11 あっさり正体がバレました。
宿でのまったりとはいかない。
宿舎の部屋はベットだけの簡素な部屋だが、個室だった。しかも共同トイレと風呂まで完備された。風呂に関しては別料金だが、森近くのキャンプ場では破格の豪華さだ。
「ほんとにいいんですかー。」
「ああ、仲間の命に比べれば安いもんだ。」
宿の紹介だけでなく今日の分の宿代までカイロ達は持ってくれた。手持ちの現金が心許ないので非常にありがたい。雑魚寝や野宿も覚悟していたのでなおさらだ。
『ふふふ、情けは人の為ならずじゃな。ま、待ってわっちじゃ。』
「ちっ。」
『お主・・・功労者に対して、あんまりじゃないか?』
ベットに腰かけ、一休みと思ったらふらりとエミリーが現れたので、驚いてしまった。ぬるっと現れるのは心臓に悪い。しかしながら、今日の宿は彼女のおかげである。
「まあ、助かったのは事実だよね。ありがとうー。」
『うむ、存分にわっちを利用するといいのじゃ。わっちはわっちでお主を利用させてもらうからのう。』
そういえば、そんな話だったっけ?なんか便利な存在としか思ってなかったが、俺の魔力はエミリーに吸われているらしい。とりあえず魔力が減ったような倦怠感は感じない。
『お主、さては、忘れておったな。いいか、いかにわっちが優秀であっても、霊である以上、使った魔力は回復せん。お主のような規格外が協力的だからこそ、あのような妙技が使えるのじゃ。』
「その協力って結局なんなの?」
『おりょ、話してなかったか?』
すっとぼけやがった。まあ、俺も聞く余裕なんてなかったわけなんだけど。
『わかった、わかった。お主に害はないから、まずは安心せい。いいか、魔法の秘儀の一つに、魔力の融合というものがあるのは知っておるか?』
「おとぎ話の話でしょー。」
何人もの魔法使いがお互いの魔力を重ねて巨大な魔物を倒したみたいなおとぎ話は割と聞く。が、それは空気を送って火を大きくしたり、水を撒いてから電気を流したりなどの合わせ技でしかない。魔力を合わせるというのは魂や魔力は個人固有のものであり、混ざりあうことはない。水と油のように混ざることはない。というのは魔法を習うときに教わった。
『そうじゃな、今はそうらしいな。実際、とうの昔に廃れた技ではあるが魔力のやり取りや簒奪は理論的には可能なのじゃ。それこそ昨日街道の灯りがそうじゃ。あれは空気中に残留している魔法を吸収して、灯りをともしているじゃ。それに先日のギルド長のように、霊がその力を吸い取るのは、この技術を利用している。』
「そりゃ、また便利だねー。」
『まあ、効率は悪いがの。ギルド長ならば100分の1もたまらん。わっちにしても変換するときに10分の1程度しか己の力に代えられん。それでいて、肉体なしでの魔法の発動は生きた人間よりもコストがかかるのじゃ。』
それはコスパが悪すぎる。例えばあのウインドカッタークラスの魔法なんて一日10回も撃てれば一流と言われるレベルだ。普通はあれだけで魔力切れだ。それが100分の1や10分の1となれば使い物にならないだろう。
「要するに、エミリーはその秘儀とやらで俺の魔力を使っているってことだねー。」
『そうじゃ、そうじゃ。だが説明したように、非常に燃費が悪いものでのー。あれほどの魔法を使えるのは、わっちが優秀というのもあるが。もとにしているお主の魔力が規格外だからこそできる芸当なんじゃ。お主、魔力の量に関しては、ほんと規格外じゃぞ。』
「許可した覚えはないけど?」
『まあまあ、わっちが頂戴しているのはお主からすれば気にならないほどささやかなものよ。いかに賢者と言えども、わっちは霊という儚き存在、生きた人間に悪さなど出来んて。』
「悪さって自覚はあるんだー。」
『多かれ少なかれ、生きると言うことは、他の命を喰らうことじゃろ。安心せい、お主に害はない。むしろあり余り、持て余している魔力をちょい貸すだけで、この大賢者であるエミリー・マートンの力を借りらられるのじゃ、お得じゃぞ。』
「それはそうだけどー。」
さすがに都合が良すぎる。こうやって全面的に信頼したところで、何かとんでもないことに巻き込まれろそうな気がする。
『仕方ないのー。まあ、信頼は一日してならずというものじゃ。気長に見極めるとよい。』
コンコン。
「スカル、ちょっといいか?」
「うん?」
もっと話をと思っていたら、扉がノックされ、カイロの声がした。
『わっちはどこぞへと控えておるぞ。」
「はいはいー。」
すっとエミリーが壁に消えていくのを見届けて扉を開けると、カイロともう一人、森で見かけた商人さんがいた。
「休んでいるときにすまないな、依頼人がお前に御礼と挨拶をしたいということなんだが。」
「なるほど、いいですよー。」
筋は分かるので、俺は2人を部屋に招き入れる。と、椅子がないなー。
「いま、ジェイムスたちにテーブルとイスを運ばせる。なんなら食事もとのことだが。」
「それはありがたいー。」
準備はばっちりと言うことらしい。どうしたものかと思っていたので、食事は特にありがたい。
そのままテーブルと椅子が運ばれ、湯気の上がるシチューが2人分置かれた。
「じゃあ、おれはこれで。」
「は、はい、カイロさんありがとうございます。」
椅子に腰かけた商人さんはペコペコと頭を下げ、カイロ達は部屋から出ていく。食事というからてっきり彼らも同席するのかと思ったが。
「か、カイロさん達はルーベンさのところで食べるって。」
「なるほどー。仲間思いですねー。」
白々しいと思いつつ俺はそれを受け入れてテーブルについた。
「あ、スカルと言います。ヴォルロートから旅をしている傭兵ですー。」
「タチアナ・ドゥシェと言います。この度は本当にありがとうございました。」
「いえいえ、袖振り合うも他生の縁ってやつでしょうしー。」
自己紹介をして確信を得たが、商人さんことタチアナさんは女性だった。服装は男物だが、声や体格はどう見ても女性のそれだ。女性が恩人とはいえ、面識のない相手と二人っきりで食事をする。これは良からぬ噂を立てられそうなものだが、御礼の誠意を示していると言えなくもない。
まあ、本音は別だろうけど。
「私は怯えていただけで、よくわからなかったんですけど、カイロさん達の話だと、スカルさんがいなかったら助からなかったかもって。」
「さあ、どうでしょうねー。カイロさん達もプロですから、アナタを逃がすぐらいはできたと思いますよー。」
「そうでしょうか?」
「彼らならそれくらいはするでしょう。プロですしー。」
嘘である。あの状況では、怪我してルーベンと足手まといのタチアナを見捨てて3人で逃げるのが一番生存の可能性が高かった。カイロ達がそれを選んだかどうかは知らないが、命あっての傭兵家業ならば、見捨てるぐらいはあるだろう。だが、今更、そんなことを言ってもしょうがない。せっかくのシチューがまずくなるだけだ。
「スカルさんは、魔法使いなんですか?」
「ええ、一応。」
たった一日、数食分ぶりだというのに温かいシチューは美味かった。やっぱり俺は街っ子だ。
「ヴォルロートからはお1人で?」
「ええ、ちょっと急ぎの用事がありまして、森の旧街道を抜ける必要がありました。運よく魔物には遭遇しなくてすみましたけどー」
「それは幸運でしたね。私たちにとっても。」
まあ、実際は2度ほど死にかけましたが。ただ、ここでそれを話しても何の得にならない。昨日のエミリーの言葉ではないが、リムーブしか使えない無能な事は出来る限り隠し通すつもりだ。
「南部のどこが、目的地ですか、うかがっても?」
「特には、とりあえず大きな街ってとこでしょうか―。」
『いざとなったら、森で拾った金貨と宝石を換金するためにとでも言えばよかろう。』
そう言えばヴォルロートから離れることばかりで、目的地を考えていなかった。まあ、そんなことよりもシチューが美味い。チーズとクリームの聞いたスープは優しく、濃厚、地元ではめったに食べれない味だ。南部では酪農が盛んで乳製品が豊富と聞いていたが、これの産地を目指してもいいかもしれない。
「気に入っていただいているようで。」
「ええ、こんなにミルクたっぷりなシチューは初めてですー。」
「ふふふ、とっておきのチーズとバターを奮発したかいがありました。」
「へー、それはすばらしいー。」
あとで絶対産地を聞いておこう。
『美味そうじゃのー。』
「それで、何か用なんですか?」
一通りシチューを楽しんだあと、俺はタチアナさんに話を切り出した。
「えっ?」
「わざわざ、2人っきりになるなんて、何かあると思うのが流れではー。」
「は、はあ。」
あれ、もしかして純粋な御礼だった?だとしたら、恥ずかしい。
「あっいえ、御礼の気持ちは本当です。ただ、北からきた魔法使いさんならもしかしてと思っていたのも・・・。」
「いいですよー。美味しい食事のお礼にお話を聞くぐらいはもちろん、ここだけの話にします。」
お互いに踏み込んでいいところを探る様に言葉を交わす。こういう駆け引きは街でもよくあった。いわくつきの物件をこっそり祓ってくれ、内容は秘密でなんてよくあった。
「実は、ヴォルロートには凄腕の「祓い屋」さんがいると耳にしたことがありまして。」
「へー。」
「なんでも、祓いを専門にしながら、どんな霊障も祓うことができるって噂なんです。」
「はいはい。」
ああ、まずい。
「たしか、スカルって名前だったかと。」
これ、俺の正体ばれてますねー。
スカル 「意外と有名だったんだなー俺。」
エミリー『まあ、あれだけ垂れ流しならのー。』




