13 傭兵って本来はこうだよねー。
旅は道連れ世は情け
一日ぶりのベットで、快く休んだ翌日。俺はタチアナたちとキャンプ場を出発した。
「カイロさんすみません、急ぎの旅になってしまって。」
「いや、こっちとしても、ルーベンを医者に見せたかったからな。馬車に載せてくれる分、ありがたい。」
「それにスカルさんも一緒ですからね、頼りにしてるっす。」
「まあ、ほどほどにー。」
タチアナさんとカイロさん達パーティーは、数日の採取と次の街までの護衛を契約していたらしい。しかし、メンバーの1人、それもスカウトが負傷してしまい続行が難しい状況になった。一般的には補充メンバーを募集するか、別のパーティーを探すしたりするのだが、タチアナさんは採取を切り上げて、まだ動くのが難しいルーベンさんを馬車に載せて旅をすることを提案したそうだ。ついでに補充メンバーとして俺もちゃっかり雇われた。
「感謝している。」
「いえ、こちらも事情が、ちゃんと依頼料は支払いますのでよろしくお願いたします。」
「スカルにも感謝する。」
「いえいえ、旅はなんたらってやつですからー。」
カイロさん達からすると、自分たちに気遣った対応と捉えることもできるだろう。商人が仕入れを諦めてるも、拠点についたばかりの傭兵が翌日に旅立つなんてことは滅多にないことだ。だが、タチアナさんは一刻も早く出発したかったし、俺は俺で、信用できる旅の道連れができたので、全く問題ない。
そんなわけで、俺たちは和やかな空気のまま、街道をのんびりと急いだ。
タチアナさんが運転する馬車に、先行して俺とカイロさん+エミリーが歩き。ジェイムス君は馬車の後方から進み、マルセラさんは馬車で寝かされているルーベンさんについている。ほどほどに離れているので、お互いの意思疎通をするときはそれなりに大きな声を出す必要があるが、雑談をするにはちょうどいい位置関係だ。
「ねえねえ、カイロさんー。」
「なんだ、急に。」
「タチアナさんって、ほんとに商人?」
「なっ?お前。」
俺の質問にカイロさんは驚いた顔をし、その直後に周囲を見回して、誰にも聞かれてないの確認した。この反応は間違いないな。
「やっぱり気づくか。」
「まあ、なんとなくですが。これでも場数はそれなりに踏んでるのでー。」
主に厄ネタのだけど。
「くう、たしかにそうだ。タチアナさんはただの商人ではない。南部のとある貴族様の娘様らしい。」
「なるほどー。」
地味ながら上等な生地に、立派な馬車。中古の品ということで傷や汚れがあるが、動きは新品のそれ、何より馬が上等すぎる。見る人が見れば気づける違和感だけれども、問題は、カイロさん達の立場だ。過保護な護衛ならいいが、知っていて何かを狙っているようなら、対応を考えないとならない。
「事情に関しては詳しく知らない。ただ、依頼を受ける前に別口で事情は聞いている。くれぐれもよろしく頼むというやつだ。」
「今日はいい天気ですねー。」
「すまんな。助かる。」
「まあまあ、森でウルフに襲われるなんてついてないですよねー。」
「そうだな、南側では数が少ないはずなんだが、まったくついてなかった。」
話の途中で露骨に話題を変える俺に、カイロさんは短く感謝の言葉を述べ、付き合ってくれた。事情は察したし、深入りはしない。ならばそもそも話題にもしない。傭兵とはそういうものだ。本来ならもっと実入りが良くて難易度の高い依頼を請け負ってそうなカイロさん達が、タチアナさんの護衛依頼を受けている理由は察せた。
『おい、魔物じゃぞ。ウサギは4羽ほど、そこにおるぞ。』
「4羽かー。」
「魔物か。」
「ええ、ウサギが4羽。そこにー。」
エミリーは指さす先の草っぱらを指さして指摘する、言われ見ればわずかに土が盛り上がり穴になっていることがわかる。
「任せてくれ、ジェイムス、来てくれ。」
「はい。」
剣を構えて近づいていくカイロさんとジェイムス君。その周りをくるくると回りながら見守るエミリー。俺にしか見えないように調整しているらしいが、真剣な顔の二人に対して、お手並みに拝見とばかりにニヤニヤしている霊というものすごくシュール光景だ。
「あの、スカルさん、どうしたんですか?」
「タチアナさん、ただのウサギがですよー。」
「えっどこですか。」
遅れてきた馬車の御者席から訪ねるタチアナさんとマルセラさんにのんびりと答えつつ、観察していると、ジェイムスが穴に石を投げ込む。
「あれは?」
「巣穴を刺激して誘い出すんですー。」
「ギャアアああ。」
言っているそばから巣穴から白い塊が飛び出してきて、カイロさんがそれを一刀両断する。飛び出したのは、立派な角が自慢のホーンラビットだった。
「わあー。」
「お見事ー。」
その後、新たに現れた茶色の塊を今度はジェイムス君が危なげなく切り落とす。それ以上飛び出てこなくなったら、カイロさんが巣穴に剣を突き刺してぐりぐりとやる。
「ウサギは臆病なので味方がやられると気配を消すんですよー。巣穴の奥にこもって、敵をやり過ごすか、味方の死骸を狙う相手を獲物にするんですー。」
「はあ。なるほど。」
「あんななりですが、気づかずに近づくと馬や、馬車に被害がでることがあるから念入りに潰しておくんですねー。」
なんなら、馬車の中にいても串刺しにされる可能性がある。一方で今のように飛び出したあとは無防備なので、対処が分かっていれば子どもでも狩れるので、手ごろな獲物ともいえる。
「新人研修のウサギ見学って、みんな驚きますよねー。」
「私とジェイムスは、カイロさんが担当していたんですけど、盾を持って巣の前に立たされました。あれは怖かった。」
「そうそう、ウサギそのものはいいんですけど、死骸がねー。」
わりとショッキングな光景にタチアナさんの顔色がやや悪くなっているが、マルセラさんも俺も気づかないフリをする。
「スカル、ウサギは4匹だったな。」
『間違いない、生き残りはおらんぞ。』
「間違いないですー。」
俺に確認をとってからカイロさんは巣穴に腕を突っ込んで、二匹分の死骸を引っ張り出す。最初の二匹はともかく、巣穴の二匹はずたずたになっていて、角ぐらいしか原型をとどめていなかった。
『もったいないのー。まあ魔核を一撃で破壊するのはなかなかの使い手じゃ。』
「こっちは角だけ切り取って埋めておくか。そっちは今日の夕飯だな。」
「はい、血抜きしておきますねー。」
カイロさんが手早く4匹の角を切り落とし、ジェイムス君が素早く皮を剥いでいく。
「進みましょうー。あの二人ならすぐに追いつきます。」
「は、はあ。」
その手際に見入ってたタチアナさんをマルセラさんが促し、馬車はゆっくりと進む。やや血生臭い匂いが漂うが、時期に風に紛れるだろう。
「夕飯は豪華になりそうですねー。」
「はい、2匹分なら6人でもお腹いっぱい食べれます。」
馬上のマルセラさんとのほほんと言葉を交わし、俺は再び先行して、周囲の警戒をはじめる。タチアナさんの様子は気づかないフリをするのは暗黙の了解だろう。
『ふふふ、娘っ子には刺激が強かったようじゃな。』
「そう言うこと言わないのー。それと。」
『うむ、周囲に魔物の気配はない。このまま森から離れれば安心じゃろう。』
「信じるからねー。」
距離が離れたところでしれっと戻ってくるエミリーに確認をとる。俺も素人ではないが、本職のスカウトには劣るので、索敵は彼女頼みなわけだ。
『しかし、あの娘っ子、旅慣れしている割には、魔物と遭遇したことはあまりないようだの?だが、馬の扱いを見る限り旅そのものには慣れているように見える。』
「あまり邪推するなよー。」
『何を言っておる。尼さんと一緒になって、娘っ子を試したのはお主じゃろ。』
「そんなことないよー。ちょっと揶揄っただけだし。」
ホーンラビットが厄介な魔物であることも事実だし、数が増えないように、余裕があるときは徹底的に潰すことも事実だ。狩った獲物でその日の食を賄うのも旅では常識だ。何もおかしなことはしていない。ちょっと初々しい反応だったことも予想の範囲内だったし。
『わかっておる、わかっておる。じゃが、今後のことを考えるなら、人となりを分析するのは必要じゃろ。ちなみに、これはわっちの勘じゃが、あの娘っ子というよりは、その周辺を疑うべきじゃ。』
「その根拠は?」
『勘じゃと言いたいが、あの娘、やはり監視されとるぞ。』
「はあ?」
ふりかえって馬車とその周囲を見るが、見渡す限りには俺たち以外の人間は見えなかった。
『物理的じゃなく魔法的にじゃがな。あの娘っ子が着けている腕輪、あれは対になる魔道具で居場所が分かる曰く付きの道具じゃ。」
「いわくつき?」
それなりに貴重なものだとは思ってけど、まさか魔道具だとはは思わなかった。万が一のときの身分保証的なもんだと思っていたけど、予想以上にヤバそうだ。
『うむ、その昔、嫉妬深い貴族が、妻が浮気をしていないか確認するために作らせたものでな。親機となる魔道具と連動させると、子機の居場所が分かるというものじゃ。当時は大人気でそれなりの数が作られたから、今になっても所有する貴族は多かろうよ。』
「うーん、それでー。」
『お主、あまり驚いてないのー。まあ、わっちの対応も特に何も変わらんがな。』
「でしょ、実際どうでもいいしー。」
仮にタチアナさんがどこかのお偉いさんの関係者だとしても、本人が隠している事情をわざわざ暴く必要もない。傭兵が気にするべきは、依頼の内容と支払いの信用性だけだ。カイロさんに確認をしたのは、余計な地雷を踏まないための用心でしかない。
『危機感のないわりに、妙なところはしっかりしておるなー。まあ、おのずとわかることじゃろうし、先の事はそのときになってから考えればよかろう。』
「ちなみに、その魔法的監視で、エミリーの存在を勘づかれたりとかは?」
『そこは抜かりなくじゃ。そもそも、霊とは儚いのもの、ヴォルロースがおかしいだけじゃからな。』
「そうでもないよー。」
どのみち、何かあれば、向こうからアプローチがあるだろう。エミリーの言葉通り、俺はそれを待っていればいい。藪をつついて蛇を出すような真似はすまい。
ちなみにだが、狩られたホーンラビットは、その日の夕方にタチアナさんの手によって美味しい香草焼きになった。
「お肉が新鮮だと、味が違いますね。」
意外と図太いかもしれない。
スカル「なんだかんだ、職業モラルは同じだった。」
カイロ「用心深い。流石だ。」
ジェイムス「あの距離で探知って流石だ―。」
マルセラ「さりげなく、依頼人にも探りをいれている、流石だ―。」
ルーベン「起きてるのに、セリフがない。」
さらっと評価を上げていることには無自覚なスカル君。




