5 詐欺師扱いされたので怨霊と手を組むことになりました 前半
序章のクライマックス 追放とコンビ結成のお話です。
倉庫にあった死体あらためレイチョルは、雇い主に報告され、捏造した遺言と共に遺族のもとへと届けられた。ほぼ骨だけとなった無惨な死体であったが、遺言と死体の大きさからとある貴族の隠し子であることが確認され、大騒ぎとなったそうだ。
「よくも、私の娘をー。」
「お前が浮気したのが悪いんだろ。こっちはとばっちりだ。」
隠し子とはいえ、いや隠し子だからこそレイチョルは愛されていたらしく、父親の怒りと悲しみは大きかった。しかも犯人と首謀者である異母兄弟たちは、レイチョルが家の金を持ち出して逃げ出したと吹聴してらしく、父親がその真偽を問い詰めたところ、多額の横領まで発覚した。粛清と復讐は関係各所にまで波及し、現場となった屋敷の持ち主たちも、事態の発覚が遅れた責任を取らされたらしい。彼らは屋敷を利用された被害者とも言えるが、次期当主の決定や遺産の分配で揉めて一年以上も屋敷を放置していた無能という評判は今後の人生に影を落とすだろう。
「お貴族様は大変だねー。」
『そうじゃのー、いつの世も金と色に溺れた人間は愚かなものじゃ。貴族というのはその典型じゃて。』
とんだ騒ぎになってしまったが、仕事が終われば関係ない。いつも通りの日常。そうなるはずなのだったのだが、エミリーはその後も俺についている。
「なんでついてくるかなー」
『それはおぬし、宝を託すタイミングがなかったからじゃろ。それに、面識こそなかったが同居人じゃった。あの少女の末路ぐらいは見届けんと。』
「それはいいことだけどー、よそでやってくれないー」
『そう邪険にするな。袖振り合うも他生の縁というじゃろ。』
「ははは、触れ合うとか受ける―。」
宣言通り、エミリーは貴族の屋敷から出て行った。だが、その日の夕方にはふらりと俺の前に現れ、そのまま、付きまとってくる。非常に鬱陶しいが、周囲に人がいるときは話しかけてこないし、俺が怒りそうになるとスンと静かになり、どこかへと引っ込んでしまう。それでいて俺の独り言にうまいこと相槌をうつので、会話が成立してしまう。
『迷惑をかける気はないのじゃ。実際、お主も困っておらんじゃろ。』
その言葉通り、エミリーは霊であるのに霊障を起こすこともなければ、俺にしか見えないようにすることもできるらしく、物理的にも社会的にも、無害なので今のところは様子をみている。ちょうど仕事もないので、街の食堂でのんびりと朝ごはんを食べ、ちょっといいお茶でも飲んでのんびり過ごしながら、戯言に付き合ってもいいと思う。
そう思ってたんだけどねー。
「お前のせいで太客を失ったぞ。この詐欺師?」
「はっ?今なんて言った?このデブ。」
『おちつけ、ここでキレたら、お茶がもったいないぞ。』
たしかにブタ相手に、喧嘩を売ってもしょうがない。まずは話を聞くべきだろう。だから、俺はカップのお茶を一口飲んできた、怒鳴りこんできたギルド長を見上げた。
「で、なんか用ですか、食事ならまずは注文しないとお店の人に迷惑ですよー。」
「てめえーー。ぐえ。」
伸ばされた腕はヒョイとよける。現役時代はどうだったか知らないが、無駄に出っ張ったお腹の所為でリーチも速度も俺を捕まえるには今一歩足りない。勢いよく突っ込んだせいで固定されたテーブルが腹に食い込んで地味に痛そう。あれだよねー、若い時に動けてたやつほど、やっちゃうやつ。
「ぐえ。」
『なんじゃ、こやつ。ずいぶんとアレだのー。』
「見てて、同情できないのが不思議だねー。」
『ああ、たしかに。これは完全に自業自得と因果応報の末路じゃのー。』
蹲ってひーひーと苦し気に呼吸をしているギルド長。見た目は酔って暴れて痛い目を見ている中年オヤジにしか見えないが、俺たちの目にはその背中の上で機嫌よさげにグルグルと回っている女性の霊が3人ほど見えた。エミリーほどではないが、そこそこの力を持っていそうな存在、ただ顔以外の姿は全体にぼやけているし、昨日は一人だったのに、増えてるよ。
「がああああ、スカル、てめえ、どれだけ俺を虚仮にすれば気が済むんだー。」
「落ち着いてくださいよー一体何があったんですかー。」
「いけしゃーしゃーと、お前が仕事に行かなかったから、こっちはその尻ぬぐいで、何か所もゴミ掃除をしたんだぞ。だというのに、どこも苦情ばかり、この俺様が直々に仕事をしたってのに。」
「まじー、まさか仕事したのーギルド長が?」
信じられない。が、状況は分かった。
昨日は、貴族屋敷でのあれこれの所為で掃除屋たちも、仕事を切り上げた。事情が事情なので仕方ない。依頼を失敗した場合、前金の払い戻しと違約金なども存在するが、そのあたりはギルドの管轄だ。報酬をそこそこ中抜きする代わり、トラブルが起きたときに、違約金を払ったり、スケジュール調整をしたりするのもギルドの仕事だ。
「さてはー、違約金を惜しんだんすねー。」
「くわー、客のニーズに応えるのは当然だろ。なんでお前たちいないんだよ。」
「そりゃーご存じの通りですよー。」
俺を仕事から外したのはギルド長。貴族の屋敷を優先させてのもギルド長。違約金を払うのを惜しんで仕事を強行したのもギルド長。そして、自分で行ったというのは、当日の特急料金を惜しんだとかだろう。誰もがやりたがらない仕事なので、料金が上がるのは当然だろうに。
「ほんと馬鹿だなー。」
ただの掃除と思って、子飼いの部下や新人に代理をさせることは代々のギルド長が最初にする失敗の一つだ。掃除は予想以上に体力を消耗するし、時間もかかる。事務系や職人系の人材を派遣すればまだましだが、傭兵が派遣されたら、丸一日かけて掃除をしても依頼主が満足しないこともある。俺も掃除屋のその道のプロフェッショナルだからこそ、一日に何件も依頼をこなせるのだ。
「くそがー、依頼人たちがこんな雑な仕事じゃ許容できないと報酬を払わないとか、今後は仕事を回さないと言ってるんだぞ。責任をとれ。」
「いやいや、自業自得ですやん。言ってることもめちゃくちゃだしー。」
『こういう上役ってどこにでもいんじゃなー。』
目先の儲けとかコストカットに目がくらんだ結果、ポカをする。そこで反省するなら最初からポカをしない。こういうやつは自分の失敗を認めずに、他責に走る。そんな奴らが無駄に悪知恵を働かせて、ギルドの管理職で甘い汁を吸っている。これがこの街の実態だ。
『なあ、お主、なんでこんな上司の下で働いとるんじゃ。』
「うーん、過去一疑問に思うわー。」
『転職じゃ転職、キャリアアップも考えんとあかんぞ。』
「キャリアーアップ?」
『そうじゃ、自分の能力と経験を生かしてじゃな。ううむ、若いのに達観していると思ったが、これが原因か。』
なんかエミリーがヒートアップしているが、傭兵ギルドに属さないと俺は食っていけない。困ったことに、俺は「リムーブ」しか使えない。なので食っていくためには、祓い屋を続けるしかない。ギルドから仕事を回してもらわないと、飯のタネに困ることになる。
「ああ、もう、てめえ。」
「あっちょっと。」
とっさに避けたつもりがギルド長は姑息にも俺の首から下がっていたギルドカードをつかみ取っていた。腐っても戦闘職、油断していたとはいえ、首から下げていたギルドカードをもぎ取るとは流石である。そして、そのまま、無駄に溢れる腕力で俺のカードを掴み、バキバキと割る。
「こんなもの。くそが。」
『これはひどい。』
興奮して、自分が何をしているかわかっていないのかもしれない。軽金属で作れたギルドカードは、傭ギルドに所属する人間がもつ身分証だ。それなりに丈夫なカードは、命がけな仕事の傭兵たちに万が一があったときに死体の身分証となるものだ。ほかにも仕事の履歴やギルド貯金や保険などの引き出しなど様々な機能が搭載されている。入会時にそこそこ高い金を払って作るもので、再発行にはそれなりの手間と金がかかる。
「ははは、ざまあ。お前のギルドカードなんか、再発行してやらないからな。」
規約違反の懲罰として、ギルドカードの廃棄というのはある。そうなるとすぐに再発行をしないと職歴がリセットされるうえに、ギルドに預けていた預金が没収となる。
「どうみてもあんたの暴走だろ。」
「ははは、それでも再発行の許可はギルドが出す。でもお前なんかに許可なんかだすかっての。えっ?」
自信満々な様子のギルド長だが。許可なく他人のギルドカードを持ち出したり、傷つけたりすることは犯罪である。衆人環視の中、ギルド長の蛮行は即座に知れ渡ることだろう。ギルドカードの勝手な破棄、そんな無法がまかり通る世の中ではない。衛兵でも役所にでも通報がいき、こいつの信用は地に落ちる。そのまま閑職に追い込まれて新しいギルド長が決められる。
「馬鹿らしいー。」
色々と冷遇されたり、バカにされたりはしてきた。だが、身分証であるギルドカードを破壊されたのは初めてだった。幸いしばらくは仕事がないかもと思って預金の大半は下ろしていたが、損は損だ。それに、あからさまに下に見られるのは納得がいかない。
なんだろう、全身の血の気が引いているような、沸騰しているような、自分の身体が自分のものでないように、感じる。
『なあ、お主。これはこの豚がおかしいのか、それとも組織がおかしいのか。どっちなんじゃ?」
「両方だねー。」
『なるほど、苦労してきんじゃな。こんな理不尽、怒って当然じゃ。』
「怒る?」
「おお、お主、すごい顔をしとるぞ。めっちゃキレてるって状態じゃ。」
ああ、そうか、俺は怒っているんだ。出会いがしらに詐欺師呼ばわりされ、唯一の楽しみである食事とお茶を邪魔された。あげくにこれだけ理不尽な対応をされたわけだ。温厚かつ平和主義な俺でも、流石に我慢の限界なんだろう。
それが顔に出ていたらしく。コワモテで豪快なギルド長が珍しく怯んだと。
「な、なんだ、その顔は、俺はギルド長だぞ。お前みたいな底辺詐欺師とは違うんだ。」
「三度目ー。」
自分がどんな顔をしているかわからないが、何かがプチンと切れる音は聞こえた。
そうか、そうか、ならギルド長のすごさというのを教えてもらおうじゃないか。
スカル 「怒ってない、怒ってないよー。」
エミリー『怒りをため込んで、爆発するタイプじゃなお主。」
長くなってしまったので前編後編に分けます。 次回はギルド長が大変なことに・・・。




