22 どうやら、やばい怨霊らしいです。
呪いはあっさり祓えても・・・・。
リムーブとは霊を祓うための魔法。魔力を変換させて、本来ならば物理的な干渉ができない霊に通用する何かに変えて、叩きつける魔法だ。
魔力を変換して作りだせるものは、火や水、明かりなど様々であるが、リムーブを使うために生み出された力は霊力と言われている。もっとも、使い道がリムーブ以外にはないので、あってないような言葉だ。そして、多くの魔法使いが使うリムーブは、バケツの水を叩きつけるようなものだ。そこらの霊や霊障を祓うだけなら、それで充分なのだ。
「う、うわあああああ。」
「な、なんだこれは。」
『これはまた・・・。この結果は初めて見るのじゃ。』
ほとばしる霊力の奔流に驚く一同の様子に、俺はほくそ笑む。こんな芸当ができるのは、きっと自分だけだろう。リムーブしか使えないからこそ、無駄に研鑽した日々。それが少しだけ報われた気がした。
「これは、一体。」
「上手くいったようで、何よりですー。」
血の気の戻った顔で立ち上がる領主様には、先ほどまであった黒い鎖はその痕跡すら残っていなかった。
『見事なものじゃ、あれだけ濃くなった呪いをピンポイント祓うことで、領主へのダメージを最小限に抑えたのじゃな。』
「上手くいってよかったよー。」
正攻法で祓おうと思えば、祓えたかもしれない。だが、その場合はどんな影響が出たかもわからないので、あのような方法をとった。正直、うまくいってよかった。
「お、お父様。」
「タチアナ・・・苦労をかけたな。」
しっかりと自分の足で立っている領主様に、感極まったのか、タチアナさんが抱き着いた。そこそこの勢いだったのか、領主さますこしだけバランスを崩したが、すぐに踏ん張って娘を受け止め、抱きしめた。
「す、すごいですぞ。正直旦那様は、起き上がるのも困難なほど衰弱されていたはずのですが。」
「ああ、そうだったんですかー。それなら、食事とかの準備をしてあげた方がいいかもですねー。」
「た、確かに、スカル殿。」
「あーはいはいー。どうぞ、どうぞー。」
俺の指摘に慌てて部屋からでていくアレックスさんを見送りつつ、俺はそっと部屋からでた。感動の再開に水を差すのはあれだと思ったし。
「で、どういうことー?」
『うむ、まずは、危険は去ったっと言っておくぞ。』
エミリーさんによる詳しい説明を聞くためである。
『お主も気づいたと思うが、呪いとは、無辜の霊を変質させ、相手に埋め込むことで発動する。さながら、畑にタネをまくがごとくな。呪いは宿主の生命力を養分とし成長し、その体に根を張るように広がっていき、やがては死に至らしめる。』
「なるほど、鎖が身体から生えているように見えたのはそのためか。」
『さよう、呪いが育ち、その濃さをませば当然のように根が深くなり、無理やり取り除けば、雑草を引き抜いた土のように身体はおのずと、ぼろぼろになる。それに、表面だけ取り除いても根が残っていればまた育っていくわけだ。』
それは随分と厄介な話だ。ただリムーブをぶつけるだけでも表面の鎖は削りとれるだろう。だが刺さった鎖を引き抜くまではできない。タチアナさんの話では、以前にも祓い屋なり魔法使いが依頼に失敗しているっぽい。だが、彼らは呪いの存在をしらず、先ほどのように一時的に復調したことで回復したと思い、そこで、やめてしまったのだろう。
『じゃが、根は概念的なものでしかない。領主の身体を蝕んでいたのは、鎖の放つ霊障とそれによる身体への負荷じゃ。鉄の鎖で縛られた囚人のようなものじゃな。そんな状態でお主が的確に鎖だけを破壊したからこそ、本来の体力を取り戻したのじゃ。』
「つまり、元気なのはー。」
『あの領主のもともとの体力じゃな。錘をつけて訓練してた兵士が錘を外したところで、疲れることはあっても、ケガすまい。』
「上手くいったってことか。」
『そうじゃな、お主なら取り除くことは可能と思っていた。その後は、わっちが魔法で回復させれば万事解決と思っていたんじゃが・・・。その必要はなかったのう。』
それとなく警告しつつ、具体的なアドバイスをしなかったのはそういう裏があったからか。ちゃっかり自分を売り込もうとするしたたか、安心しつつ、油断できないと再認識される。
『それそうと、これは先に謝っておくのじゃがな。』
「うんー。」
『あの領主、わっちの存在に気づいたようじゃぞ。』
「えっまじ?見られないようにしてたんじゃないのー。」
『いや、わっちはちゃんと一般人には見えないように存在を隠蔽していたのじゃぞ。だがあの領主、娘っ子を抱きしめながら、部屋をでるお主ではなく、わっちのことを目で追っておった。ありゃ、わっちが居ることに気づいている動きじゃった。』
あの領主様、どれだけ規格外なんだろう。以前出会った僧侶さんを含め、エミリーの存在に気づけた人は今までいなかった。もともと霊の姿をはっきりと捉えられる人間というのは限られているし、この悪霊は意図的に姿や声を俺だけに届けている節がある。そうなると、もう俺の幻覚なんじゃないかと思うレベルで、俺にしか見えないし、聞こえない。
それに気づいたとなると、すごい霊感だ。
『まあ、わっちの気のせいかもしれんよ。存在に気づいただけで、声までは聞こえていないかもしれん。ただ、疑われることは覚悟しておけよ。』
「それ、めんどくさいことになるの確定じゃんー。」
ホウレンソウって大事だ。事前にエミリーからこの話を聞いておいてよかった。
「助けてもらったことは感謝する。しかし、貴方は何者だ。答えてもらおう。」
「しがない祓い屋なんですけどー」
でなければ、この状況についていけなかっただろう。
「もうしわけありません、スカル殿。ただ、貴方の正体がわからねば、この手は引けませんぞ。」
再び呼ばれた執務室。そこには、着替えて堂々と立つ領主様とこちらに剣を向けるアルバートさんがいた。もうね、入った瞬間に喉元に剣を突き当てられて、ちょうびびる。
「ただの祓い屋というわけがなかろう。貴方の連れている、その魔物。一体なんだ。」
「うむ、旦那様に言葉通りで、私にも見えまぞ。」
おいこれ、どうなってんの? 領主様は元気だし、さきほどまで優しかったアルバートさんが、めっちゃ怖い顔をしている。
『呪いと同じじゃ、そこにあると分かってみればおのずと姿が見えてくる。それにしても先ほどまで動くのもつらかったはずなのになんという覇気じゃ。さすがは国境の守りてじゃな。』
「魔物扱いされてますけどー。」
『そこはぜひとも、否定と説明をしてほしいのう。お主、うまいこと頼むぞ。』
開き直って、エミリーと話してみるが、2人の反応を見る限り声までは聞こえていないっぽい。となると、なんかやばい霊を引き連れていると思われてる感じか・・・。
「ええっと、これが見えてるってことですよねー。」
「そうだ、その禍々しい存在。私にまとわりついてたものと似ている。この災い、貴方が原因なんじゃないかと、私は疑っている。」
「マッチポンプで、旦那様に取り入ろうというならば、容赦せぬぞ。」
「いやいやー、待ってくださいよー。そんなわけないですって。」
ここにタチアナさんがいれば、北部での出会いを証言してくれただろう。だが、今日あったばかりの2人からすれば、怪しさ満点だろう。対話でかつ、口調は丁寧だが、少しでも疑われたら、ぶすりとされる。
「違いますよー。これは、無害とは言いませんが、理性のある霊ですから。」
「理性のある霊だと。そんなものが存在すると。」
「はい、ゆえあって、一緒に旅をしています。たしかエミリー・マートンって名乗ってますね。」
『そこは賢者と紹介して欲しいのー。』
いや、ここで、賢者と紹介したら胡散臭いでしょうに。こういうときは、名前を知らせるのが一番だ。名もなき霊よりも素性のはっきりしている霊の方が方が信用は得やすいじゃないかと思った。
「エミリーマートンだと。ふざけるな―。」
だが、びっくりするぐらい逆効果だった。
その名を聞いたとたん、領主様の顔は、驚きと恐怖に染まった。
「エミリー・マートンといえば、かつて王都を恐怖に陥れた大怨霊だぞ。冗談にしても悪辣すぎる。」
「おい。」
『ああ、若気の至りというやつじゃ、それにどさくさに紛れて色々冤罪もかぶっておるぞ。』
やっぱり怨霊じゃないか。
スカル「なんか、呪いよりも人間が怖い。」
領主「忙しなくても名乗る暇はない。」
予想外の非日常を前に、みんなが動揺しているので、わちゃわちゃしています。




