5.変わりゆく領地
1カ月チョット後、領地に再び足を踏み入れたのです。やっぱり荒れています。気のせいなんかじゃありません。
領主の館を見て驚きました。小さい!
これは…一体?
先日、代表として話したシューに話を聞きました。
「この領地に客人を呼ぶことはないでしょう?」
今はね。今後はわかりません。
「でしたら、必要最低限の大きさの館で十分でしょう?厨房に食堂に領主一家のお部屋。客室は必要なのでしょうか?」
「……」
どうしよう?お父様が閉口してしまいました。
「えーっとね?領地の館でも大きさでその家門の格みたいなものが示されるのよ。この大きさだと……ね?」
わかってくれるかな?
「とにかく、建て直すにしろ時間がかかるので今日のところはこの館に滞在してください!」
滞在と言っても、料理人は連れて来ていないから私達親子が食事にありつけないわ!
「領民の中で料理に自信のある方はいるかしら?その方に今回は料理人をしてもらおうかしら?そうねぇ、場合によっては料理人として公爵家が雇う事も考えられるわ」
すごいわね。公爵家が雇うと言ったら、目の色が変わったわ。「我こそは!」って料理人に名乗りを上げてくれました。一人でいいんだけどなぁ。
「そうねぇ、今昼を過ぎたから、この後のディナーを美味く作れた方がいるといいんですけど」
候補者たちは競うように館の厨房に入って行きました。
「どきなさいよ!」「狭いじゃない」等の声が聞こえました。だから大きく作ればよかったのに……。
とりあえず、今夜のディナーまでの食料は確保されました。…明日からはどうしましょう?
親子で顔を見合わせてしまったのです。
ディナーでの料理は宮廷料理っぽいものが多かったのは気のせいではないでしょう。それは王都で散々食べて、ちょっと飽きているので、地元の味を感じたかった私達の想いは伝わらなかったのでしょうか。
そんな中、サブという男が作った料理は地元の物を使い、地味だが丁寧に味付けされていて美味しいと思いました。他の方から「田舎料理で恥ずかしい」とか言われていましたけど、私達親子が求めていたものはこのようなものです。
サブは「明日の朝にでもどうぞ。公爵様親子のお口に合うといいのですが……。普段私どもが食べるような粗末なものなので……」
どちらかというと、領民の生活具合を知りたかったのでサブの申し出は非常に有難かったのです。料理も心遣いも素敵でした。
翌朝
「ふむ。平民と言うのはこのようなものを食しているのか?」
「そのようですね?荒れた領地……。そうですわ!まずは全体にソバという東のほうに伝わる植物を植えるといいわ。その内の半分を食用に収穫し、残りの半分の農地は焼く」
「ほう、焼畑農業か?」
「ええ、ここまで荒れた土地を蘇らせるにはそのくらいのことが必要かと」
「確かに、ソバは荒れた土地でもそこそこの収穫が期待できるな」
「食べ方について、東方ではほぼ決まっているようですが、ここでは千差万別!新たな食べ方を生み出してもいいのではないでしょうか?」
「そのようにシューとも話をしてみよう。上手くすると、ソバこそがこの土地の特産物となる可能性だってある」
「そうですね」
私が始めようと思っている事業がソバに関わる事になる可能性も考えられます。まずは領民の生活を整えることからですね。
まずは意識改革が必要じゃ…