12 善良な商人?にてを差し伸べることになりました。
和やかな食事で終わりたい。
俺が使える魔法は霊を祓うリムーブだけ、おかげで地元では祓い屋を専門としていたし、それしかできなかった。そのせいで、ギルドや街での扱いは底辺のそれだった。当時は強がって、開き直っていたけれど、エミリーに言われて、それを隠すという選択があったことを知った今となっては、なんとも愚かなことをしていたと思う。こうして、幸先が悪いんだから・・・。
「あっすいません。別にスカルさんの素性を探るつもりとかはなくて、ただ、名前と出身を聞いたときに噂を思い出しましてー。カイロさん達も知らないんじゃないかと。」
『お主、そんなに有名だったのかえ。まあ、見るものには隠せぬ実力じゃが』
「すいません、すいません、いきなり不躾でした。」
「いや、別にいいんだけどー。」
どうしたものかと考えていた俺の態度を怒りと捉えたのか、タチアナさんが慌てて何度も頭を下げた。その様子が妙にかわいらしく、俺は毒気を抜かれてしまった。思えば、バレたところで、今まで変わらないではないか。そう思ったらなんか一瞬でも落ち込みかけた自分が馬鹿らしくなってきた。
うん、もう気にしない。
「知れ渡るほどの腕じゃないはずなですけどねー。」
「たしかに、その筋というか、私も祓い仕事をしている傭兵さんから聞いただけなんですが。なんでも、どんな霊障も一発で祓う上に、一日に何件も霊障を解決している化け物みたいな祓い屋がいるって。」
『じゃろうな、霊障をワンパンって、普通に規格外じゃよな。わっちの知らぬうちに知らぬ魔法でも開発されたのかと思っておったが、そうでなくて安心じゃ。』
「いやいやーそうでもないよー。」
そういえば、よそから来た傭兵と一緒に仕事をしたら驚かれたことがあったような。まあ、リムーブしかできないって言ったら、手の平を返されたけど。
『リムーブは奥義の類じゃというのに・・・。使えると使いこなせるは違うのじゃ。』
「南部ではそもそも、霊障の件数が多くありません。だからというわけじゃないですけど、本来、霊障の対処はというのは何日もかかるとその傭兵さんが言ってました。だからすごく驚いたとも。」
「まあ、あの街は命が軽かったからねー。」
他の街よりも霊が多いとは聞いたことがあった。だからこそ飯のタネには困らなかったわけだ。だが、南部に霊障が少ないとなると今後はどうなるか、ちょっと心配になるな。まあ、それよりも今はタチアナさんの話が先だな。
「で、それを知ってどうするつもりでー。」
「ええっと、スカルさんは凄腕の祓い屋と見込んで、依頼したい案件がありまして。あっすいません、助けてもらっておいて、急に依頼なんて失礼で舌よね。すいません。」
「ああー別いいですよー。」
そういって、タチアナさんはまたペコペコと頭をさげた。なんというか、腰の低い相手だ。商人としてこれはいいのだろうか?
「私の知り合い、以前、仕事でお世話になった人なんですけど。その人が、強力な霊障に悩まされていまして、並みの術では払えず一年近くも苦しめられているんです。」
「1年も?それはまた重いですねー。」
霊が何年も住み着く事故物件なんて話は聞くが、おとぎ話のものだと思っていた。ヴォルロースにはそんな場所なかったし、それに人間を苦しめる霊障というのもめったに見ない。霊が居つきやすい場所があっても、それはそういう境遇なだけなだ。ギルド長に憑りついてはっするしていたあの霊たちだって数日とせずに消えてるだろう。それが1年となると、強さよりもきな臭さを感じてしまう。
「うーん、それって本当に霊障なんでしょうか?」
当然の疑問を口にしつつ、視線でタチアナの後ろに浮かぶエミリーにも向ける。傍目には考え事をしているようにみえるだろうけど、意図は伝わったらしく、エミリーは首を横にふった。
「それは、わたしにはなんとも。」
『実際に見てみないとわからないことじゃな。強すぎる恨みをもつ霊がわっちのように意識を残していることはある。それが生きた人間に害をなすことは確かにある。しかし、魔法で癒せず、薬も効かない病というものも存在するからな。一概に霊の所為とは言えまいて。』
考えるふりをしながら、エミリーの解説に耳を傾ける。なかなか興味深い話が聞けそうだ。
『ただ、様子をみるに、思い付きや嘘ということはなかろう。それなれば、この娘っ子や、その知人やらには、それが霊障である思う理由があるということじゃろうな。ただ病ならば、求められるのは僧侶や薬師の領分、死にかけならば葬儀屋の領分じゃろ。だというのに、祓い屋を捜していたというのは、そういうことかもしれん。』
なるほど、一理ある。どちらにしろ、情報がほしいところだけど。
「依頼を受けていただけるなら、私とともに、南部平原のとある街までご同行いただきたく、あとできれば護衛も・・・。」
「ああ、それは別にいいけどー。川越えかー。」
なんとなくだけどタチアナさん、この一件をあまり広めたくないっぽい感じだ。あるいは、俺が北から来たことをきにしているのだろう。大陸には南北を横断する大河があり、北部出身の人間は川を渡って南に渡るのを嫌がるらしい。同じ人間でも北部と南部では文化がだいぶ違うらしいし。
俺としては、ヴォルロースを離れられて、文字通りの渡りに船であると同時に、南部でやっていけるか不安でもある。
「その腕輪―。」
「はい、これは父から預かったものでして、アッ前金はきちんと払いますから。」
「ああ、いや、質草に欲しいとかじゃないですからー」
こういう嗅覚は大事にすべきだ。
『まあ、受けてみてもいいじゃろ。お主の力ならほとんどの霊は祓えるじゃろう。万が一それ以外の要因ならば、わっちの知恵で何とかなるやもしれぬ。』
「うーん。」
ただ、このタチアナさん、いい人っぽいけどなんか裏がありそうなんだよね。。訳ありっぽい。
それは一度考えた。霊や霊障ならば、自信はあるし、便利なエミリーさんなら、たいていのことは何とかしてくれるだろう。
ただ、そこに甘えるのはあとが怖い。そうやって、俺が依存するのがエミリーの思惑なんだろう。祓い屋の仕事だけで終わればいいが、その後のトラブルはできたら避けたい。
『この娘っ子が何か隠していても問題はあるまい。』
「それって。」
「はい。」
「いや、場所は遠いの?」
「そうでした。私たら、お願いばかりで細かいことを話してませんでしたね。ただ。」
「ああ、そうですね。受けるかどうかはっきりしてからってことですよねー。」
思わず口にだしてしまったら、エミリーが腹を抱えて笑い出していた。
『お主が気づくレベルの違和感にわっちが気づかぬわけなかろう。旅の商人というには上等すぎる服の生地に、希少な魔道具と貴重なバターやチーズを料理に出せる財力。だというのに危険な森の中にまで単身で旅をしている。男ならまだしても、年ごろの娘っ子がするには違和感しかなかろう。』
だよねー。商人というには所作がきれいすぎるし、ここまでの会話も場慣れしていない感じがする。
『まあ、それでもよかろうって、お主かて、財宝やウルフを換金する伝手は会ったほうが良かろう。ここで恩を売っておけば、目立たずに換金してくれるかもしれんぞ。それこそ秘密があればこそ、秘密裏にそれらを換金してくれるやもしれぬ。』
「・・・なるほど。」
たしかにどこかの街で財宝やウルフを換金しようすれば、騒ぎになるだろう。タチアナさんの財力は信用できそうだ、相談に乗る代わりに、秘密裏二換金してもらうのはありだ。
『ちなみに、森でのウルフも回収しておいてある。10匹近くのウルフを捌けるにはそれなりのコネが必要だと思うぞ。』
「わかりました。お力になれるかどうかは分かりませんが、その現場までお付き合いさせてくださいー。」
「いいんですか?」
「ええ、もともと川を超えて、南部へ行くつもりだったのでー。」
毒を食らわば皿まで。どの道に当てもない旅ならこの人の良さそうな商人に付き合っても面白いかもしれない。そう思って俺は、タチアナさんの依頼を受ける決心をした。
仮に厄介ごとだとしても、 一つ確実に報酬がある。
「前金として、このシチューにつかったチーズの産地を教えてくれるなら―。」
「は、はい。目的地はこのチーズの産地ですから、お店も紹介できます。」
「それは何よりですー。」
むさくるしいおっさんの頼みよりも、美味しいごはんとカワイイ女の子の笑顔がいいよねって話。
スカル「早速仕事ゲット。喜ぶべきか?」
エミリー『幸先がよいと思え。』
温かいシチューにほだされたわけじゃない。
2月9日 一部内容を訂正しました。




