27 人を呪わば穴二つということらしい。
犯人捜し?
少年、もといフラッタ君の寝顔は穏やかなものだった。
鎖のせいで俺には見えなかったが、部屋に突入した時は、白目をむいてぶるぶると震えていたらしく、夫人は生きた心地がしなかったらしい。呪いがとれた今はだいぶ落ち着いている。
「ありがとうございます。ありがとうございます。」
「いえいえー、間に合ってよかったですー。」
そんなフラッタ君を見ながら、ヤーガ―夫人は何度も御礼を言った。念のため目を凝らして観察するが、その身体には瘴気が見られない。屋敷や息子があんな状態だったのに、逆に怪しいとも思えるが、痕跡がない以上、彼女が犯人というシナリオはなくなった。
「振り出しかー。」
『うむ、夫人は白じゃな。おそらく、領主殿の関係者、それも男性を呪うように設定されていたんじゃろうて。』
「ずいぶんと器用だねー。」
『ムダに歴史だけは長いからな、この外法は、そうやって幾重にも予防線を張ることで、呪った本人の正体を悟らせず、訳知り顔で現れた坊主はよくわからない説法や、冤罪を語りだす。そこまでがセットじゃ。』
そんな物騒な話をしているが、突っ込む人はいない。ロッド様とタチアナさんは、奥さんと弟さんと集まって家族の絆を確かめあっているし、アルフレッドさんは、役目があるとどこかへ行ってしまった。
なので、俺たちや、無駄に持て余している黒い球体に関心を向ける者はいない。
『そうじゃのー。真相を知りたければ、それを解き放つといい。』
「ええ、危なくないー?」
『うむ、中途半端に祓おうとすると、逃げられてしまうじゃろう。まあ、お主なら跡形もなく消し去ることができるじゃろう。じゃが、今の状態ならば呪いは相手に還える。』
「かえる?」
『さよう、その性質上、呪いには怨念が溜まっておる。自らの存在をゆがめ、理不尽に使役した存在がいれば、キバを向くのは当然じゃろ?』
「飼い犬に手を噛まれる的な?」
『そうそう、まさにそれじゃ。もっとも呪いは、祓われたときに消えてしまう使い捨てなので、そのリスクはあってないようものであったが、お主が見事に引っぺがしたせいで、集まり濃縮されておる。』
「それ大丈夫なのか?」
そんな物騒な物を自由にしたら、領主様達に再び襲い掛かるのではないだろうか。あと、一連の出来事の証拠が残らない。
『しかし、どのみちお主がいなければ、維持できぬもの。いつまでも閉じ込めていくわけにはいく撒いて。』
「確かに。」
常に魔法で囲っているからこそ、この球体は無害だ。だが、いつまでもこの状態というのは面倒だ。ここで領主様に相談して、余計な時間をとられるならば、今のうちにこっそりやったほうがいいかもしれない。
『安心せい。ダメなら今度こそ祓えばいい。』
「簡単に言ってくれるな―。本音は、これがどうなるか見たいだけなんじゃないのか?」
『それは否定せん。これほどの事例はわっちも初めてじゃからな。予想はできても想像が間に合わん。』
「さいですかー。」
全く信用ならないが、その言葉に一理あるから困る。何より、俺もどうなるか気になってしまうのが、質が悪い。こんなの試すしかないじゃないか。
念のため、タチアナさん達を守るようにリムーブを張り、俺は呪いを包んでいた力を解いた。すると呪いはべちゃりと床に落ち、そのままズルズルと床をはっていく。ズルズルと言っているが、その速度は野犬のように素早く、すぐに部屋からでていく。
「こうなったかー。」
『うむ、完全に意識があったな。もはや畜生なみであるが、目的地は見えているようじゃ。』
「スカルさん、今のは?」
「まるで生き物だったぞ。」
その異様に対して、タチアナさんたちが慌てて俺に詰め寄るが、俺もエイミーもすっとぼける。
「予想外でしたー。」
『うむ、呪いが持ち主に還った。それだけのことじゃ。おのずと今回の一件の犯人はあぶりだされるぞ。』
「はあ。」
どうやら、直前の俺たちの会話は聞こえていなかったらしく。それっぽく言ったら納得してくれた。
「とりあえず、夫人と息子さんは潔白というのが証明されましたー。」
「ほ、ほんとですか。」
「はい、少なくともロッド様やアルフレッド様を呪ったのはお二人ではありません。」
「あ、ありがとうございます。」
「とりあえず、全員休まれた方がいいですよー。」
「あ、そうでしたね。すいません。まずは家族を休ませます。」
「タチアナさんも休んでくださいねー。」
今更だが、一家の大黒柱であるロッド様がつい先ほどまでボロボロの寝たきり状態だったのだ。家族だって消耗している。何を話すにしろ、まずは休んだ方がいいだろう。
けして、追求とか説明が面倒になったとかじゃない。
『そうじゃな。しばし、この部屋を結界で守ろう。邪魔は入らぬゆえ、ゆっくり休まれるとよい。』
「エミリーさん、ありがとうございます。ソファーもベットもあるので、みんなを休ませます。」
「はい、しっかり睡眠をとってください。今はそれが大事です。」
「ありがとうございます。ありがとうございます。」
呆気にとられる夫人を支えるために動けないロッド様の代わりに、対応するタチアナさんは俺たちの言葉を素直にうなづき御礼を言ってくれた。何とも腰が低い人だ。いい意味で貴族らしくない。
そんな彼女に見送られながら、俺たちは部屋をでた。屋敷の人達への説明と報告のためだ。扉を閉める直前に、ロッド様が複雑な顔でこちらを見ていたけど、気にしない。
ちなみに、廊下は、阿鼻叫喚。というわけではないか、なかなかににぎやかだった。
「ぎゃああー。」
「なんだこれ。」
「ひいいい。」
大分離れているが、屋敷中から悲鳴が聞こえ、尻もちをついた使用人さん達が道しるべになっていた。おそらくは呪いを目撃した人達だろうが、目立ってるなー。
『3人分の呪いが集まったなら、素質のない人間にも見えるじゃろうな。』
「どういうことー。」
『前にも説明したが、呪いとは霊を変質させて特定の人間に憑りつくようにする外法だ。その過程で、霊を細切れにして圧縮する。じゃが、お主が』
「なるほど、混ぜ物か。」
意図せずして、ギルド長に憑りついた霊たち、アレな感じな物を人為的に作り出したということだろう。あれはギルド長の人徳によるものだが、あれだって相当な騒ぎになったはずだ。
知らんけど。
『呪いとなった霊は、標的を怨みの相手と誤認する。それには幻影魔法によるものじゃ。しかしお主に祓われることで、その魔法は解ける。そうなれば。』
「なるほどー。犯人のもとへと還るわけだー。なにそれ、超怖い。」
『その通り、呪いが廃れたのもこの理由からじゃ。その特異性と隠蔽力はすごいが、効果に対して失敗したときのリスクが大きすぎる。まともな判断ができるものならば手はださん。」
「じゃあー。」
それでも呪いを使うのはよほどの愚か者か。
「ぎゃああああああああああああああああ。」
『呪いの恐ろしさを知らぬ者じゃな。』
「いやー、ひどいねー。」
会話に割り込んできた一際大きな悲鳴には、一ミリも同情はできなかった。
悲鳴をたどりながら訪れた場所は、最初に俺たちを対応した老執事が軟禁されていた場所だった。ほかにも何人か捕らえられていたし、見張りにはアルバートさんとその部下が数名いた。しかし、全員が全員、困惑と恐怖に顔をゆがめていた。
「ルーサー、これは一体。」
「彼が犯人?」
『そうじゃな、間違いない。怨みを晴らしたので霊が残っておらぬ』
まあ、一番ひどいのは彼か。
ルーサーと呼ばれた老執事さんは悲惨な姿で息絶えていた。髪はすべて抜け落ち、その顔は恐怖に染まり、口からは血が流れ落ち白いかけらも見えた。おそらくは歯が砕けるほどにかみしめたのだろう。
「スカル殿、すみません。突然苦しみだし絶叫したと思ったら・・・。」
「いや、これはしかたないですねー。」
その死にざまに内心びくびくしながらも、俺は周囲を見て呪いを探した。しかし、どこにもいない。
『力を使い果たしたか。大本に還ったかはわからん。じゃが、この場所には残っておらんのー。』
「だねー。」
「真でございますか。」
驚くべきか、喜ぶべきか、アルバートさん達をはじめとして、その場にいた者は反応に困った。ただ、彼らもまた、プロフェッショナルらしく、どこかからもってきた大きな布で、老執事だったものを包んで運び出していく。
恐ろしくても、疑わしくても死体は死体。いつまでも人目にさらしては置けないというのは、南部でも変わらないらしい。それだけ、この世界では命が軽く、死が身近だ。
『呪いは持ち主に還る。人を呪わば穴二つというやつじゃな。知っておれば、手なんて出さなかったじゃろうが、自業自得じゃな。』
俺だって、そうだ。こんな生き方をしていれば、いつ死んでもおかしくないと思っている。
でも、こんな死に方はいやだなー。
スカル 「しんみりー。」
エミリー「まあ、だいたいお主が原因なんじゃけどな。」
犯人もあっさりと見つかる。あくまでファンタジーなので。




