28 極秘に頼まれごとを受けました。
事後処理なお話?
辺境の街で起きた大騒動。それは表向きには 突発的な軍事訓練だったと発表された。
呪いやら、エミリーに関する話は伏せられ、領主であるロッド様の快復をアピールするためのプロモーションという名目のみが語られ、詳細を知るのは一部のみとなった。
ルーサーについては、その死にざまを目撃した彼の仲間と家宅捜索から見つかった資料によって色々と明らかになった。
なんと彼らは隣の宗教国家のスパイで、国元の指示に従って今回の一件を引き起こしたそうだ。
手口はシンプルで、ルーサーがその立場を利用して、ロッド様の食事に呪いを混ぜ、他の仲間はその援護。ロッド様が体調を崩されてからは、夫人の差し入れに仕込み、何かあったときは、夫人に濡れ衣を着せるつもりだったらしい。
なんともザルな計画であるが、呪いを見るには素質が求められるし、ルーサーを含めたグループは古くから街で暮らしており、疑いも少なかったからこそ、犯行が可能だったらしい。
『あの国はそういうところがあるからのう。無駄に忠誠心の高い手駒と悪辣な手口で周囲にちょっかいをかけては、我が物顔で手を差し伸べてくる。送り込まれるものは、忠誠心の塊じゃから、今回のように証拠が出揃うことは稀。仮に証拠が手に入っても地形的な要因で反撃は受けにくい。そうやって調子にのって何百年も悪だくみをしているのじゃ。』
そんな、エミリー先生の解説があったからこそ、今回の一件にチェレパーフスピナ宗主国が関わっている証拠が見つかったらしい。彼らかして、俺とエミリーの存在は予想外な死神だったらしい。
幼いころから使えてくれていた執事の裏切りにヤ―ガ―夫人や弟さんはショックを受けていたたようだが、強く生きて欲しい。
俺は、招かれたロッド様の執務室で、そんな顛末を聞かされた。
「それで、スカル殿。今回の件なのだが。」
「他で言いまわったりはしませんよー。」
「助かる。」
あれだけの騒ぎなので、今更と言えるが、真相は隠しておきたいといったところだろう。
「こちらとしては、祓い仕事の報酬をもらえればー。」
「うむ、それについては、スカル殿の言っていた北の相場の倍は用意してある。頼まれたいた金貨や宝石の買い取りについても、我が家の出入り商人に鑑定させた上で、買い取らせてもらうつもりだ。」
「それは、ありがたいー。」
ここに至るまでに、アルバートさんにはこちらの要望を伝えてある。さすがは領主さまといったところで、多めに吹っ掛けた報酬に金貨の買い取り、それからエミリーの存在を秘密することも確約してくれた。なんとも太っ腹だ。倍というならば、報酬だけでも数か月はのんびりできる額だ。
「このくらいは当然だ。今回の一件、スカル殿とエミリー殿がいなければ、私達家族だけでなく、この街や王国へも甚大な被害となっただろう。」
「それほどですねかねー。」
『それほどじゃぞ。領主の命というのはそれだけ重いのじゃ。」
いまいちピンとこない俺に、エミリーはあきれ顔で補足した。
『領主一家が、謎の変死を遂げたとなれば街の人間は動揺する。その心を隙に付け込こんでもよし、指揮系統が乱れたすきに、手勢を送り込むことも可能じゃし。』
「いや、今回は、私の不調をきっかけに、この街へ攻め込む予定だったらしい。宗主国側は、治安維持という名目でこの街からそう遠くない場所に軍事基地を設けているが、私が没したらすぐに出撃できるように準備していたらしい。」
さらっと怖い情報を聞かせないほしいなあ。つまり俺たちは、隣国との戦争を事前に防いだということか、それなら口止めの徹底と報酬も納得である。
「まあ、私も快復したし、関係者は捕らえたからな。見せかけの侵攻はあるかもしれないが、その程度で国境の守りは崩れないから安心してくれ。」
「迷惑な話ですねー。」
「まったくだ。だが、これもこの街の宿命だ。うん、いやこれはスカル殿には関係ないことだったな。」
愚痴になりそうなところで、俺の態度を察してロッド様は、咳払いをして話をやめた。お互い、これ以上踏み込むのはまずいと判断できたのだろう。
『つまらんのう。なんなら、わっちが追い払ってくれようぞ。』
「やーめーてーねー。」
出来なくはないんじゃないかとは思っていたが、この怨霊ならば軍隊が相手でも無双するだろう。だが、それは最後の手段であって、街の存亡がかかっているような緊急事態ならともかく、ロッド様の余裕そうなこの状況で、そこまでして目立つのは流石にいやだ。
それこそ、報酬だけもらってまた旅立つのが一番だと思う。
「それを理解した上で、お願いがある。スカル殿とエミリー殿には、他の貴族の元を訪ねて欲しいのだ。これを依頼として受けてはくれないだろうか?」
「はあ?」
サヨナラバイバイと思っていたら、思わぬ言葉に変な声がでてしまった。
「実はな、国内の貴族の何人には、私と同じような症状の者がいるのだ。」
「うん?」
『なるほど、ずいぶんと忍び込まれたようじゃの。」
「まったく、情けない話だが、その通りだ。」
俺が理解に時間をかけていると、エミリーがどんどん話を進めてしまった。
『さっするに、呪いによる変死は周期的におこり、その都度、あの国に頼っているといったところか?』
「お恥ずかしい話ですが、まさにその通りです。私は手に負えないと諦められてのですが、他の者は、隣国の神官の秘術で症状を緩和しているのが現状らしい。」
『マッチポンプじゃの。おそらくは下手人と神官は別口にしておるんじゃろうな。神官そのものは真剣に呪いを祓おうとしているに違いない。』
「そのようですな。私を診断した神官も人柄は保証できましたし、ルーサーたちとはつながりはなかったようです。」
なるほど、どうやら、呪いがあるのは、ここだけじゃないらしい。ということは分かった。
「わかりました。お受けしましょうー。」
「おお。」
『お主、またそんなあっさり。』
ならば、俺の答えは決まっていた。厄介ではあるが、呪い払いなんてメシのタネを逃がす手はない。
「報酬はいただけるんですよねー。」
「ああ、それはもちろんだが、構わないのか。」
「はい、ちょうど南部で仕事を探していたので―。」
色々あったので北部にはしばらく戻るつもりはない。報酬も入ったのでしばらくは南部をのんびり観光しようと思っていたが、当てもない。ならば仕事のついでに祓い仕事をするのも一興だ。
なによりロッド様たちは信用できる。旅先の仕事で報酬を踏み倒された場合もきっと保証してくれるだろう。祓い屋の仕事は、プラシーボ効果だとか気のせいだったとか言って踏み倒されることもある。そもそも信用されず、門前払いにされることもだってある。
ならば、ここで気持ちよく依頼を受けて信用と後ろ盾を得る。
実に傭兵的な考えだと思わないか?
『まあ、お主がそう判断するなら、わっちはそれに従うのみじゃが。今回の報酬でどこかに腰を据えるのもありだと思うぞ?』
「まあ、それは追々ー。」
その時は、この怨霊を完全に祓っておけるといいなー。悠々自適な若隠居というのも魅力的だが、視界にこれがいる生活はなんか嫌だ。
うん、正直言うと、俺はちょっと迂闊だったと思う。
呪いという、自分の特技が生かせる存在。祓っても祓いきれない好敵手。なにより失敗してもなんとかなるだけの金銭。
そういった要素で油断しきっていた俺は、深く考えずにロッド様からの依頼を受けることになった。
それが俺の運命を大きく揺るがすことになるとも知らずに。
スカル 「次の仕事があると、安心するよねー。」
エミリー『考え方が、社畜じゃのー。』




