01
……冷たい床が、背中に貼りついていた。
重たいまぶたを開けると、光はやけに白く均一で、天井も壁も窓ひとつない無機質な板のようだった。
「……ここは……」
かすれた声を漏らした瞬間、周囲からも呻き声が上がる。
「……うぅ……」
「な、なんだここは……?」
次々と人影が身を起こし、九人の集団が浮かび上がる。
一人は、県内の進学校として名高い高校の制服に身を包んだ少女だった。
深い紺色のブレザーに白いプリーツスカート、その胸元には大きな刺繍入りのリボンが輝いている。
背筋を伸ばしたまま、周囲を睨みつけるように見渡し、鼻で笑った。
「……まるで豚小屋ですわね」
その言い草に場の空気が凍る。
その隣には、シスター服に身を包んだ老齢の女性がいた。
深い皺の刻まれた手を胸に当て、膝をつきながら静かに十字を切る。
「主よ……どうか、我ら迷える子羊を導き給え……」
その声は小さく震えていたが、不思議と部屋のざわめきを吸い込み、耳に届いた。
彼女の瞳には恐怖以上に、周囲の混乱すら抱きとめようとするような柔らかさがあった。
一方で、くたびれたスーツ姿のサラリーマン風の男は、額の汗を乱暴に拭いながら辺りをうろついていた。
ネクタイは緩み、背広には折れ目もなく、シャツには黄ばんだ汗じみが広がっている。
「やばい……会社に……いや、それより……くそっ、帰らなきゃ……!」
小声で呟きながら自分に言い聞かせるように歩き回り、壁を叩き、ドアを探し、ついには膝に手をついて肩で息をした。
少し離れた場所では、大学生らしい派手な服装の男女が顔を見合わせていた。
男は金髪にピアスを光らせ、女はスマホを探すようにポケットを叩いている。
「マジで意味わかんなくね? なぁ」
「やだぁ、なにこれぇ……」
二人の軽薄な声は、この異様な空間には場違いに響いた。
その足元に、ぬいぐるみを抱きしめて蹲る少女がいた。
年の頃は十歳か十一歳ほどだろう。
まだ幼さの残る顔立ちに涙が伝い、濡れた瞳は怯えたまま揺れている。
彼女は頼るようにぬいぐるみを胸に抱きしめ、声を出すこともできず、ただ必死に震えを堪えていた。
対照的に、一人の男は威圧的な存在感を放っていた。
年齢は五十代半ばほどか。
高級そうなスーツに身を包み、腕を組んで他者を見下ろす。
「ふん……何者か知らんが、下らん真似を」
言葉の端々に、傲慢さが滲む。
そしてもう一人——。
若い細身の男が、壁に軽く背を預けていた。
茶色がかった髪にラフな服装、見た目だけなら人当たりのよい青年にしか見えない。
だが浮かべた笑みは、妙に温度がなかった。
「……面白くなってきたね」
気さくに呟いたようでいて、その声音はどこか底の見えない響きを持っていた。
ざわめきが広がる中、俺はゆっくりと周囲を見回した。
それぞれが異なる恐怖や苛立ちをさらけ出している。
不安そうな顔、苛立った顔、笑ってごまかす顔。
誰も俺に注目なんかしちゃいない。
それでいい。
どうせそのうち、気づかれるんだ。
「こいつは違う」って。
昔からそうだった。
まだ何もしていないのに、勝手に線を引かれる。
だから、俺は黙って見ていればいい……。
その時——。
ぶん、と重低音が響き、壁の一面に巨大なモニターが灯った。
白い光が部屋を切り裂き、全員の動きが止まる。
画面に現れたのは、一人の男だった。
白衣を羽織り、眼鏡の奥で冷徹に笑みを刻む。
その口元が動くと、低い声が空間に響いた。
『全員、目が覚めたようだな』
一斉に息を呑む気配。
『ようこそ。これから君たちには、命を賭けた“ゲーム”に参加してもらう。』
瞬間、空気が爆ぜるようにざわめきが広がった。
足元の床が微かに震える。
次に何が起こるのか――誰一人として想像もできなかった。
だが、この瞬間から確かに始まったのだ。
彼らを待ち受けるのは、ただの「遊戯」ではない。
命を賭けた、生存競争。




