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孤独な怪物の鎖  作者:
第一ゲーム
7/16

06


【“──”視点】


複数のモニターとパネルが並ぶ制御室。

無機質な記録映像と解析のための波形が、淡々と切り替わり続けていた。

映し出されたのは、与えられた水を口に含む者、食料を恐る恐る確かめる者、狭い寝台に身を横たえる者。

皆がそれぞれの小さな個室に閉じ込められ、同じ規格の部屋で同じように過ごしている。

映像は容赦なく記録され、音声は細かく解析され、数字と文字に分解されて保存されていく。

その中には、テープレコーダーに向かい、自分の言葉を吐き出す姿も含まれていた。


その時ーー


「やあ、初日は順調だったかい?」


背後から軽やかな声が響く。

制御室のドアをノックもせずに開き、何の気兼ねもなく踏み入ってくる足音。

モニターの端に反射するのは、気さくな笑みを浮かべた人影。


「……」


“──”は答えない。

ただ手元の操作盤に指を置き、映像を切り替えていく。

そこには、未だ机の前に座り、動かずにいる「9番」が映っていた。

無言で録音の終わったテープを置き直し、しばらく何も考えないように天井を見上げている姿が映っている。

吹き込まれた言葉も、間の取り方も、すべて数値化され、保存されていた。


「やっぱり、彼のことが気になるんだね」


軽い声は、愉快そうに弾む。


「でもさ、やっぱり無理だと思うよ。最初から浮いてたし、あの態度だ。……ほら、“化け物”なんて呼ばれるような奴だよ。きっと上手くやれっこない」


機械の音だけが静かに響き、モニターの光が反射する。

“──”は黙して見つめる。


「それに……あの“力”。いずれ誰かを傷つける。いや、壊す。そうならない保証なんて、どこにもない」 


一瞬だけ声の調子が低く落ちる。

だがすぐにまた、軽やかな調子が戻った。


「ねえ、本当に見せられるのかな? 彼が人を傷つけずに済むところを。……それとも、やっぱり最後はーー」


笑みを含んだ声音。

しかし、その奥に潜む冷たい意図を、“──”は知っている。

返事はしない。

ただ、モニターに映る少年の顔を見据えていた。

その沈黙こそが、この場で唯一の答えだった。


  * * *


夢を見ていた。

灰色の壁に囲まれた狭い施設の廊下。

古びた蛍光灯が唸るように点滅し、その下で、俺はいつも一人だった。

子供たちの笑い声が遠くに響く。

けれど、その輪に俺の居場所はない。

声が近づけば、決まって背中に冷たい言葉が投げられる。


「気味が悪い」

「近寄らないで」

「……化け物」


小さな頃から、ずっとそう言われてきた。

実際、俺はよく壊した。

玩具の車も、机の足も、ドアの蝶番も。

力なんて込めていない。

ただ触れただけで、砕け、折れた。

それを見た大人たちは顔をしかめ、子供たちは俺を避けた。

転んで膝をすりむいても、翌日には血が乾き、傷は塞がっていた。

骨を打っても、青あざは一晩で消えた。

他の子供より強く、速く、壊れにくい。


俺にとってはただの「当たり前」

だが周囲からすれば「異常」


だから俺は、いつも一人だった。

遊びに入ることもなく、食事の席では遠巻きに座り、眠りにつく時だけが心を落ち着けられる瞬間だった。


……なのに、今もなお、夢の中にまでその孤独が追いかけてくる……


いや。夢はそこで終わらなかった。

もっと遠く、もっと古い記憶。

小さな俺の頭に、温かい掌が置かれている。

ぽん、ぽん、と優しく撫でられる感触。

低い声が、耳の奥で囁いた。


「……蓮……お前はもっと……自由に……」


気のせいかもしれない。

現実のどこを探しても、そんな言葉をくれる人間はいなかった。

けれど確かに、その手の温もりは俺の中に残っていた……。



──ブゥゥン。


耳を裂く電子音が夢を引き裂く。

掌の温もりが消え、暗い廊下が白く塗り潰されていく。


『参加者諸君。起床の時間だ。速やかに身支度を整え、指定された場所へ移動せよ』


無機質な声が頭上のスピーカーから降ってくる。

瞼を開けると、真っ白な天井。

蛍光灯の唸りではなく、規則正しい換気の音。

俺は深く息を吐き、きしむベッドから身体を起こした。

夢を振り払うように髪をかき混ぜ、水のボトルを引き抜く。

冷たい液体が喉を滑り落ちる。

新しい一日が始まった。


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