしれないね」
今日は驚きっぱなしだね。アルシュタートとエーベハルト。まぁ、出発したのがお昼過ぎでまだ夕方にもなってないから上出来だね。
クエストも完了してもう森にいる意味がないので足早に森を抜ける。
が、しかし。森を抜けた瞬間、攻撃を喰らった。攻撃自体は私が張った結界に当たり私達に被害はない。だけど、不意打ちを喰らうほど警戒を怠って居たわけではない。攻撃を受けた角度からいくと敵は上に――。
「いた」
「キュオォォォン」
体が炎で覆われている巨大な鳥。
「なんだ!?あの鳥は!?」
「見たことのない鳥だね」
巨大な鳥を見て驚いた。私は咄嗟に不思議ポーチからグリモワールとソロモンの指輪を取り出した。ソロモンの指輪をつけてグリモワールを開く。グリモワールのソロモン七十二柱の一人、序列三十七番の大いなる侯爵とされる――。
「いる……。なんで?……まさか、他のレメゲトンか?」
「キュオォォォン!!」
私がグリモワールを片手に持ち呆然としている中、アルシュタートとエーベハルトは戦闘体勢に入った。私はそれに慌てて二人を止めた。
「ちょっと待って!!アル、エーベ!!あれはお前達じゃ無理だ!!二人はギルドに報せて街の守りをきょうか」
「キュオォォォン!!」
「!?逃がすか!!」
「戻れ!!カイト!!」
森の奥に逃げていく鳥を追い掛ける私。後ろでエーベハルトが何か言っていたが無視だ。今はあの鳥が最優先。なんであれがここにいる?誰があれを召喚したんだ!!あれはこの世界の物じゃない!!故に暴走して全てを焼き尽くすぞ!!
私は鳥の気配を追って奥へ奥へと走る。そして、辿り着いたのは火の海となったエルフの里だった。そこには二体の鳥がいた。
「フェニックスだけじゃなくて、朱雀もか……。取り合えず【結界】だ。それに【回復】。これで人命は保護されるはず。さて、お相手願おうか。フェニックス、朱雀。私に逆らうことを骨の髄までわからせてやる」
「キュオォォォォォン!!」
「キュゥゥゥゥゥン!!」
私は空を飛ぶ二体の火の鳥を見ながらエルフの里と人に結界を施す。エルフの里全域に渡る回復もかけて戦闘の準備を整えた。右手には杖の形をした槍―蒼杖槍ーを持ち、左手にはグリモワールを開いた。
「【ソロモンの名において 禍々しき戦禍を飲み干さん 大海嘯】
【聖火により焼かれし大地に恵みの雨をもたらさん 玄武】
【全てを凍てつく嘆きの大河へと堕とさん コキュートス】」
グリモワールからリヴァイアサンと玄武が召喚された。天おも多い尽くす津波を起こすリヴァイアサン、天から聖なる水を大雨の様に降らす玄武。そして、私の広範囲殺戮型氷属性魔法が炸裂した。津波に呑まれ、大雨に打たれ、氷塊に包みまれ割れた。役目を終えたリヴァイアサンと玄武は送還された。三連コンボを喰らったフェニックスと朱雀は地に堕ちた。とは言え、片や悪魔、片や四神。体力値半端ない。今の攻撃で半分削れてれば良い方である。すぐに起き上がり空に上がる二体に私は顔をしかめた。
「キュオォォォン!!」
「キュゥゥゥン!!」
空に舞い戻ったフェニックスと朱雀は敵認定をした私に攻撃を繰り出した。フェニックスはファイアブレスを、朱雀は……。
「火の玉!?巨大な火の玉来たよ!!アレ、滅茶苦茶デカいよ!!あわわわ!!逃げ場がぬあぁぁぁ!!」
フェニックスのファイアブレスを避けつつ、迫り来る惑星並みのデカさの火の玉を回避するために逃げたが逃げ切れず爆風で飛ばされ地面に顔面着地した。あの技、太陽爆発って名付けてやる。国や星を滅ぼすのに使えるよ。エルフの里が焼け野原になったし……。エルフ達に結界を張ってて良かったよ。じゃなきゃ今ごろ、骨になってた。あれじゃ、全然体力削れてないよ。
「仕方無い。一瞬で終わらせよう」
私は蒼杖槍を刀の形に姿を変え瞳を閉じ構えた。体勢を立て直したフェニックスと朱雀は再び私に襲い掛かる。