2 怨霊って何?
ヒロイン〈笑〉の登場?
祓い屋は嫌われ者である。
仕事の性質上、現場はアレなことが多いし、霊というあいまいな存在を相手にしているから成果が分かりにくい。それなのに、一定の層から支持されているから嫉妬も買いやすい。文句を言うなら、代わってやろうかと思うが、文句を言う奴は、汚いだなんだと言って事故物件に近づきたがらない。あと、霊と関わる人間は魂が穢れていくなんて迷信まである。
だから、祓い屋を専門とする人間は少ない。駆け出しの魔法使いがアルバイト感覚で仕事を受けたり、現役を退き荒事が難しくなった年よりがセカンドライフの一環として、どこかの不動産屋に雇われたりするのが一般的だ。俺のように若く、専門的に働くのは珍しい。少なくともこの街では俺ぐらいだ。
まあ、だからこそメシのタネには困らないわけ。そのはずなのだが・・・
「昨日今日で、早すぎなーい。」
「やばいんだからしょうがないだろ。」
ギルド長のドDQNな決定が下された次の日、俺は掃除屋に呼び出され、街外れの空き家へと来ていた。トラブルの基本は早期解決、ごねるとさらに大変になるのでしかたないっちゃ仕方ないんだけど。
「ここって確かー。」
「街のお貴族様の屋敷だな。持ち主は1年前に病死、相続やら財産分与だなんだのゴタゴタで、放置されていた屋敷の清掃の依頼が今日になってやっと入ったそうだ。」
そうそうそんな感じだ。このあたりは日当たりもいい高級住宅街で、周辺は街を治めるお貴族様達の豪邸ばかり。この空き家もなかなかの豪邸である。誰が住んでたかは覚えてないけど。
「なんで、すぐ清掃しないのかねー。入り込まれ立ったことでしょー。」
お貴族様、それも病死となれば丁寧に供養されるので霊になることはほとんどない。だが一年も人の出入りがない建物となれば、よそから迷い込んだ霊が住み着くなんてことがある。貴族の家というのはよほど居心地がいいのか、放置されるすぐ霊のたまり場になる。屋敷が痛まないように、換気や手入れをすることで予防はできるのだが、色々あるんだ、色々。
「自分のものになるかわからないものに金を出したくかったんだろう。3人兄弟がお互いに監視し合って手入れ業者も入れなかったって話だ。幸い食料品などは使用人たちが持ち出したらしいが・・・。」
「わーお。」
それでこの有様というわけだ。オレンジ色のレンガで作られた暖色で豪華な家だといいうのに、どんよりと湿った外壁は血で染まったように見えるし、風もないのに窓はきしんでいるように見える。多少の霊障など気にせず仕事をする掃除屋たちがやばいと思って俺を呼んだのも納得の霊障プリである。
「上にはー。」
「聞くと思うか。」
「ですよねー。」
悲しきかな現場の苦しみを管理職は理解してくれない。貴族から仕事をもらえたと今頃機嫌よさげに酒を飲んでいるに違いない。
「まあ、さくっと片付けますかー。」
「頼む。」
これも助け合いだ。俺がいれば問題なく片付く仕事だし、いないなら、掃除屋たちが仕事をキャンセルして、ほかの無知な傭兵がひどい目にあうだけ。
「それぽいっとー。」
敷地に入り、軽くリムーブを発動して目先の空気を払う。霊を見つけてからの方が効率がいいが今回は霊障のレベルが高いので細かく払って身の安全を確保する必要がある。手間は増えるが安全に変えられない。
「おじゃまーしまーすー。」
預かった鍵で玄関を開けると、昨日の傭兵の部屋がいくつも入りそうな巨大なエントランスだった。ご立派なものだが、一年間も放置されていたせいでホコリがつもり、空気も淀んでいる。
「アア(*´Д`*)ああああ。」
耳に入ってくるのはすすり泣くような鳴き声。これはなかなかの大物っぽいな。
「ぽいっと。」
ホコリ対策の防塵マスクをつけて、もう一度リムーブを放ってエントランスの空気を拡販する。ホコリは舞わないが、何か身体に悪そうなものが拡散され空気が少しだけ軽くなる。
ホコリをとばさないようにゆっくりと歩きながら目指すのは屋敷の一番奥、貴族様の執務室だ。特に意味はない、霊が籠るの奥なことが多いからだ。実際、執務室に近づくにつれて空気が重く淀んでいるので間違ってはいないだろう。
「おじゃまーしまーすー。」
霊とは意思疎通ができない。表面上は会話ができるように思えるがこちらの言葉を理解しているわけではなく、好き勝手に話しているだけ、此方の都合など関係ない。まともな知性があるかもあやしい。それでも挨拶をするのは、死者に対する俺なりの敬意だ。
『じゃまするなら帰るのじゃ。』
だから返事が返ってきたときは、思考が停止した。それが偶然であったとしても、その霊の返事は俺の言葉に反応していると錯覚するほど良いタイミングだった。
『ここは、わっちの場所ぞ。つかいぱしりの掃除屋はどこへなりとも失せるのじゃ。』
「あーはいはい、そういうのいいからー。」
『ぎゃーー。』
なかなか達者にしゃべる霊に驚いたが、反射的にリムーブを放つ。急に目の前に現れたり、奇声を発したりして脅かせて来る霊もいるので、驚くよりも先に魔法がでる。万が一人間にあてても驚かせるだけで済むので迷惑をかけることもない。そして幽霊の場合は煙のように消し飛ばされる。
「はい、おしまー。」
『なにすんじゃーわれー。』
たまに例外もいる。やたらタフな霊だ。
『おま、わっちを誰だと心得るか。」
「はいはいー。」
そう言う場合はリムーブを重ね掛けすればいい。霊というのは希薄な存在であり、リムーブでその存在を散らされると、すぐに形を維持できずに空気に還る。過去に出会ったタフな奴でも2発も耐えられない。
『ああ、もう挨拶もなしに魔法をぶっ放すとか蛮族かおまえか。』
「タフだねー。」
ダメ押しの3発目、一つの現場で4回もリムーブを使うのは新記録だ。さすがはお貴族様、生前にどんな業を背負ったらこんな厄介な霊を呼び寄せるのだろう。
『ま、まて、わっちの話を聞け小僧。話せばわかる。』
「ええーなんでー。」
またまた再生する霊に驚きつつ4発目。世界は広いな、リムーブが唯一の得意魔法であった俺としては、自信をなくしてしまう。
『残念そうな顔をしながら、次弾を装填するな。わっちの話を聞くのじゃ。わっちは怨霊じゃないぞ。』
「えーーもしかして、魔物のですかお姉さんー。」
『ちーがーうー。』
4度のリムーブを受けてもキーキーと騒がしい霊。そのタフさには驚いたが、注目すべきはその姿だった。霊特有の半透明の身体は宙を浮いている。だがその目鼻はくっきりとしているし、明滅もしていない。今まで払ってきた霊はどんなにタフな奴でも身体のどこかがぼやけているし、明滅してあやふやなものだ。それに。
『なんじゃ、今度はじろじろと。霊に興奮するほど飢えてるのかこぞう。』
服装がおかしい。霊のほとんどは白いシーツをかぶせたようなシンプルな恰好をしている。その姿から死後はどんな財産も持ちだせないという考えが存在するほどだ。だというのに目の前の女の霊は、何枚の布を重ねた豪華な服を着ていた。色こそ白であるが、濃淡が異なりもともとはカラフルなローブのようなものだったのだと想像できる。まるで絵物語に出てくる賢者様のようだ。
『ほう、小僧にしては察しがいいな。わっちは確かに賢者じゃ。』
「あれー、口に出てたー?」
これは恥ずかしい。思わずため込んでいたリムーブで吹き飛ばしています。
『ぎゃーー、それ、やめろー。』
「っち、タフだなー。」
『蛮族、蛮族なのじゃー。』
わりと自信のある一撃だったのに、すぐに復活された。いやまて、僅かだけど縮んでないか?
「チリも積もればかー。」
『はっ?まてなんだ、その試合の前の剣士のような覚悟を決めた顔は。』
今日はこれ一件だけのつもりだし、しばらくは休む。こうなったら消えるまで連発するのもありだ。
『やーめーてーーーーー、わっち霊じゃないから、害とかないから、なんならすぐに出てくから。』
「霊はみんなそういうよねー。」
ここまでタフなのは初めてだ。だが、己の限界に挑むいい機会かもしれない。
『がー、話を聞くのじゃ――――。』
その叫び声がうるさいので、更にもう一撃叩き込んでみたが、即座に再生しやがった。
スカル「スカルット・フェルン。一般人です。」
エミリー「お前のようなやつは逸般人っていうんじゃよ。」
キーマンが揃い、物語が動き出します。




