第4話
「ここに僕と一緒にいればいいんだよ。…一生。」
ロアは本気で言っていた。笑いながらの言葉でも、ナイフを押しつけられているような威圧感があった。
「い…いやだ!俺は…帰るんだから!…薬を持って、あの村に戻るんだ!」
あの村には俺の育ての親がいる。可愛がってくれていた近所の人がいる。友達もいるし先生もいる。
いくら暴力をふるわれたからって、それは変わらない。あの村に戻りたい。これは偽りなんかじゃないんだ。
「君がわかってくれるまで何回でも言うけど、君は村までたどりつけないよ。
途中で死んでしまう。」
俺がここにのこると言わないからか、(たぶんそうだ)さすがのロアもだんだんとイライラしてきたようだ。
「…戻ったって、誰も君を歓迎しないんじゃないかな?追い出されたんだよ?…ケガをしながらだし、途中で死ぬ確率の方が高かったんだから……村の人たちは君が死んでも何とも思わないよ。」
「―お前に!……何がわかるんだよ!?」別にロアを殴ってやろうとか、そんなことを考えたわけではなくて……気付いたらそうしていた。自分をコントロールできない。
「さっきっからベラベラと!…お前は知ってるように思ってても、何にもわかっちゃいないよ!
わかってたまるか!俺がどんだけあの村好きかも…どんだけあの人たち好きかも…どんだけ村に戻りたいかも…お前は何もかもわかってないんだ!
わかったように言うなよ!お前にはわからないはずだろ?あの人たちにだって理由があったんだよ!?」
完全に抑えがきかない。本当は、ロアがあってるってわかってるんだ。ずっとわかってた。…酸性雨の中を歩いてるときにはそのことしか考えられなかった。
それでも…抑えずにはいられなかった。…俺はどこかで、それでも…と思っていたんだ。信じていたい自分がいた。
くそっ!なんでこんなことになるんだよ!…俺は目を力強くこすった。そうしなければ、涙があふれてしまうからだ。あわてて俺はロアに背を向けた。
俺におもいきり殴られたロアはしばらくだまって座っていた。俺に殴られて床に倒れこんだ状態から体を起こしただけの格好だ。
…やりすぎたかも。俺がロアに謝ろうか…と迷いはじめたときやっとロアが口を開いた。
「ねぇ。ちょっとこっち見てよ。」まったく怒っているという感じはなかった。だから俺は安心しきっていた。とりあえず謝るか…俺も悪かった。
振り向くか振り向かないか。というよりも、ロアが俺の頬を殴れるようになった瞬間だ。俺の頬に勢い良くロアのこぶしがぶちあたった。
油断しきっていたこともあって、俺はロアよりも遠くに吹っ飛んだ。…その結果、本でできたタワーにぶつかってしまった。
その衝撃で本の雪崩がおきて、俺はたちまち本に埋もれてしまった。殴られたのも痛かったが、この本もかなり痛かった。
俺は両手で必死に本をどかした。どうやらロアは手伝ってくれていないらしく、そのおかげで俺は、思っていたより長い間本に埋もれていなければならなかった。