【改稿版】赤い僕
産み落とされた時から、僕はその場所にいた。
赤い壁、赤い天井、赤い床、赤いトイレ、赤いベッド、赤い布団、赤い服、赤いミニカー……
いつも赤い色に囲まれて、僕は苛立ち、何かに対する怒りで満ちていた。
気持ちが落ち着くことはまれにしかなく、夢の中の世界にいるときだけが癒しだった。
僕は『レッド』という名前で呼ばれていた。
色の赤という意味の名前だそうだ。
食べ物と排泄物だけは他の色が付いていると教わった。
あと、自分の肌の色ペールオレンジは、僕の身体の中を流れる赤い血の色でできていると言うことだった。
先生という人は、僕と同じ赤一色の物に包まれて、色々な事を教えてくれていた。
ある程度のコミュニケーションを取れる位の物事は教わっていたらしい。
だけど、僕の中でふつふつと湧き上がるなぞの感情については教えてくれなかった。
命のみなもとの赤。僕の色。僕の色がなかったら、人間というものは生きていけないという、優越感も覚えていた。
赤いミニカーで遊んでいるときに、勢いよく動かしていたらタイヤという場所で指がすれて、赤いものが僕の指から出てきた。
先生の言う通り、僕は赤でできているんだと納得した。
僕は命の塊なんだ。そう改めて理解した。
ある日、今まで聞いたことのない大きな声が隣から響いてきた。
初めて聞いた恐怖に満ちた声は、なぜか僕を興奮させた。
心の中で、何かが起きるという期待が膨らんできて落ち着かなかった。
僕は先生と、食事を持ってきてくれる赤い人しか知らなかったから……
バタバタと走る音が聞こえて、隣で勢いよくドアが開く音が聞こえたかと思ったら、何かが打ち付けられて倒れたような音が聞こえた。
ゾクゾクとした。何が起きているかわからずに、湧き上がる衝動を抑えきれず、僕は部屋の真ん中でウロウロと歩き回っていた。
しばらくして、静かになったと思ったら……
―カチャン―
鍵が開く音がして、突然の事で緊張した僕がピタリと立ち止まって、身を強張らせると。
そこには、僕の赤と知らない色をまとった、僕ぐらいの歳の子が立っていた。
「私はホワイト、あなたは?」
その子は僕に話しかけてきた。
「僕はレッド、君の身体にも僕と同じ色が付いているけど、ホワイトもキレイな色だね」
ホワイトという、その色を塗りつぶそうとしている、僕の赤い色がとても美しく見えた。
初めて部屋から出た僕は廊下にたたずみ、鍵と同じ色のドアを次々と開けてまわるホワイトを、遠くからじっと眺めていた。
他の色を見て知って、なんだかガッカリした。
命の輝く色、僕の赤より美しいものが他にはなかったから。
色々な色のドアを開けてまわるホワイトを見つめながら、僕は思ったんだ。
君の身体の中にも、僕と同じ赤が流れているのかな?
そうだとしたら、ホワイトなんていうつまらない色ではなくて、美しい赤にしてあげないと……
せっかく外に出れたのにかわいそうだよね。
僕はホワイトの方へとゆっくり歩き始めた。




