第3話
「ロアの言うとおり、俺はエルタ村から来たんだ。
お前がいつのエルタ村を知っているのか知らないが……今エルタ村は村全体がはやり病にやられてるんだよ。
村のほとんどの奴がな。んで、その病気に効く薬がエルタ村にはないんだ。
どこにあるか…これはたぶんの話だけど、ここの隣村のアルス村にあるって聞いている。
さっきもいったけど、村のほとんどの奴が病気にかかってるから薬をとりに行く奴も限られてたんだよな。
そこでだ。若いってこともあって俺がその薬をとりに行く役に選ばれたんだ。
今のところその病気で死んだ奴はいなかったから、いつまでとかはないけど急がないと多くの村人が死ぬかもしれないんだ。
……よし!ロア!これでわかっただろ?俺は急いでいるんだ。だから早く行かせてくれ!…な?」
長々と話したせいで口の中が乾いていた。俺はそばにあった水を口に含んだ。ゆっくりと冷たい水が喉を通っていくのがわかる。…少しの間だが、安心した。
俺が水を飲んでいる間、ロアは顎に手をあてて俯き、何やら真剣な表情をしていた。それを見て俺は、次にはっせられるロアの言葉が、俺を解放する…というものであることを心から願った。
「…君、親…っていうか親戚でもいいけど、いるの?」ロアは顔をあげるとすぐに聞いてきた。
なんでいきなりその質問?と思ったけれど正直そこは聞かれたくないことだった。しかし、ここで答えなければ事態は悪化しそうだ。それに、ウソをついてもきっとばれる。
「いないけど。…」それが?と言う間にロアが強引に口を挟んだ。
「じゃあ。君は村の人たちに半強制的に今回の役を引き受けさせられたんでしょ?……村を追い出された、に近いようなやり方で。」
「―っ!!」俺の話のどこからそんなところまでよみとれるんだ?
…また追い詰められている。気がする。俺は狭い空間の中にいて、ただでさえ窮屈なのにロアはどんどんと俺を端の方に追いやって、しまいには…俺は。
「そして、その怪我。今の君の話に出てこなかったけど。」
ドキリとした。俺が最も触れて欲しくなかったところだ。きっとロアはもうわかっているんだ。
「僕の考えを話していいかな?」ロアの問い掛けに、俺は答えなかった。ロアはそれを肯定としてとらえたようだ。勝手に話し始めた。
「君は両親がいない…つまり孤児だね。仕方なく村のどこかの家に引き取られた。…君の性格だと、家や村の人には可愛がられていたんだろうね。
でも、村では病気がはやった。それのせい…かな?村人がいきなり君にきつくあたり始めた。
君はそんな仕打ちをうけても自分を可愛がってくれていた村人のことが好きだった。……でもさすがの君も薬をとってくるというのには抵抗があった。
まぁ当たり前のことだよね。だから村人にはそう伝えた。……そしたら、突然暴力をふるわれたんでしょ?一通りやり終えると村人は旅の道具だけ渡して、君を村から追い出した。
……ってところかな?どう?あってたかな?」
あってる、あってないなんていうレベルじゃない。そのまんまだ。まるで全部見ていたかのようだった。……というか見てたのか?…コイツならありえる。
また返答しないでいるとロアは満足そうに微笑んだ。
「そんな人たちのところに戻る必要はないよ。」