第81話 なんだかんだ天才魔導師なんだよな
仁志がカウンターで肘をつき、テレビのプロ野球中継をぼんやりと眺めていると、店の引き戸が開いた。
入ってきたのは常連客のマーニアだったが、今日はいつもの調子とは打って変わり項垂れた様子で大きな台車をガラガラと引いて入ってきた。
「随分と大きな荷物だな……。何かあったのか?」
「仁志さん、聞いてくださいよー……。僕の住んでる国の魔法省に、僕が集めてたコレクションがバレちゃって……全部危険物扱いで没収されちゃったんですよ……」
マーニアは深いため息をつき、カウンターにがっくりと突っ伏した。
「そりゃお前、この店に来るたびに怪しい禁書とか呪物ばっかり買って帰るからだろ……。自業自得じゃないか。で、その台車に載ってる物は一体何なんだ?」
仁志が台車の上へ視線を向ける。
「自宅とは別の場所に保管してて、運良く没収を免れたやつです……。今までの僕の魔法省への貢献と功績があったおかげで逮捕まではされなかったんですけど、万が一これが見つかったら今度こそヤバくて……。仁志さん、お願いです! しばらくこの店で預かってもらえませんか!?」
「おいおい、うちは貸し倉庫じゃないんだぞ……。まあ、預かるのは無理だが、一旦うちで買い取ってやるから、ほとぼりが冷めたら買い戻しに来いよ」
仁志は呆れ顔を浮かべつつも、助け舟を出した。
「本当ですか!? ありがとうございます! 急いで隠し部屋を作るか、異次元収納の研究を成功させて、準備ができたら買い戻しに来ます! ……ちなみに、全部でいくらくらいになりそうですかね……?」
「何点くらいあるんだ?」
「えっと、50点くらいあります」
「お前がこの店で買ってくやつ、毎回安物ばっかりだからな……」
仁志が台車の上に積み上げられた怪しげな魔導具やガラクタをざっと見渡す。
「全部まとめて1万5000円だな」
「やっぱりそんなもんですよね……。とりあえずそれでお願いします!」
マーニアは仁志から現金を受け取ると、少しだけ安堵した表情を見せた。
「毎度ありー。あ、そうだ。落ち込んでるお前にちょうど良い物をやるよ」
「え!? ケチな仁志さんが僕に何かくれるんですか!?」
マーニアが一気に怪しんで眉をひそめ、後ずさりする。
仁志はカウンターの引き出しからクルミほどの大きさの種を取り出した。
「なんなんですか、その種?」
「この前、歩く木……トレントが店に来て置いていったんだよ。ナマモノ扱いになりそうで、売り物にするのも難しそうだから、お前にやるよ」
「森の賢人トレントの種ですか……」
マーニアは差し出された種を手に取り、目を丸くしてまじまじと観察した。
「トレントが住み着いた森はすごく豊かになるんですけど、増えすぎると森の領域が拡大しすぎて人間と摩擦が起きるんですよね……。それに言葉で意思疎通するのも難しいから、こっちでもよくわかってない種族なんですよ」
「確かに、この前来た時も勝手に店の床に根を張ろうとしたり、水を撒き散らしたりしてたな……」
仁志がトレントの自由すぎる振る舞いを思い出しながら呟く。
「異種族や珍しい植物を研究してる知り合いに渡してみますよ」
マーニアは種をポケットに仕舞い込むと、空になった台車を引いて出口へと向かった。
「この店に来る魔法陣を改良して、異次元収納を作ったら必ず買い戻しに来ますから、売らないでくださいよー!」
「あいよー。お前以外の客が欲しがるような代物でもないから大丈夫だと思うぞ」
マーニアは「絶対ですよー!」と念を押して帰っていった。
仁志はマーニアが置いていったガラクタの山を見つめた。
「あいつ、いつも安物しか買っていかないが、自力でこの店に直接来れるあたり、なんだかんだ天才魔導師なんだよな……。まあ、すぐにでも買い戻しに来るだろ」
仁志はガラクタをワゴンへ適当に放り込むと、POP用紙に『天才魔導師マーニア厳選! お買い得商品!』と書き込み、一律1000円の値札シールをペタッと貼ってそのまま店頭に出した。




