一話 告白
俺の名前は麦冬真黒髪ショートの感情論が苦手な北海道に住む中学三年生だ。冷たい風を受けながら帰宅中である。
「真!」
この明るい声の正体は稲庭林檎。幼稚園の頃からずっと一緒の幼馴染だ。林檎も俺と同じく黒髪のショートカットで、性格は俺と真反対だ。
「高校でもずっと同じクラスになれるといいね!」
俺は信じていない……男女の友情なんてものを。いつか林檎に恋をしたときちゃんと告白しよう……そう思っていた。
「一緒に記念写真撮ろうよ!」
林檎の提案でクラスメイトにスマホを預け、二人で並んでポーズを取る。シャッターが切られ画面に映った俺たちは満面の笑みだった。
◆
それから一年八ヶ月後、俺たちは運良く同じ北海道の高校に進みクラスも別々になったが毎日顔を合わせる日々が続いていた。俺は吹奏楽部に入り銀メッキのユーフォニアムを担当し、林檎はテニス部で汗を流す日々を過ごしていた。
(いよいよ今日だ……林檎に告白する)
俺はユーフォニアムをケースに入れ、立ち上がる。心臓の鼓動がだんだんと早まる中、ケースを手に練習場を出て部室に向かい始める。
「あの……」
振り返るとそこにいたのは後輩の冬桜みぞれ。セミロングの茶髪に黄色いニット帽をかぶり頰を赤らめて俺をまっすぐ見つめている。フルート担当のみぞれはいつも静かで控えめな印象だったのに、今のこの視線からはかなりの熱を感じた。
「先輩のことが好きです!!」
まさにこれから林檎に告白しようというタイミングで告白され、俺は息を飲んだ。
「ご……ごめん……!」
俺は慌てて断り、逃げるようにその場を離れた。
◆
数分後、廊下を歩く俺は林檎を見つけ、みぞれのことを考えないようにしながら林檎と視線を合わせた。
「あのさ……」
声をかけると林檎が振り返る。その視線は氷のように冷たかった。
(嫌な予感……俺、何かした? いや……口喧嘩はしたことないはずなのに……)
妙な胸騒ぎがする……告白すればきっと付き合えるはずだ……
「……ごめんなさい」
林檎の言葉で俺は言葉を失い、ただ逃げるように背を向けた。俺は振る側と振られる側と一気に味わい、感情がぐちゃぐちゃになった。
◆
俺は帰宅し、部屋でスマホを布団に叩きつける。
「くっ……そ!」
なぜ……なぜ林檎にフラれたんだ……吹奏楽部に入って女子に囲まれる生活を選ばなければうまくいったのか? いや……そんなはずはない。
「男女の友情はあったってことだったのか……」
怒りと悔しさが込み上げ、勢いで林檎の連絡先を削除した。
◆
その夜、俺は奇妙にも冬桜みぞれと手をつなぎ、雪の街を笑顔で歩く夢を見る。そして翌朝、俺は勢いよく起き上がった。
「みぞれとのデート……なんであんな夢を……」
林檎の夢なんて一度も見たことがないのに、みぞれの告白がわずか一日で俺の心を揺さぶったってことなのか……
「俺は恋愛感情が湧きにくい機械みたいな人間だって言われるのに……」
◆
翌朝、俺は登校途中で林檎の姿を見つける。林檎は数人の友達と歩いていた。
(これが最後の会話になるかもしれない……)
意を決して林檎の前に立つ。
「真……! どうしたの? 連絡先消えてたけど……」
「俺……林檎以外で運命の人を見つけたかもしれない。だから……」
「……うん」
林檎は静かに頷き、立ち止まる。
「急にこんなこと言うのは真らしいね。分かった……じゃあね」
林檎の見送りが温かいのか冷たいのか分からないまま、俺はその場を去った。
◆
部活の休憩中、俺はテニスコートを眺めていた。
(みぞれと両想いになったのはいいけど……どう切り出せばいいんだ……本命にフラれたから付き合ってほしい……なんて言えるわけないし……)
告白の順番が逆だったらすべてが変わっていたかもしれない……
「はぁ……」
みぞれは俺を恋愛対象から外している可能性もある。俺は怖い……だからみぞれ周りを探ることを決意し、拳を握りしめた。




