8.宿場の闘いと遺跡への道
闇の信者が放った黒い魔力が、宿場の前で鈍く光り破裂する。塵と砂が舞い上がり、目の前が一瞬見えなくなる。旅人たちは悲鳴を上げて建物の陰に隠れ、身を守ることで精一杯だ。
「油断するな! 彼らはただの信者じゃない!」ガレスが剣を振り回し、飛びかかる魔物の触手を一刀で叩き落とす。光気が剣身を這い、闇の力を浄化するように輝いている。
俺はすかさず横に回り込み、手のひらから紫金色の光を放つ。光は弾丸のように疾走し、二体の魔物を貫き、灰に変えて消し去る。体内の魔力と光気は安定しており、アミュレットのおかげで乱れる気配もない。
「これだけの数の信者が、こんな辺境の宿場に……」ガレスが舌を鳴らす。「ラザロスの命令で、遺跡周辺の道を封鎖しているのかもしれない」
「それなら…… 俺たちが先に行くしかない」俺は前方に立ちはだかる信者の一人に目を据える。「ここで彼らを叩き潰さないと、先に進めない」
信者たちは黒い衣をなびかせ、輪になって俺たちを囲い始める。その中から、髪まで白く染めた男が一歩前に出る。肌は蒼白く、目には狂気が宿り、手には闇の結晶を握っている。
「…… 光と闇を併せ持つ忌まわしい存在」男は低く笑う。「ラザロス様の予言通り、ここに現れたとは」
「お前は…… 何者だ」ガレスが構えを崩さず問いかける。
「闇の導き手の一翼。名を言うまでもない」男は両手を広げ、周囲の闇を吸い上げるように力を溜める。「貴様たちが遺跡に入ることだけは、許さない」
「遺跡に…… 何がある?」俺は問いかける。「ラザロスは何を狙っている?」
「知ることもできずに死ぬがいい」
男が手を振り下ろす。地面が裂け、黒い棘が無数に沸き上がり、俺たちに襲いかかる。
「危ない!」
ガレスが俺をかばうように前に出て、光の壁を展開する。棘は光に触れると焼かれ、消し飛ぶ。だがその隙に、他の信者たちが一斉に魔力弾を放ってくる。
俺は横に跳び、手を重ねて小さな光の玉を作る。それを投げると、玉は分裂しながら複数の敵を襲い、一団を崩す。
「さすが…… 光と闇を両方操る力だ」ガレスが驚きながらも声をかけてくる。「だが、このまま引き合っていても埒が明かない。一気に仕留めよう!」
「分かった。お前が正面を切り崩し、俺が後ろから」
俺は一瞬、魔力を鎮め、足を蹴って上空に跳び上がる。そして全身に力を込め、光と闇が混ざった一閃を地面に叩きつける。
紫金色の轟きが広がり、信者たちの陣形が砕ける。多くが焼かれ、気絶し、残った者も怯えて後ずさる。
「まさか…… ここまでの力とは」白髪の男が驚き、恐怖で唇を震わせる。「これは…… 単なる魔族や勇者を超えている……」
「お前たちのやっていることは間違っている」俺はゆっくり着地し、男に近づく。「無辜を襲い、対立を煽るだけの行いに、何の意味がある?」
「意味……? ラザロス様は真実を知っている!」男は叫ぶ。「光も闇もひとつの神…… それを知れば、人間も魔族も、すべてが闇に統べられる!」
「それはお前たちの解釈だ」ガレスが後ろから声をかける。「真実は、支配でもなく、闇でもなく、ただ…… 在るべき姿に戻ることだ」
男は歯を食いしばり、最後の力を振り絞ろうとする。だが既に力は尽きており、体がふらつき、その場に崩れ落ちる。
「遺跡…… 近い……」それだけをつぶやき、男は意識を失った。
周りの信者たちは戦意を失い、あえいでいる魔物たちも動きが鈍くなる。俺たちの一撃で、ほぼ全滅に近い状態になった。
宿場の主人や旅人たちが、恐る恐る姿を現す。「…… 助かった」「ありがとう…… 勇者様、そして……」彼らは俺の角と黒い肌を見て、言葉を濁すが、感謝の色は隠せない。
「危ないから、この辺りはもう暫く近寄らないでください」ガレスが手を挙げて伝える。「闇の信者たちは、まだ遺跡周辺にいる」
俺は地面に落ちた、信者の持っていた欠片を拾う。それは古代の文字が刻まれた石板の一部で、羊皮紙に似た感触がある。
「これは……」
「遺跡のものだろう」ガレスが覗き込む。「ラザロスたちは、これを手がかりに何かを探している」
俺は石板を握りしめる。この先の遺跡には、世界の真実が眠っている。光も闇もひとつの神であること。そして、俺がこの世界に生まれた意味。
「…… もう、休む時間はないな」俺はガレスに振り返る。「今すぐ、遺跡に向かおう」
ガレスは少し迷うような表情をしたが、すぐに頷く。「分かった。ここまで来たら、待っていられない」
宿場の主人に簡単に礼を述べ、俺たちは道を急ぐ。日は傾きかけ、空は茜色に染まり始めている。遠くには、岩場が続き、古代の廃墟が霞んで見える。
それが、俺たちが目指す中央遺跡地帯だ。
歩みを速め、俺は胸の奥で力を確かめる。光があり、闇があり、ふたつがひとつになった力。これが、真実にたどり着くための、唯一の道標だ。
遺跡の影が、次第に大きくなっていく。




