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『桜川、白妙の梨 〜過ぎゆく季節と、止まらぬ流れ〜』第4話:幸運は努力を好む

夏の熱気の中、沙織さんの受験勉強が本格化します。俊夫が贈る言葉に、ぜひ注目してください。

7月、アスファルトから立ち上る熱気が夏の訪れを告げていた。私の日課である城址公園の散歩は、本来なら時間を早めるべき季節だが、長年の習慣は変えられない。 公園前の信号で立ち止まると、見覚えのある赤い自転車が静かに横に並んだ。

「片瀬のおじさん、おはようございます」 「沙織さんも、いつもの時間だね」

彼女の額にはうっすらと汗が浮かんでいた。 「朝食はまだかな? よかったら、モーニングに行こう」 沙織さんは小さく頷き、私たちは近くのドトールコーヒーへと向かった。

冷房の効いた店内で、私は彼女に声をかけた。 「勉強、頑張っているかい?」 「はい。休みの日も朝は図書館、夜は塾……忙しいけれど、充実しています」

私は彼女の真っ直ぐな瞳を見て、大切にしている言葉を贈った。 「『幸運は努力を好む』――私の好きな言葉だよ。待っているだけじゃ幸運は来ない。後で後悔しないよう、今は全力で踏ん張りなさい」

沙織さんの母・絵里子さんは、私の「はとこ」にあたる。高校時代、彼女は弦楽部でバイオリンを、私は吹奏楽部でクラリネットを吹いていた。オーケストラの応援で共に演奏した日々が、昨日のことのように思い出される。

「お父さんは素晴らしい物理の先生だった。君が五歳の時に亡くなってしまったのは、本当に残念だったけれど……」 「……はい。はっきりと覚えています」

少し寂しげに笑う彼女を見て、私は言葉を選んだ。 「相談があるんです」と、彼女が切り出した。 「最後だから、新年の駅伝に出たい。推薦をもらえる記録は出しているんです」

医学部という難関を目指す彼女にとって、駅伝への参加は大きなリスクだ。 「沙織さん、医学部への道は簡単じゃない。駅伝に出たい気持ちは痛いほどわかるけれど、後悔したくないのなら、今は学業に専念すべきだと私は思うよ」

「……お母さんも、同じことを言いました」 沙織さんは少し残念そうに、でも納得したようにコックリと深く頷いた。その姿は、かつての絵里子さんに重なって見えた。


「幸運は努力を好む」。良い言葉ですね。駅伝という夢を一度横に置いてでも選んだ道。彼女の覚悟が伝わってきます。

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