17 はったりの大事さを知りました。
他の傭兵に絡まれましたー。
予想外の大金を手にいれゴキゲンな俺は、それを大事にしまい、近くにあった食堂で時間を潰すことにした。
「ランチセットを。」
「はいよー銅貨6枚だ。」
「はいはいー。」
『お主。それこそ豪遊すればよいのに。』
冗談じゃない。街中の食堂でも大金を使って目立ったらどんな厄介ごとに巻き込まれるかわかったもんじゃない。せめて金貨でもらえばよかったが、そのあたりも含めての取引だったので、致し方ない。
『難儀じゃのー。その気になれば、この街の一等地に豪華な家が二つ、三つ建てられるというのに。まあ、ここで目立ってしまうのもつまらんといえば、つまらんか。』
「はい、お待ち、ランチは焼き魚だ。今朝獲れた川魚だから、うまいよ。」
「これは美味しそうだ。」
食堂の店主の言葉通り、焼き魚定食は絶品だった。切り身ながら、パリパリの皮とホクホクの身、それでいて泥臭さを感じないのは料理人の腕はいいからだろう。程よい塩気は、船酔いで失せていた食欲を取り戻させ、喉も乾く。
「すいません、魚の追加ってできますか?」
「あいよ、何本?」
「3本で、あとそこの棚の酒もー。」
「毎度ありー。」
ついついちょっといい酒とお代わりまで注文してしまった。きっとそれが良くなかったのだろう。
「やーやー、兄ちゃんずいぶんと景気が良さそうじゃないか。」
「こんな昼間から酒なんて羨ましいねー。」
食後のお茶をまったりと楽しんでいる俺にダル絡みしてきたのは、4人組の傭兵パーティーだった。
赤いラインの入った揃いの鎧を着ているガタイのいい坊主頭、違いは背中にしょっている装備ぐらいだろう。
「ええ、臨時収入がありましてねー。」
「そいつはうらやましい。」
『なんともわかりやすい、タカリじゃのー。こいつら、素材屋からお主の後をつけて負ったぞ。』
リーダー格と思われるでっかいハンマーを背負った男が断りもなく、席につきドンと音を立ててハンマーを置いて、威圧してくる。エミリーの言う通りわかりやすい。
「そうか、そうか、そのラッキーな話を俺たちにも教えてくれよ。」
「俺たち、ちょっとばかし懐が寂しくてよー。」
これ見よがしに腰の剣の位置を直す坊主と、弓の弦の調子を見ながら話す坊主が俺の背後に立ち。大楯を持った坊主は出口の方へと進み、逃亡を防ぐ。
「それか、ちょいとばかし運を分けてくれてもいいぜー。」
『ずいぶんと手慣れておるのー。』
手慣れた様子の4人と、面倒ごとは嫌だと奥へ引っ込む店主。なるほど、そういう輩なんだろう。だったら、遠慮はいらないか。
「こんなみみっちいことをしてる暇があったら、鍛えなよー。」
「はっ?」
「アドバイスだよー、懐が寂しいんでしょー。」
「てっ、うお。」
あからさまな挑発をした上で、リーダーの顔面にリムーブを叩きつける。魔法の兆候に気づかない上に、びびって声をあげてしまうあたり、聞いていた通り南の傭兵は質も実力も低いんだなー。
「て、めえ。」
「やめましょうよ。ここは食事をするところですよー。」
左右の坊主がワンテンポ遅れていきり立つが、彼らを包み込むように魔力を広げるとすぐに大人しくなった。わかっていないのは距離を置いて見張っていた大楯持ちだ。
「なるほどー。」
『だから言ったろ、お主の魔力なら、それだけで充分なはったりになると。どんなものでも使いかた次第というわけじゃ。わっちもな。』
「ひ、ひいい。」
そんな大楯だが、急に膝をついてガタガタと震えだした。エミリーが何かしたのだろうか?
『ちょっとばかし、首と足を掴んだだけじゃ。それであそこまで怯えるとは、こやつら魔法に関しては素人っぽいから充分じゃろ。』
「わー、怖い。」
怯えて4人が固まるなか、俺は立ち上がってリーダーに近づく。仲間の手前、虚勢を張ろうとするが、意味もなく魔力を高めたリムーブを全身に浴びせるとすぐに大人しくなった。
「北へ行くといいですよー。」
「はっ?」
「アドバイスです、北では俺なんて雑魚なんですからー。」
「す、すんませんでしたー。」
真摯な態度が通じたのか、男達はそのまま走り去っていた。うん、よかった。あの程度なら襲われてもあしらうぐらいはできそうだけど、4人かかりはちょっと怖かった。
「心臓に悪いわー。」
『まあ、あれだけポンポン魔法を使っていれば常識のある傭兵なら実力を錯覚するじゃろうて。そうでなくても、あれだけの圧力の魔法を浴びれば、馬鹿でも想像ぐらいはできるじゃろて。』
「確かに、どんなものでも使いかた次第なんだねー。」
人間相手に魔法ではったりをかますのは初めてだったがうまくいってよかった。意味のない魔法を浴びせて、別の魔法ならどうすると思わせるのは確かにありだ。剣士やごろつきが武器をちらつかせて相手を威嚇するようなものだと思っていたが、効果は段違いだ。
『魔法とは使えるだけで、立派な才能じゃ。むしろお主の自己評価の低さが気になるぞ。』
「そうだねー。」
ほんと、リムーブしか使えないと開き直っていた自分はバカだったなと思う。でも、北部ではあの程度の挑発はあっさりと流す傭兵ばかりだったし、いつ、いかなる時に魔物の襲撃があるかわからないので、戯れに魔力を使うなんてことは出来なかった。
まあ、人的資源が貴重であるから、他人からカツアゲをするような雑魚もいなかったけどね。あいつらが仮に北部へ行ったら、三日もかからず囮か肉壁にされているだろう。
『心機一転と考えるのじゃ。わっちも協力するから、お主はそこそこの腕前の魔法使いとして振る舞えばよかろうて。共存共栄、WIN-WINな関係よ。』
「そこそこねー。」
『そうじゃ、何なら偉大なでもいいは、って、ぎゃー。突拍子もなし祓おうとするんじゃない。』
「ちっ。」
『くっ、マジでやばいなお主。』
その表情が腹立たしく、不意打ちにリムーブを撃ってみるが、躱されしまった。
便利なやつであるが、祓えない霊というのはやっぱり悔しい。なので、もう一発といわず、何度も放ってみた。
「悔しいなー。」
『八つ当たりで祓おうとするとか、とんだきちがいじゃ。倫理観がばくっとるのじゃ。』
先ほどのダル絡みといい、タチアナさんからの依頼の件といい、いざとなったら、エミリーに頼ればいいとうっかり思っていた自分が情けない。
元手はあるのだから、ちゃんと独立して生活基盤を整えることも考えないといけないなー。
『ぎゃー、やめろ。片手間で、詰将棋みたいに時間差攻撃とかやめるのじゃー。』
まあ、それはこの悪霊を払えると自信を持ててからだ。
タチアナさんとの約束の時間まで、俺はどうやって、エミリーを祓うか頭をひねるのだった。
スカル 「必殺の16連射ー」
エミリー『どこの名人じゃー。』
荒事には慣れているけど、実力は一般人に毛が生えた程度のスカル君。




