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それなら、こいつと手を組みます ーー詐欺師扱いされて追放されたので、怨霊と手を組んで独立しましたーー  作者: sirosugi


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8 やっぱり怨霊じゃないだろうか?

 世界観の話

 ウルフの死骸を触ってみると、その体は雪のように冷たくなっていた。

 触った感じは生物のそれだが、体温がなくぬいぐるみやはく製のようだ。その重さは本物で、一般人の俺では、持ち上げられる気がしない。そもそも死んだ生き物は血流がおかしくなって糞尿とかがすごいことなるはずだが。


『さっさと、血抜きをした方がいいぞ。肉がまずくなるぞ。』

「ええ、そんなんしたら臭そうー。」

『都会っ子か! まったく、仕方ないのう。』


 やれやれと言った様子でエミリーが指を鳴らすと、ウルフの近くに黒い穴が出現して、その巨体が沈んでいく。恐らくはアイテムボックスにしまったのだろう。でもそんなことをしても腐らないか?


『ふふふ、わっちのアイテムボックスは特別性よ。入れたモノはその状態で時間が止まるからなら、どこぞで丸ごと売ればよかろう。』

「なるほど、アイテムボックスって便利なんだねー。」


 入れたものが腐らないなんて、食堂の人間からすると喉から手がでるほど欲しいだろうなあ。いや、エミリーが便利すぎる。


『ふふふ、これほどの手際の良さ、並みの魔法使いではこうはいかんぞ。それよりも、お主大丈夫か?』

「ああ、ありがとう。生きたウルフに遭遇したのは初めてだったからおどろいたけどー。」

『いやーうん、それならいいじゃが。』

「それよりもどっちへ行くべきか。」


 何事も切り替えは大事だ。エミリーが便利で協力的なら森からの脅威はない。問題は食料の残りだ。節約しても三日、節約しても5日が限度となると、もう間違えられない。


『ううむ、そうなるとわっちが案内しよう。わっちの記憶どおりなら3日とかからず人里にたどり着ける

はずじゃ。』

「ほんとにー。」


 これまでの行動を見る限り、こちらが断れない状況に誘導しているような疑惑がないわけでもない。


『ううむ、だからそれはないのじゃ。まあ、道すがらその辺りも説明しよう。お主にとっても有益なことは保証する故。』

「嘘ついてたら、道連れにするからねー。」

『怖いわ。』


 右も左も厳しい道のりなら、エミリーの選択肢に乗るのも一興だ。仮に記憶違いみたいなことになったり、裏切ったりするなら、命に代えても滅してやるけどな。


 そのままエミリーは俺を先導するように浮かびながら、改めて長話をはじめた。


『まず、霊とはなんと心得える?」

「死んだ人間の残りかすー?」

『お主・・・。いや、まあ正解と言えば正解じゃな。生き物には肉体と魂が存在しておる。魂と肉体は密接に結びついており、魂の在り方は肉体の成長の方向性を決める。職業に特性があるのは魂の形が人によって異なるからじゃ。これは理解しているか?』

「そうだねー。」

 

 子どもだって知っている。魂の在り方、才能と呼ばれるものは人それぞれだ。だからこそ、家柄や血筋に関係なくすべての子どもは、魂の鑑定を受けて、将来を決める。


『肉体が成長するとともに魂も成長するが、肉体が衰えても魂が衰えることはない。それゆえに、年老いて力の衰えた剣士と成長途中の剣士が戦った場合は、たいていの場合は前者が勝つ。純粋な筋力や体力では埋められない技の差。これが魂の差なのじゃ。肉体に劣る人類が一時的とはいえ、魔物に対抗できるのも魂を来たることで、その才能を伸ばしているからじゃ。そして、そんな魂がもっとも関係するのは、』

「魔法だねー。」


 魔法は魂に由来する。魔法に携わる人間ならだれでも知っていることだ。どんな魔法をどれくらい使えるか、これは魂の由来し、適正のない魔法はどんなに努力しても使える日は来ない。見様見真似で多少は形になる剣術や弓術とは違いその差は圧倒的だ。


『まあ、剣技などの技も魔法という考え方ができるがな。剣技、闘技といわれる技の類は肉体を強化する魔法であり、これもまた魂の在り方というわけだ。その性質の違いゆえ、剣士は攻撃魔法を使えぬし、魔法使いの肉体は剣士ほど頑強にはならないというわけじゃ。また、魔法が魂に由来すると言われる根拠は、わっちのように霊になっても魔法を行使できる存在がいることじゃな。そして、物理的にこの世界に干渉できないはず霊が、世界干渉できる唯一の手段が魔法だからじゃ。』

「それってー。」

『そう、霊障じゃ。霊障は一種の魔法なんじゃ。この世に残された魂の残響がわずかに世界を揺らす。それだけの効果を持ったな。』

「なるほどー。」

 

 霊障は霊の起こす現象。その程度にしかとらえていなかったが、魔法と言われるとしっくりくる。その手で触れずとも火や水を生み出し、敵を攻撃するのが魔法だ。先ほどエミリーが見せた念動のようにものを動かす魔法も存在する。それを使うことで声帯もないはずの霊の声が聞こえるのだろう。となると・・・。


「霊が時間とともに弱り消えてしまうのは、補給もなしにその身を削って魔法を行使しているからー。」

『気づいたか、さようじゃ。魂は肉体なくしてはそれを維持できない。例えるならばそうじゃな。蓄音機と音楽のようなものじゃ。蓄音機そのものを見ても、どんな音楽かはわからないし、どんなにすばらしい音楽でも蓄音機ががたついたり、壊れたりしたら、音を奏でることはできん。だが、蓄音機が止まっても音楽は聞き手の耳にの残るじゃろ。』

「その残ったものが霊だと、随分と素敵な表現だねー。」

『我ながら分かりやすい説明と自負しておる。これでも賢者ゆえ。』

「はいはい、賢者すごいですねー。」

『魂は肉体の消失とともに、消失する。ゆえに霊の存在は残響でしかない。だからこそ生前と似た姿をしていても、その姿は不完全なのじゃ。また、残強者や生への執着があるものほど、残響が強く残り、その姿や霊障がはっきりと表れるわけだ。』

「じゃあ、エミリーも残響ってことー。」

『そうかもしれんしそうじゃないかもしれん。じゃが、わっちは少々特殊な死に目であったからのう。エミリーという賢者の記憶と魔法を完全にもっているし、霊になってからの生活も記憶しておる。肉体をもったエミリーがすでにいないとなると、残ったわっちが賢者エミリーと名乗っても問題あるまい。』


 それはオカシイ。

 請われた蓄音機が死体で、残った音が霊というのは何となく理解できる。エミリーの場合は、自我が確認できるほど、バカでかい音だと言いたいのだろう。

 だが、霊での生活を記憶しているということは、オカシイ。蓄音機なしで音楽のみが肥大化していくなんてことはありえない。


『そうじゃ、ありえん。霊にできることはその存在を維持すること、そのために己のゆかりのある場所や人に寄りつくのじゃ。そういった場所なら存在が摩耗することを防げるからな。あとは、あれじゃ、他の霊と合体したり、人に取り付くことで、その魔力を頂戴して存在を維持することもできる。じゃがその方法は悪手じゃ。すでに完成したフレーズに他の音を押し込んでも不協和音にしかならぬ。お主だって見たばかりじゃろ。』

「ああ、ギルド長に憑りついていたやつか。」

『そうじゃ、あれはいくつもの霊が折り重なった状態で、あの男が垂れ流している魔力をすすり上げることで、あそこまで巨大化できた。じゃが、それは継ぎ接ぎだらけ、穴だらけのコップのようなものじゃ、すぐに魔力が流れ落ちて消えているであろうよ。』


 なんとなくだが、こいつの言いたいことが分かってきた。何故、エミリーがしっかりと会話でき、魔法まで使えるか。もともとこいつの言葉通り生前は優れた魔法使いであり、その霊も強力な力をもっていたのだろう、己が何者かであるという自我とともに。


『わっちが生前、超優秀だったというわけじゃ。死してなお失われぬ魔力の才と知識は、数百年の時を経てもなお、摩耗しない魂の優秀さゆえよ。』

「うそだー、害悪そのものじゃん。」

  

 その自我の強さをもって、他の霊や他人の魔力をねじ伏せてきたということだろう。こいつの存在を維持するためにそこそこな被害が、出ているはずだ。


『いやいや、わっちはそんな怨霊のようなことはしておらぬよ。確かに少なからず人様の魔力は頂戴しておる。じゃが、わっちレベルになると、互いに害にならない程度に調整することも容易い。まあ、一か所にとどまり続けると流石に祓い屋に追われて煩わしいから、程よい宿を探して各地を彷徨う日々であり、魔法を使えるのも数年に一度といった程度じゃった。だが、ここに転機が訪れた。』

「はい?」

『言ったろ、お主は規格外の力を盛っておる。わっちクラスの霊を追い込むほどのリムーブに、それを連発しても微塵も衰えない魂の濃さ。これならば多少大目に頂いても大丈夫じゃろ。うんうん、敵にすればこれほど恐ろしい存在はおらぬが、え、味方とするならばお主ほど霊に好かれる存在はおらんぞい。』


 つまり?


『お主が近くおり、協力的なおかげで、お主のバカでかい魔力を使って、わっち、魔法が使い放題。』

「憑りついてんじゃねえか。」

 

 やっぱり祓った方がいいんじゃないか、こいつ。


『やめい、その物騒な者を引っ込めるのじゃ。だから聞いたじゃろ。大丈夫かと。』

「さっきのそういう意味だったのかー。」

『ははは、お主にも得があろう。むしろ、普段から持て余している魔力をつかって、この賢者エミリーの力を使えるのだから、感謝してほしいぐらいじゃぞ。」

「はあ?」

『すんませんのじゃ。もう調子には乗らないのじゃ。そうじゃ、あれ、魔道具、便利な魔道具じゃと思うのじゃ。その水筒と同じだ。お主が魔力を提供してくれるなら、道案内も護衛も荷運びもなんでもするのじゃ。』


 やっぱり祓おう。そう思っても魔法の発動の兆候が読まれ、卑屈な態度を取られて、やる気が失せる。その辺りの駆け引きがうますぎする。エミリーの言う通り、俺の魔力はほとんど減っておらず、すでにウルフ三頭分の利益はでているのもあって、俺としても強くでられない。


『さて、ついたぞ?』

「はっ?」

 

 そのまま一時間ほど歩いてたどり着い場所、そこは単なる森だった。人里というからには、村なり、寄り合いキャンプなどがあるはずだがそれがない、もう完璧に森である。


『ここより少し入ったところに旧街道が残っておる、そこを通れば森を抜ければ2日で森を抜けられよう。うむ、この近道じゃ。』

「いやいや、まてまて。」


 確かに旧街道の話はしたけどさあ。森を抜けはしないって言ったじゃないか。いやこいつ、それもわかっていて、俺がエミリーに頼らざない状況に誘導したな。日の傾き方を見る限り、もう街に戻ることはむずかしい。なにより、エミリーの誘導従っていただけなので、ここが何処かも分からない。

 もはや、エミリーに協力するしか俺に生き残る道がなくなってしまった。


「騙されたー。」

『お主、妙なところで素直じゃのー。ここまでくると、コッチの利益とか関係なく心配になってくるぞ。』


 いや、だって、それ以上に情報量が多すぎたんだよ。こいつ、やっぱり怨霊じゃないだろうか?


スカル 「色々騙されたー。」

エミリー『だまして悪いが、損はさせてないのじゃ。」

 世界観の説明がどうしても長くなってしまいましたが、伝わったでしょうか?

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