3話
なら、なぜゼニスは怪我をしたのだろう。
「俺はどうして怪我をして眠っていたんですか。」
「それは…ゼニス様がご自身で飛び下りまして…」
そうか、「命を絶ちたかった...。」 ということか。恐らくもう、ゼニスはこの世にいないだろう。空の器に俺が入ったようなものだからな。
「私ども、使用人は皆ゼニス様の精神が不安定なことを感じとっておりました。ですが、お助けできることができず、申し訳ございません。」
マリーは声を張り上げ、床に膝をつき謝罪をしてきた。
恐らくだが、他の兄弟と比べ努力をしてもいい報われないことに打ちひしがれ、精神的に追い込まれていったのだろう。
そして、名門一族の落ちこぼれとしても。
確実に原因がそうとは限らないが、俺がこの身体に入ったからには落ちこぼれを打破してやる。
ゼニスだったら謝罪を受け入れるのだろうか。だが、この身体は元々俺の身体ではない。謝罪は本人が受けなければ意味がないし、苦しい思いをしたのもゼニスだ。
ユリウスとして今後の事を考えると、マリーは何もすることができなかったという後悔から恐らく俺に真摯に尽くしてくれるだろう。
ここで手放すのは惜しい。
「お前の謝罪を受けいれるよ、だから顔を上げて。」
ゼニスがそう言うと、マリーは顔を上げ目に涙を浮かべていた。
「ほ、本当ですか、、これからはゼニス様の助けになるように、誠心誠意努めます!」
マリーは溢れそうな涙を拭き、意気込んだ。
これからは、俺の助けになるだろう。
『バンっ』
マリーとのやり取りをしばらく続けていた時、ドアが勢いよく開かれ女性が入ってきた。
「ニアちゃん!」
に、ニアちゃん!?
まさか、俺の事か?誰だこの女性。凄い息切れしてる。もしかして、走って来たのか?
「はぁはぁ、ニアちゃんが目覚めたって聞いて、いきなり飛び降りたのよ!身体に異常はない?」
「奥様。それが、大変言い難いのですが身体の方は何事もなく、そ…その…今までの記憶がまったくないそうで。」
マリーが説明してくれた。
「そ、そんな。」
ショックが大きいのだろう。顔が一気に青ざめていった。
「お、お母さんの事覚えていない?」
「ごめんなさい。」
覚えてないも何も俺は別人だからな。
この人がゼニスの母親なのか、確かにさっきのマリーの説明にあったように美人な人だ。
「そ、そうよね。ニアちゃんが生きているだけで嬉しいわ。私の名前はヴィヴィアン・メルデニーク。ゼニス、あなたのお母さんよ。少しづつでいいから、この環境に慣れていきましょうね。」
「はい。ありがとうございます。お母様。」
この環境に慣れていかないとだな。
第二の人生を何から始めようか。