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エピソード4 SOCIALDOGS(ソーシャルドッグズ)

 回転式拳銃リボルバーを向ける彼女の問に、俺は手に持った小刀の刃を突きつけながら答える。


「違う」


「そうか。では、何をしに来た」


「仕事。彼女の護衛を引き受けた」


「……貴様が?」


「悪いか?」


 その俺の問いに彼女は、「いや、悪くはないのだが……」と答え、疑いの目をそのままにしながら回転式拳銃リボルバーを下ろした。


「? それを向けるのをやめてもいいのか?」


「信じれないが、ABYSSアビスである貴様が私と同じ目的を持つ者だったからな」


「同じ目的って……つまり、お前も彼女の護衛を?」


「そうだ。公安警察 紫花麗句シカレイクだ」


 公安警察という言葉を聞き、俺は少し疑問符を頭に浮かべた。


 公安警察は、『表社会で生きる国民』の安全・安心を確保するため、テロ組織、過激派、右翼などによるテロ、ゲリラの未然防止などを推進している組織であり、総理大臣である愛川アイカワ氏の娘の護衛だとしても、公安警察の人間がわざわざ首を突っ込むとは思ってもいなかったからだ。


「裏社会を取り仕切る『ブラックスワン』に属する貴様と組むのは気が晴れないが、よろしく頼む」


「俺だって裏社会の組織ってだけで悪い組織だと判断するお前と組みたくはないが……仕方ない」


 そう言って俺は小刀をしまい、彼女と握手を交わした後、407号室へと入室した。


「私の部屋ではないのだが……まぁ、くつろいでくれ」


「あぁ、そうさせて頂くよ」


 そう言って再び机に座りライトノベルを読み始めた彼女の前を素通り、俺は奥にあった冷蔵庫に手をかけ、開く。中には彼女が言っていた弁当が入っていた。海苔弁当に唐揚げやコロッケ、だし巻き玉子、ポテトサラダなどを乗せたボリューム満点の弁当。質素な物だと勝手に思っていたが、案外量があったため「おぉ……」と心の声が漏れてしまった。


 プラスチックの容器と蓋を繋げるテープを剥がし、電子レンジに突っ込んだ後、温め開始のボタンを押す。


 クルクルと弁当が回り始めたのを確認した後、俺は机の近くに置かれていた椅子に座った。


「……『転樹』か。それ」


「貴様、『転樹』を知っているのか」


 『転生したら世界樹だったので魔王の手から国民を守護します』通称、『転樹』。愛する妹が営む本屋『鼠書店』で最近それが人気だと言って一冊プレゼントしてくれた記憶がある。


「一冊しか読んでいないが、世界樹の加護で国の兵士を強化するところは良かったと思う」


「貴様……なかなかわかってるじゃないか」


「が、二冊目を買おうとはならなかったな」


「もったいない。三冊目からもっと面白くなるのに」


「……気が向いたら買ってみるよ」


 そのような会話を交わしていると、弁当が温め終わったのか電子レンジが鳴り響いた。


 弁当を取り出して蓋を開く。中から白い蒸気が舞った後に具沢山の海苔弁当があらわとなる。


「いただきます」


 割り箸を割り、一心不乱にがっつく。長時間運転し、クタクタになっていた身体に染み渡る。あっという間に空になった弁当をゴミ箱に捨てた後、俺は改めて彼女に声をかけた。


「お前、彼女の命を狙うのが『龍牙』だってのは知っているのか」


「当然だろ? 今更どうした?」


「いや、公安警察でも『龍牙』と対峙するのははっきり言って嫌だろ」


「……確かに、極力は対峙したくはない。だが、我々が公安警察である以上、総理大臣である愛川純一郎アイカワジュンイチロウ様の娘様の命を狙うテロ行為に近いことを対処しなくてはいけないからな」


「嫌ではあるのだな」


「……まぁな」


 そう言って彼女は再びライトノベルを読み始める。俺はこれ以上話を振るのもあれだと思い、ポケットから取り出したスマートフォンを片手に、暇つぶしをする。


 ――30分程経過した頃。彼女、愛川恋子アイカワレンコが食事を終え、部屋へと戻ってきた。


「……何よ、このしんみりとした空気は」


 そう言って彼女は俺達の『目』を見た。「なんだよ……」と言いながら目を細めると、何かを理解したのか、「ふ〜ん」と言って彼女は少し口角を上げた。


「『表社会の犬』と『裏社会の犬』はいがみ合うと思っていたが、案外そうでもなさそうね」


「……犬?」


「そうよ。『表社会の犬』である公安警察に属する貴方シカレイクと『裏社会の犬』である『ブラックスワン』に属する貴方クロイソウヤ。2人合わせてSOCIALDOGSソーシャルドッグズ……どう? かっこいいでしょ。食事中に考えてみたの」


「……くだらない」


「娘様。申し訳ございませんが、私もそう思います」


「……そう」


 そう言って彼女はベットに腰掛けた。


「さてと……それじゃ、明日から貴方達SOCIALDOGSソーシャルドッグズには――」


「その前に質問」


「何?」


「君の父、愛川純一郎アイカワジュンイチロウは君の命を狙う組織がトップクラスの暗殺技術を持つ『龍牙』だと知り、表社会の警察組織では対抗できないと考え、俺達『ブラックスワン』に仕事を頼んだと思っていた……だが、実際に俺がここへ来てみると、表社会の国民の安全と安心を維持する公安警察に属する彼女が居た。愛川アイカワ氏は何を考えているんだ? あと、俺達のことをこれからSOCIALDOGSソーシャルドッグズって呼ぶのか?」


「……単純に、恋子レンコが裏社会に良い印象を持ってないからだね。お父様は確かに貴方達の組織に仕事を頼んだ。けど、恋子レンコは少し不安なのよ。表社会で生きる人達にとって、裏社会で生きる人達の印象は最悪。今日から裏社会で生きる貴方と関わることになるから直していこうとは思っているけど、今の段階では心の底から貴方のことを信用しきれていない。だから、恋子レンコはお父様には秘密で公安警察に仕事を頼んだの。『龍牙』が恋子レンコの命を狙っている。助けて。ってね……あと、呼び方は変えないよ。折角考えたタッグ名だからね……大切にしないと」


「……確かに、私の上司からそのような通報が来たと聞きました」


「信用しきれていない、か……」


 直接言われると少し傷つくな……と思いつつも、俺はその思いを顔に出さないようにする。


「……裏社会で生きる貴方がそのようなことを言われるのは辛いと思う。けど、そのことを伝えずに隠したままでいるよりかはいいでしょ?」


「……まぁな。俺はそっちの方がいい」


「――さて、話を戻そう。明日から貴方達には恋子レンコの護衛をしてもらうわけだが……どちらか1人、恋子レンコの通う『私立 ソコランティ女学園』の教師として潜入してほしい」


「……教師ですか?」


「そう。相手がトップクラスの暗殺技術を持つ『龍牙』である以上、教師として学園内に潜入し、恋子レンコを静かに殺すかもしれない。ボディーガードが2人もいるのなら、1人は恋子レンコのボディーガードに専念して、もう1人は教師として恋子レンコを遠くから護りつつ『龍牙』を――」


「始末する」


「最後まで言わせてよ」


「私はどっちでも良いが……貴様はどうする?」


「生憎と、俺は彼女の信用を得られてないから、彼女のボディーガードに専念する役はお前に上げる」


「信用されていないのなら、どっちの役についても意味無いと思うのだが……まぁいいだろう」


「……決まりね」


 その言葉に俺達はコクリと頷く。


「よし。では貴方レイクは今日はもう自由に過ごしてていいよ」


「え? よろしいのですか?」


「大丈夫。あとは彼に任せなさい」


「……信用されてないな……俺」


「信用されてるされていないの問題じゃない。貴方には残ってもらう必要があるの」


「……残業?」


「まぁ、残業だね……今から貴方には――」


 そう言いながら彼女は学生鞄から大量の教科書を取り出して、


「今からこの教科書を全て暗記してもらうよ」


 と言った。


「……は?」


「教師役を選んだ以上、生徒に物を教えれるほどの知識を身につけておかないと怪しまれるからね。さぁ、全部暗記するまで付き合ってあげるから……」


 悪魔的な笑みを浮かべる彼女。


 俺は俺の取った選択に後悔しつつ、彼女の教科書を読み始めるのであった。

最後まで読んで頂き、ありがとうございます。ブックマークをして頂けると今後の執筆のモチベーションとなりますのでよろしくお願いします。

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