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僕のおとなりさん

大切なひとをなくした時は心のそこから泣いてください。

今はまだ悲しいけれど、決してあなたはひとりじゃないんですよ。

僕の名前は山上優介。

丘の上にあるカフェの店主兼小説家でもある。丘の上は街並みが一望できる絶好のロケーションで、昼間は散策好きの奥様方、夜には100万ドルの夜景めあてのカップルで、そこそこ繁盛している。

カフェの営業時間は11:00~23:00、閉店後小説を書いている。こちらもそこそこに、ちいさな賞をいただくほどになった。将来的にはカフェ1小説家9の割合でたべていきたいと考えている。

カフェ1…そう…たとえどんな売れっ子小説家になっても、このカフェを閉めるわけにはいかない。

なぜなら、それは愛する人に逢うためである。


6年前、僕は最愛の妻を亡くした。二人の夢であったこのカフェのオープンからまもない春の日だった。桜の花びらが風に散っていた。

僕は悲しくて、悔しくて、さみしくて、でもどうすることもできず…気がくるいそうだった。

食事はのどをとおらず、眠ることもできずにいた。

この世のおわりの中にいた。


何日そうしていただろうか。ある満月のよる、夢だったか…幻聴か…愛しい妻の声がきこえた。

「優ちゃん、書いてみなよ」

確かに妻の声だ。


この声に背中を押され、学生時代からの趣味だった小説をかきはじめたことが、僕の小説家人生のはじまりだった。


僕の最愛の妻はやさしく、そして何よりとてもかわいい。カフェのカウンターのすみが彼女の指定席で、ちょこんと腰かけては、ここから見えるお花畑がだいすきだといっていつも外をながめていた。

僕が若い女の子のお客さんと話していると、すぐすねるくせに、「優ちゃ~ん」と甘えてくるときの、くったくのない笑顔は、いつも僕をいやしてくれた。

そんな妻が月に一度、僕のところに帰ってくるのだ。

ーそう、今夜満月の夜に。

だから僕は特別においしいコーヒーをいれて、妻の帰りをまつんだ。

「優ちゃん」

いつもの妻の声だ。

「おかえり」

僕にしか妻の姿はみえない。

僕にしか妻の声はきこえない。

そう、二人だけの大切なじかん。


二人だけの…


「優ちゃん、わたしここにくるの最後にしようかな…」

「えっ」

僕はいすからころげおちてしまった。

「どうして?なんで?冗談だろ?」うろたえる僕に妻は言った。

「優ちゃんはもう大丈夫。しあわせのクローバーさんが近くまできてるから。だから大丈夫。優ちゃ~んありがとね。」

いつもの笑顔でそういって、妻はみえなくなってしまった。

「クローバー?なんだそれ?なにをいってる?もう一度もう一度だけ…」



僕は2度も妻を亡くし、たちあがれなくなった。

何日も何日も泣いた。

何日も何日もねむれずにいた。

何日も何日もたって、ふとわれに帰ったとき、そとに人の気配を感じた。


急いで外にでた。

妻ではなかった。

カフェにもどる時ポストをのぞくと、白い封筒が一通入っていた。あけると、クローバーとカードに「お元気ですか」とある。

DMか?新興宗教のお誘いか?特に気にもとめなかった。

次の日、またポストになにか…オレンジ色のバラだ。気になってネットで調べると、花言葉は「元気を出して」だった。

また次の日はラベンダーと一緒に、「ゆっくり休んでくださいね」というカードが入っていた。ネットで調べるとやはりラベンダーには安眠をたすけるような作用があるらしい。

またまた次の日は、レモングラス。「この香りは体をシャキッとさせますよ。食欲でますよ」とある。


いったい誰だ?

花屋の押し売りか?といいかけて、ふと気づいた。

『おとなりさん』

カフェを丘の頂上とすると、この丘の中腹には、『風のガーデン』という花屋がある。道をはさんで、おとなりさんである。あのおばちゃん?でもなんで??


次の日も次の日もあの手この手で、一生懸命に僕をはげましてくれる。でもなんで???


そうして僕はいつしか毎日おくられる花やハーブの花言葉やら効能をやらをネットで調べることが日課となった。


やがて季節はめぐり、僕は今あの日以来あけることのできなかったカフェをもう一度再開してみようかと考えている。

いつもそばで支えてくれている『おとなりさん』のために…



けさポストに入っていたのは、クロッカスの球根。この球根をうえたら、『おとなりさん』に会いにいこうと思う。

特別においしいコーヒーを用意して…



はじめて小説を書きました。

『私のおとなりさん』とセットで読んでいただけるとうれしいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 癒される文章です。 いいお話です。
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