化け物の記憶
俺の最初の記憶は、優しい声でも、温もりでもない。
耳の奥にこびりついて離れないのは——
「化け物」
「近寄るな」
そんな言葉ばかりだ。
あの頃の俺は、ただ走りたくて、ただ笑いたかっただけだ。
でも、遊んでいた子供の肩に触れただけで、その子は転んで大泣きした。
俺の握った手を大人が見て、青ざめた顔で俺を突き放した。
「お前は危ない」
「普通じゃない」
何度も、何度も言われた。
小さな俺には、その意味が分からなかった。
ただ一つ分かったのは——
俺が何をしても、笑顔で迎えてくれる奴なんかいないってこと。
俺の手は壊すためにあるみたいだった。
握った鉛筆はポキリと折れた。
抱きしめようとした子犬は、恐怖に怯えて鳴き声を上げた。
周りの視線が刺さるたび、俺は自分の手をポケットに突っ込んで隠した。
「俺は触れちゃいけねぇんだ」って、いつの間にかそう思うようになってた。
気がつけば、誰も近づいてこなかった。
俺が一人で飯を食ってても、同じ机に座る奴はいなかった。
背中に浴びる視線はいつも冷たくて、噂話の中で俺の名前が出ると決まって「化け物」の文字がくっついていた。
俺が殴り合いで勝てば
「やっぱり異常だ」
黙って引き下がれば
「何考えてるか分からねぇ、不気味だ」
結局、何をしてもそう言われる。
だから俺は、笑わなくなった。
近づかなくなった。
殴られても、罵られても、別にいい。
「そうだよ、俺は化け物だ」って心の中で吐き捨てることで、どうにか耐えられた。
……本当は、ただ「普通」に混ざりたかっただけなのにな。
そんな俺の“日常”は、ずっと変わらないはずだった。
……なのに、目を覚ましたら知らねぇ場所にいた。
無機質な壁、天井、何もない広い部屋。
俺を含めて九人、年も性別もバラバラな人間たちが集められていた。
そして——。
突然、壁一面のモニターが唸りを上げて光を放つ。
現れた白衣の男が、冷たい笑みを浮かべて告げたんだ。
『ようこそ。これから君たちには、命を賭けた“ゲーム”に参加してもらう』
……デスゲーム、だとよ。
笑わせる。
こんなふざけた舞台でも、俺にとっちゃ驚きより先に浮かんだのは——
「どうせまた、俺は化け物扱いされるんだろうな」
っていう、諦めにも似た感情だけだった。
——あの日、俺たち九人が“目を覚ます”ところから、すべては始まった。




