16 なんか一気に稼げました。
財宝を売りに行ってみました。
優雅とは言えない船旅を終えてたどり着いたのは対岸のサウスピートン。大河を挟んで魔物の脅威とは縁遠い街中は、北とはどこか違った活気に溢れており、興味深かった。
出来たらゆっくり観光したいと思ったのだが、雇い主のタチアナさんはキョロキョロを俺と街を見比べ、何か言いづらそうだった。
「あ、あの、すいません。」
「いいですよー。」
「はい?」
まあ、なんとなく考えはわかるけどね。俺は内容を聞く前に了承した。
「旅の準備ですよねー。俺は俺で用事を済ませておきますから―。」
「は、はい、ありがとうございます。」
『まあ、ぎり不自然ではないからの。見れ見ぬフリをするのが吉じゃな。』
「では、半日後に、街の広場で集合でいいですか?」
「了解ですー。」
物わかりよく答えてあげると、タチアナさんは何度も頭を下げながら大通りへと消えていった。もちろんだが、その後を追うなんてことはしない。タチアナさんが見えなくなるまで見届けた俺もゆっくりと歩き出す。
『で、どうするんじゃ?酒場で時間をつぶすのか?』
「いやいや、行きたいところがあるし。うっぷ、それに食欲がないー。」
人目を避けてしたいことがあるのは俺もだった。それになにより、初めての船旅による船酔いを隠すのも限界だった。
『くくく、がんばれ、男の子はかっこつけてこそじゃぞ。」
「む、むり、吐きそう。」
エミリーはもはやカウントにいれまい。俺はふらつく身体を引きずりながら、街へと繰り出した。
サウスピートンの街の作りはノースピートンと似ていた。、というか北部と南部の街の作りは似ている。メインとなる十字の大通りとそれによって、貴族区、住居区、商業区、工業区が時計回りに配置されている。これは多くの街が同時期に造られたことに起因しているとか居ないとか。違いがあるとしたら、城壁の有無ぐらいだろう。
おかげでめあての店はすぐに見つかった。
『宝石商?なんじゃあの娘っ子にプレゼントでも買うのかえ?』
「んなわけない。」
大通りから一本はいた路地にある小さな店、古いながらに手入れの良い扉を開ければ、カウンターと数台のガラスケースがあるだけのシンプルな作りの店だった。ガラスには、それっぽい宝石が並べられ、値札はない。モノクルをつけた気の良さそうな中年が1人、カウンターで宝石を磨いていた。
こういう店は色んな意味で信用ができる。
「いらっしゃいませ?買取で?」
「そんな感じ―。」
俺は、カバンから例の金貨を一枚取り出してカウンターに置いた。エミリーが俺を買収するために差し出した金貨だ。
「金貨ですか?」
「北の森で偶然拾ってねー。磨いてみたら年代物っぽいんだよねー。」
「はい、たしかに、旧時代の金貨なら素材としても貴重ですから。」
『なるほど、ここは、素材系の宝石商なのか、久しぶりじゃのー。』
宝石や古い金貨は魔道具の材料や触媒になる。なので、その美しさや希少性で装飾品として求められる一方で、魔法や工業製品の部品としての需要もある。宝石商は、そのあたりを含めて、鑑定もしてくれる。俺のようにお上品とは言えない傭兵は、宝飾品店には入れないのでこういった店に持ち込むのが一般的だ。店主も慣れているようでカウンターに置かれた金貨を前に、白い手袋をつける。
「拝見します・・・。これは珍しい。100年前に発行されたものでしょうか。」
「100年かー。」
『うむ、それくらいじゃろうな、旧王国ほどではないが金の含有率は高いはずじゃ。」
「鋳つぶすのと、そのままだとどちらがお得?」
「難しいところですね。金は何時だって品不足ですし、この時代の金貨は古美術品としても人気が高いので。」
金貨といっても金貨100%というわけではない。銀や鉄などを混ぜて強度や量を補ったものもあれば、表面だけ金でコーティングしたものなどもある。ただ、金貨レベルの加工技術は、ある時代に一度消失しており、古い金貨は、金の含有量に関係なく価値がある。
「そうですねー、金貨5枚でいかがでしょうか?」
「まじ、ずいぶんと気前がいいですねー、北では3枚でしたよ。」
「おや、お客さんは北の、そう言えば森で拾ったとか。」
「そうそうー。」
『実際は、貴族が後生大事にため込んでおったものじゃぞ。』
そんなことを馬鹿正直に言うわけがない。そもそもこんなものを持ち込んだ時点であやしまれそうなものだが、大森林ヴォルリエースは旧時代の遺物を拾えることがある。そういったもので、美術的な価値が期待できるものを、川を下って売りに来るというのは珍しいことではない。北側と違って生存的な余裕がある南側だと、美術品は高く売れる。
「幸運でしたね、うらやましい。」
「死にかけたけどねー。」
「となると、金貨6枚でいかがでしょうか?」
「うん、そのくらいになるかー」
これは店主なりの気遣いともとれる。ピートン川の客船の船代が往復で金貨2枚、貨物船なら銀貨10枚。何かの仕事のついでに売りに来た傭兵ならば予想外の大金と言える。
ちなみに貨幣としての金貨は一枚で銀貨20枚、銀貨1枚は、銅貨20枚分の価値がある。
なお、俺の祓い仕事の報酬が、1回で銅貨5枚から10枚。食堂の食事一回分ぐらいだ。つまり、この金貨は、俺の仕事100回分以上の価値があるというわけだ。
これがまだ数枚、予想以上の大金に俺はめまいを覚えそうになる。
「ちなみに、もう2枚あるんだけどー。」
「ほう、確認してからになりますが、同じものなら3枚で大金貨一つというのはいかがでしょうか?」
「それはありがたいー。」
大金貨は金貨20枚分なので、更に2枚ほどプライスアップだ。銀貨にして400枚。一般庶民の1年分の生活費に相当する大金であり、めったにお目に書かれるものでもない。俺はここで手持ち一部を売ることに迷わなかった。
「よろしいのですか?」
『ほんとにいいのか、実際はその倍ぐらいの価値があるぞ。』
「ああ、旅費も含めて黒字になると、仲間に伝えておきますよー。」
「それならば、銀貨5枚ほど追加させていただきます。」
気前の良い店主だ。エミリーの言う通りならば相当に価値のある金貨っぽいのでもっと値上げができるかもしれないが、棚ぼたで手に入れた金貨が大金貨になるなら、充分な利益だと思う。
「ちなみに、森のどこのあたりで?」
「ヴォルロースの東側の森を半日ほど進んだところ。ウルフに追われているときに偶然見つけてねー。」
「それはそれは、本当に幸運でしたね。」
「全くその通りだー。」
残りの金貨をカウンターに置き、店主に確認してもらい、大金貨と銀貨を受けとる。お互いにとってもいい取引になったと思う。
『あの店主、今頃ウハウハじゃろうな。あの時代の金貨なら、一枚で大金貨3枚、うまくすれば4枚になるぞ。』
「へー。」
『なんじゃそのリアクション、そもそもに素材屋ではなく、あの娘っ子に任せるか、古美術商のところに持ち込めば、もっと高く買い取ってくれたはずじゃぞ。』
「そこは、傭兵らしさってやつだよー。」
店をでて、タチアナさんとの待ち合わせ場所を目指して歩き出すと、エミリーがネタ晴らしと疑問をしかけてきたが、俺だってそのくらいは分かっている。
「今回知りたかったのは、大体の相場だから。それに古美術関係は、紹介がなければ買い叩かれるからねー。ドレスコードとかメンドクサイしー。」
『なるほど、確かにお主の恰好は、一般の傭兵のそれじゃからな。舐められるか。』
「そういうことー。」
流石は数百年前から存在する怨霊、理解が早い。エミリーの言う方法なら確かにもっと高値でうれるかもしれない。だが、そのためにはそこそこの信用と時間がかかる。預けてある分も見せれば解決する問題かもしれないが、そうなると目立ってしまう。
一発当てて、大金を手に入れて浮かれた傭兵など、いろんな意味でカモにしかならない。
ならば、即金でかつそこそこの値段で買い取ってくれる素材屋に持ち込む方が安全である。多くの傭兵はそうやって小金を稼いで満足する。
『しかしながら、あの店主は、お主から金の匂いをかぎ取っていたようじゃがのう。拾った場所を聞いてきたのはそのためじゃろ。』
「森でお宝を拾うのは珍しくないからね。俺の見た目から持っていてあと数枚、その程度で傭兵に喧嘩を売ることはないでしょー。」
『なるほどのう。なかなかに興味深い話だ。」
こういうので欲を出し過ぎるのはよくない。俺も店主もそれを弁えたいい取引だったと思う。
まあ、予想以上の大金になり、内心ヒヤヒヤしているんだけどね。
スカル 「しばらく金には困らないな(震え声)」
エミリー『宝石の値段を知ったら、腰を抜かしそうじゃな。』
貨幣制度補足
銅貨 1枚 (100円)
銅貨 20枚=銀貨 1枚(2000円)
銀貨 20枚=金貨 1枚(4万円)
金貨 20枚=大金貨 20枚(80万円)




