5話
なんか、さっきからシエラがちらちら俺の顔見ているんだよな。何か言いづらいことでもあるのかな。
「シエラ、どうしたの?何か聞きたいことある?」
「あ…お兄様、記憶が無くなったという事は屋敷の中とかもよく分からないんですよね。」
シエラは、目を逸らしおどおどした様子でゼニスに問いかけてきた。
「うん、そうだね。」
「な、なら、私が案内しても良いですか!」
なるほど、ゼニスと一緒に屋敷内を歩きたかったのか。
確かに、そろそろ屋敷内を歩き回るには場所を把握しておきたいと思っていた。
ありがたい。
それに、シエラが案内したそうだし断ると悲しい思いをさせてしまう。
「ありがとう。じゃあ、屋敷を案内してもらってもいいかな。」
「はい!」
シエラは案の定、目をキラキラ輝かせ、嬉しそうな表情になった。
ゼニスに対しての怯えも無くなったような様子だ。
「まず、ここがお父様の書斎で、こっちがお母様のお部屋!」
シエラはゼニスを連れて様々な部屋を案内してくれた。
この屋敷は相当広いんだな。という事は、マリーが言うように強い権力の持った家系なのだろう。
「ここはね、私のお気に入りの場所なんです!」
そういうと、様々な色とりどりの花が咲いている庭園に案内してくれた。
この場所の匂いは心地がいい、落ち着く香りだ。
「いい場所だね。すごく良い香りがして落ち着く。」
「お母様もここの庭園気に入っていてね、たまに一緒にここでお散歩とかするんだ。内緒だけどね、怖い夢とか眠れない時にこっそりここに来るんだ。」
内緒だけどって、俺に言ってもいいんだ。
「たまに、お兄様も私と一緒にお散歩してくれてたんだよ。最近はなくなっちゃったけど...。」
という事は、精神的悩みがなかった頃はゼニスとシエラは仲の睦まじい兄弟だったのだろう。親睦を深めるためにシエラと一生に散歩するのもありだな。だって可愛いし。
「また、一緒に俺と散歩してくれる?」
「は、はい!お兄様と一緒にお散歩したいです!」
やっぱり、シエラはゼニスの事が大好きなんだな。
しばらく話しながら歩いていると庭園をすぎ、騎士団の修練場に着いた。大勢の騎士が、汗水を垂らして鍛錬している。
「ここはね、お父様が設立した騎士団の人達がね鍛錬している場所なんです!カシスお兄様や、ジェレミーお兄様も1日の半分はここで過ごしているんだよ。」
「兄様たちは、強いって聞いたよ。」
「お兄様達はめちゃくちゃ強いです。剣を使って魔物とか倒したりするんです!」
「ま、魔物?」
この世界にも魔物はいるのか。
「はい。騎士団やお兄様達は皆を守るために討伐隊を組んでファビラスの森へ行って定期的に魔物を討伐しているんです。」
「それは、知らなかったな。ファビラスの森は何処にあるんだ?」
「私は行ったことなくて、地図でしか見たことが無いんですけどファビラスの森は北西にあります。図書室にいけば魔物の事とか地形が分かりますよ。けど、ファビラスの森は危険なので立ち入り禁止区域なのです。」
「そうなのか。」
すると、前から一人の少年が歩いてきた。
『あれ?俺に負けて、飛び降り自殺しようとした落ちこぼれのゼニス君じゃないですかぁ?』