20 色々と事情がすけてきました。
この世界の宗教観なお話でした。
執事さんにまとわりついていた悪いモノを祓うと、執事さんの態度は目に見えておだやかなものになった。筋肉モリモリマッチョマンな圧は相変わらずだけど、タチアナさんにすがりつく感じや俺を警戒する雰囲気はおさまり、好々爺のような顔で、お茶を入れてくれたよ。
「わ、わたくしとしたことが、お客様を前に挨拶もなしに失礼をいたしました。私、ザパート家の家令を務めさせていただいている、アルバートを申します。この度は、わが身をお救いいただき感謝いたしますぞ、神官どのー。」
「僕は神官じゃないですよー。」
「なんと、あれほどのリムーブとなればさぞかし徳の高い神官かと。」
「生まれてこのかた、宗教とは縁がないですねー。」
『むしろ、その対極よなー。』
呪いを祓った俺は、感涙に涙を流すアルバートさんによって歓待を受けていた。日当たりのよい応接室のふかふかのソファーに座り、香りのいいお茶と美味しいお菓子を振る舞われ、幾度も賛辞と御礼を言われるのはなんともむずがゆい。
「はあ、私てっきり、精霊教の僧侶のかたかと。」
「いやー、僧侶だったらもっとましな恰好をするのではー。」
「いや、まあ、そうなのでしょうが、この街では、トラブルを避けるために僧侶の恰好を避けることが多いので。」
『そういえば、ここは創生教の影響があったな。無駄に相手を刺激しないために精霊教の関係者は身分を隠しておるのじゃろうて。』
「なるほどー。」
そういえば、北部で知り合った精霊教の僧侶がそんなことを言っていたような気がする。
「恥ずかしながら、この街は隣国の影響が強く。創生教の関係者も多いのです。」
『隣人は隣人という精霊教の関係者は厄介ごとを避けて、そもそもこの街には来ないんじゃろうな。』
「でも、祓い屋が必ずしも宗教家というわけではないしょうー。」
「そうなのですか、霊を祓う力は、信仰の賜物と聞いてたのですが。」
「へー。」
『それも隣国の戯言じゃな。自分で蒔いた呪いを、自分たちが解く。それができるのも神の御心と言って胸をはる。ひどいマッチポンプなので、化けの皮は何百年前にはがれ、呪いそのものは衰退した。じゃかお主のように専門で霊を祓う輩も少ないから、霊を祓うのは神官という、この男のような誤解をしている者も多いということじゃ。なにせ、リムーブは魔法使いの奥義じゃからな。使いこなせる者は限られておる。』
「じゃあ、もしかして、霊障といったのもー」
「はい。この街に滞在する創生教の関係者の助言です。」
「なるほどー。」
なんとなくだけど、タチアナさんが妙に俺を信用しつつも急いでたのも理解できた。
創生教に関しては、ろくな話を聞かないが、精霊教の神官というのは基本的に善人だ。
隣人を愛し、隣人の個性を認めるという基本理念をもとに、冠婚葬祭の儀式を執り行う精霊教だが、その理念ゆえに、懐が広い人が多いし、その土地の風土や伝統に寄り添って神殿の様式や作法も緩やかに変化するので親しみやすい。まあ、中には悪いやつもいるが、精霊教の関係者はそれだけで、信用できる。傭兵がパーティーを組むときも、精霊教の僧侶や神官は非常に人気だったりする。
もっとも、この隣人の個性を認めるという教義を理由に。この街と隣国へはほとんど近づかないという、ちゃっかりした一面もある。
俺を精霊教の関係者として信用しつつも、目的をぼかして急かしたのは、創生教と関わることを嫌がって俺が依頼を断ることを心配したからなんだろう。
「お嬢様は、以前から創生教の教えに疑問を持っておられました。だから、創生教の神官が治療ができないと言ったときは、それを信じず、自分で治療法を探すといって飛び出されたのです。」
「すごい、行動力ですねー。」
「まったくです。ですが、創生教はやはり信用なりません。」
隣接する街に住んでいるアルバート―さんからして、創生教への信頼感の低さが分かる。これで、呪い関連の話を聞いたらどうなるんだろうか。暴動とかおきない?
『選民主義かつエリート主義な創生教を見て育ったあの娘っ子からすると、精霊教は信頼できるだろうし、それっぽい言動だったお主は信用に値したといったところじゃろうな。ちなみに、お主、呪いについて話すのは慎重にな。アレは知っているというだけで、厄介な事になるぞ。』
わかるわかるとうなづいているエミリーをしばきたい衝動に駆られるが、ぐっとこらえる。今は美味しいお茶とお菓子を楽しみ、タチアナさんが戻ってきたら、財宝を換金してもらう。そこそこのお金をゲットしたあとはこの街からおさらばすればいい。まかり間違って精霊教の関係者と誤解されて、創生教に絡まれるなんて事態は避けたい。
「僕はただの俗物ですよー。美味しい食べ物とかお金とか大好きですからー。」
「ははは、そう言って、お嬢様に付き合ってこの街まできていただいたじゃないですか。これもまた精霊のお導きでしょう。」
『くくく、やっていることは、精霊教の教えそのものじゃ。まあ、霊であるわっちと手を組んでいる時点で、討伐対象確定の邪悪じゃけどな。』
「報酬はきっちりいただきますよー。私はしがない傭兵なのでー。」
「そういうことにしておきましょう。」
なので俺は否定の言葉を重ねるだけだ。わかってますよという顔のアルバートさんに、それが正しく伝わっているかどうかは問題ではない。
タチアナさん達は霊障の悩みから解放され、俺は報酬を受け取る。そういうシンプルな話な終わればいい。
そう思っていたんだけどな―。
スカル 「お菓子うまい。」
エミリー『なんだかんだいって、食道楽じゃの。』




