29 仕事はともかく、美味しいものが食べたい。
新たな仲間の登場です。
俺はニコニコとロッド様からの依頼を受けることにしたが、ここからが大変だった。
「早速だが、数件ほど回ってもらいたい場所があるのだが。この地図を見てくれ、まずは・・・。」
俺の判断を受け入れたのか、ロッド様はテーブルに地図を広げて次々に説明をしていく。その数はそこそこ多く、王国全土に広がっている。
隣国の影響力も怖いが、それらを把握し、適切な巡回ルートや補給地点まで考えているロッド様の仕事の速さにびっくりだ。
『国の盾とは、貴殿のようなことを言うのじゃろうな。何かあったときは、自分の手勢をいつでも送り込めるように備えておったのか。』
「エミリー殿に言われるとは、光栄ですな。備えすぎているせいで、一部の貴族からは国に翻意があるのではと疑われてしまっていますが。」
『なるほど、一連の呪いの案件の中で、領主一家だけが快復したとなると、そのあたりもうるさそうじゃ。』
またまた小難しい話をはじめるエミリーとロッド様だが、俺は地図を見て、焦っていた。
ルートはしっかりと考えられている。だが俺には土地勘がないし、複雑すぎて覚えられる気がしない。この地図もらえないかなー。無理だろうな―。そもそも地図があっても正しく回れる気がしない。
どうしたものか・・・。
「話は聞かせていただきました。その案内、ぜひとも私に任せてください。」
そんなことを思っていたら突然扉が開き、そんな言葉が部屋中に響く。その堂々としたふるまいは血筋や貴族の気品を感じるが、来ているのは商人が着る平服だった。
「タチアナ?」
「タチアナさん?」
「はい、タチアナです。」
俺とロッド様が驚く中、エミリーはやにやしていた。さては、気づいていたな、とか思っている間にタチアナさんはすたすたと歩み寄り地図を見る。
「なるほど、北回りルートの応用ですね、これならすぐに覚えられます。」
「な、何を。」
「お父様、此度の一件、スカル様の道案内は私にお任せください。」
おどろきから立ち直ったロッド様につめより、言葉をつづけた。
「どのみち、案内、あるいは監視の人をつけるつもりだったのでは?ならば、その役目は私は引き受けます。もともと今回の謝礼の一つとして、オフツァーへの案内とチーズの紹介はする約束でした。そのついでに国内の名所を巡るのは問題ありません。以前から考えていた行商の旅のプランを少々変更すれば、対応できます。」
「た、たしかに私の代理として、お供をつけよるよう手配するつもりであったが。」
「それは誰なんですか?実は、まだ候補も決まっていないのでは?」
なるほどと思う。俺達が南部へ来たばかりだということは伝えてある。なので道案内と相手との交渉役としてお供をつけてくれるつもりだったらしい。俺が抱えている不安への対応もばっちりということか。
『この場合、監視役という役目もありそうじゃな。信頼しても確認するの精神は大事じゃ。それに情勢を正しく把握するのは大事じゃろ。』
「なるほどー。」
進捗の報告をするための連絡員とか、各地に配備してそう。
「いいですか、お父様、今回の一件は国の存亡にも関わりかねない問題です。だからこそ、事態は慎重に進める必要があります。となれば、呪いの一件はもちろんのこと、エミリーさんやスカルさんの存在はギリギリまで隠しておくべきです。」
「それはそうだな。」
「ならば、お父様の代理として信用ができ、すでに秘密を知ってしまった私が適任です。最悪の場合、私なら被害も少ないでしょ。」
「そういうことは言うな。」
「しかし、私だって貴族の娘です。今日まで飢えなく暮らせた日々の恩は、この街と国のために働くことで返すべきです。家をでたからと言ってそれは代わりありません。」
色々と考えている間にタチアナさんはさらにヒートアップし、俺達は、すっかり蚊帳の外になってしまった。物腰の低い人だと思ってたけど、この勢いは商人の素質を感じてしまう、いや、貴族の素質か?
『かかか、愉快な子じゃの。』
「そういうこと言ってる場合ー。さすがに貴族の子の面倒は。」
『見るしかなかろう。あの娘っ子の立場を考えると、お主と一緒に行動するのが一番じゃ。それはロッド殿もわかってはおるはずじゃ。」
「というとー?」
『ロッド殿の復調、これは大きなニュースとなるだろう。そもそも辺境伯が倒れた時点で、国中で騒ぎとなっているはずじゃ。同じような不調を抱える者や、隣国の連中は復調の原因を探るはずじゃ。その過程であの娘っ子の動きは注目されるはずじゃ。そうでなくても、あの娘っ子は危なっかしい』
「まあ、目立ってたようだしねー。」
貴族様の情勢に疎い俺ですら違和感に気づけるほど、タチアナさんの行動は歪でうかつなものだった。あれでは、後ろ暗いことがあることと、大金を持っていることがバレバレだ。欲深い連中にとってはいいカモだ。まあ、その危なっかしさがあったから依頼を受けた俺も、俺だが。
『川越えとサウスピートンからここまでの旅路は特に目立っておる。それを見聞きした人間が、お主と娘っ子に何か秘密があると疑うのは必然じゃろ。そうなれば、ただの商人として活動するのは難しいじゃろうな。』
「なるほどー。」
実際、俺に依頼したのはタチアナさんだ。エミリーや呪いに関しても知っている。だが、彼女自身は、家を出た人間であり、貴族ではない。が、ロッド様の娘ではある。
わだかまりがないならば辺境伯の手元で囲って守ってあげればいい。だが、一度家をでた彼女が留まるというのも問題があるのだろう。何より彼女自身は商人を続けたいっぽい。
そうなると。
『信用できる相手に預けるしかない。そして、呪いに関して知識があり対抗できるのはわっちたちだけじゃ。娘っ子もそのあたりを理解しての交渉をしているのじゃろうな。危機感はともかく商人としての才はありそうじゃ。』
「うーん。」
『不服か、お主かて、どこぞの馬の骨よりは娘っ子の方が信用できるじゃろ。」
「それはたしかにー。」
どのみち、俺とエミリーだけでは怪しまれる。そうなると、タチアナさんの行商がてら各地を回るのは効率がいいと思う。
ただ。
「なんか、きな臭くない? これって、俺の命も狙われる系?」
『何を今更。呪いを祓っていけばおのずとお主の存在はばれ、隣国から狙われるじゃろうな。まあ、安心せい、わっちがおる限り、そこらの暗殺者程度なら近づくことも叶わんよ。』
「ああ、なるほど、やっちまったなー。まあ今更だけどー。」
『なんなら、北に戻ればいい。川を超えては追ってこないよ。』
「それは嫌だねー。」
『じゃろ。』
なんだかんだ、引き出せない状況に陥っている。だからと言って祓い仕事に後悔はないし、目の前の怨霊も含めて、祓いきるまでは仕事を続けたい。
そんな覚悟を決めている間、タチアナさんは、ロッド様を論破し、俺との同行を勝ち取っていた。
スカル 「一つの街でしか生活したことがないので、土地勘がありません。」
エミリー『それ以前に致命的に地図がよめんじゃろ。』
南部の冒険がはじまる?




