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《処刑を開始します》
冷たいアナウンスとともに、ユウマの椅子の肘掛けが音を立てて閉じ、両腕と足首を鉄の枷のように締め上げた。
「な、なぁ待ってくれ! まだやり直せるだろ!? なぁッ!」
声は震え、喉の奥から掠れた悲鳴が漏れる。
だが、誰も答えなかった。
「や、やめろ! 離せッ!」
もがく体を押さえつけるように、頭上から伸びた金属アームが降下する。
冷たい電極が額に触れた瞬間――
――バチィッ!!
轟音と閃光が視界を裂き、ユウマの体が大きく跳ね上がった。
「ぎゃあああああああッ!」
絶叫が室内を裂いた。
ユウマの体が跳ね上がり、焦げた皮膚の匂いが一気に漂う。
指が弓なりに反り、歯ぎしりの音が聞こえ、やがて声が焼き切れたように掠れていく。
長い、長い数秒。
あるいは永遠にも思える時間。
電流が途絶えたとき、そこに残っていたのは白目を剥き、体中に焼け焦げた痕を刻まれた亡骸だった。
《処罰終了》
無機質な声が、焦げた臭いの漂う空気をさらに重くした。
「……っ……」
アユミは口を押さえ、吐き気を堪える。
麗華は蒼白な顔で震え、田島は椅子の背にもたれて膝を抱え込む。
橘ですら引き攣った笑みを浮かべるだけだった。
――そして。
《次の処刑対象――さやか》
モニターの無機質な声に、全員が一斉に息を呑んだ。
「……や……やだ、いやっ……!」
さやかの体が強く震え、抱きしめたぬいぐるみが小刻みに揺れる。
「や、やめろよ! 子どもだぞ!」
田島が絶叫する。
「そ、そうですわ! この子は何もしておりませんのよ!」
「おやめなさい! 幼子にこのような……!」
アンジェの声も切羽詰まっていた。
だが、モニターの声は揺らがない。
《……言ったはずだ。投票を放棄した者も、処刑対象とすると》
「いや……いやぁ……! 助けて……!」
さやかの悲鳴が響き、拘束椅子へと無理やり押しつけられる。
小さな手足は必死に暴れるが、金属の拘束具はあっさりとその細い手首を捕らえ、冷たい音を立てて閉じた。
その頭上へ、電極がゆっくりと降りてくる――
「やめろ……やめろってんだよ……!」
歯を食いしばった。
泣き叫ぶ小さな声。
その目に映るのは、諦めと絶望。
俺の目の前で、ガキ一人、抵抗もできねぇまま処刑だと?
――そんなもん、見過ごせるか。
「クソがァァッ!!」
怒鳴り声と同時に、俺は体を暴れさせた。
腰に巻かれた金属のベルトの隙間に無理やり腕を捩じ込む。
拘束具の鋲が食い込み、皮膚が裂けた。
どろりと血が流れ落ち、椅子の鉄板を濡らしていく。
「お、おい、何してんだ!無理だ、死ぬぞ!」
誰かの叫び声も、もう耳に入らない。
ギチッ、ミシッと骨が軋み、力任せにねじった瞬間。
――バキィン!
拘束が破壊音を立てて弾け飛んだ。
「はぁっ……はぁっ……」
荒い息を吐き、血まみれの腕を振りほどくと、視線を真っ直ぐにさやかへ向けた。
――間に合え。
「ッッオオオオオオッ!!!」
飛び出し、椅子を蹴り、さやかに向かって一直線に突っ込む。
電極がちょうど降り切る、その瞬間に。
さやかの細い体を乱暴に引き寄せ、そのまま自分の背を電極にぶつける。
――バチィィッ!!
目の奥が焼き切れるような光。
火花が弾け、世界が白に焼き尽くされる。
全身を駆け抜ける凄まじい衝撃。
「ぐっ……ああああああああああああッ!!!」
筋肉が勝手に痙攣し、歯が砕けそうに噛み締められる。
視界がぐらつき、意識が飛びそうになる。
――それでも。
「……ッ、ク、ソが……ッ!」
奥歯を砕きそうなほど噛み締めながら、俺は踏み止まった。
皮膚の表面を這う火花がパチパチと散り、煙が立ちのぼる。
焦げついた金属の匂いと、俺自身の焼ける匂いが混じって吐き気を誘った。
ようやく電流が途切れたとき、俺は膝をつき、荒い息を吐いていた。
血と汗でぐしゃぐしゃになりながら、それでも意識を繋ぎ止める。
背後の空気が張りつめていた。
振り返るまでもなく、他の連中が恐怖に絶句し沈黙しているのが分かる。
「……嘘…だろ……」
誰かが、小さく呟いた。




