第7話
「がっかりすることなんて何もないよ。君はここで病気になることもなく、不自由なく暮らせるんだから。」ロアが言う。今までで一番楽しそうに…。
俺はその言葉をうけ、よくよく考えた。もちろんこの先のことについてだ。
そうしてひとつの結論に達した。きっとロアの話を聞いてから、俺の願いはひとつしかなかったんだ。
「…ロア。俺は、それでもあの村に帰りたい。
行かせてくれよ。…あの村で死ぬのは、俺にとっては本望だ。」
きっと声は震えていた。ロアが今までに散々断ってきたことだし、そう簡単にはいかないだろう。
ロアはココアが入っているカップをテーブルに置いて、俺に一歩近づいた。
やばい!さっき殴られたこともあり、俺はとっさに腕で顔をガードして目をギュッと閉じていた。
……しばらくしても何の衝撃もこない。俺がガードを解いた瞬間を狙っているのだろうか…。
目を開けてロアを見る。その頬はたえまなく溢れる涙でぬれていた。
俺は突然のことで状況がうまく飲み込めなかった。
なんでこのタイミングでロアが泣くんだ!?
「……村に戻って、どぅすんだよ!戻ったら君のために辛い選択をした……村人たちが可哀想だと思わないのかよ!」
この家に来て、まだほんの少しだ。…ロアがここまで怒って声を荒げることなんて今まで一度もなかった。
「村人たちのことも考えろよ!……君に生きていてほしいんだ。もし村に帰るなら、それはかなわないんだよ。」
またいつものロアに戻りつつあった。…ロアがここまで必死になるなんて。
そうか。ロアは俺よりも村人たちの気持ちがわかっているんだ。俺のことを頼まれた張本人なんだから。
ロアのこと。俺はもっといやなやつだと思ってた。俺をこの家に閉じ込めて、出してくれなかったからだ。……どこか恐いところがあったからだ。
俺はロアのことを誤解していたんだ!ロアは俺のために、みんなのために涙を流してくれている。とてもいいやつじゃないか。
そういえば、俺はロアのことをあんまり知ろうとは思わなかった。全然知らないんだ。
ロアが言ったことは正論だ。確かに、今村に帰ったらみんな悲しむだろう。怒るかもしれない。俺はみんなに愛されていた。……それだけで幸せだ。
俺はようやく落ち着きを取り戻したロアのそばまで行って、肩に触れた。
「わかった。……俺。ここに残るよ。…よろしくな。」