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エピソード3 愛川恋子

 学園都市 ブルバウスの中心に建つ電波塔『ブルバウスタワー』の近くにある駐車場に車を停めた俺は、缶に残っていたコーヒーをグビっと飲み干した。


「お疲れ、俺」


 数時間程高速道路を走らせていたためか、目的地に着いたと感じた瞬間、一気に疲労感が身体に押し寄せた。


「このまま寝たいな……」


 そう吐露し、俺は無意識に背もたれを下げる。そして、瞼を閉じる。段々と遠ざかっていく意識に身を任せ――


「いかんいかん!!」


 ギリギリのところで意識を取り戻した俺は、勢いよく身を起こした。が、勢いが余って俺の頭がハンドルの中心と衝突してしまい、プッ!!と短いクラクションが鳴ってしまう。


 瞬時に外を見てみると、歩いていた人達が「なんだ?」と言いたそうな目でこちらを見ていた。


「はぁ……幸先が悪いな」


 と呟きながら俺は車から出て、いつぞやの上司がやったようにして俺は片手で謝るポーズを取った後、車から降りて寮で生活する彼女の元へと歩を進め始めた。


 洋服屋や美容院。映画館にゲームセンターなど……裏社会にはまず建つことはないであろう施設を横目に見ながら通り過ぎていくと――やがて、彼女が生活する寮へと辿り着いた。


『私立ソコランティ女学園 学生寮 星空』と書かれた金属製の看板が5階建てと比較的大きな寮の周りを囲う白色のレンガ塀の入口に付けられており、敷地内は自由に出入りできるようになっているが、肝心の寮内に入るためには暗証番号を入力する必要があった。


「参ったな。暗証番号なんて教えられてないぞ」


 壁にはめ込まれた入力装置の前で腕を組み考える。


 暗証番号は0から9までの数字を6桁。俺は試しに目を瞑り、人差し指を入力装置に伸ばし……適当に6回押した。


 刹那、ブー! とテレビのクイズ番組で聞いた『不正解』を意味する音が入力装置から鳴った。


「……『852605』ではなさそうだな」


 運任せで入力したのが間違っているのなら、次は男の直感で入力してみようか……そんなことを考えていると、


「……あの」


 と、後ろから声を掛けられた。振り返ってみると、純白のセーラー服を身につけたピンク髪の少女が突っ立っていた。彼女は俺の『目』を見て、「ふーん……」と言い、


「貴方がお父様が新しく雇った恋子レンコのボディーガードね。よろしく」


 と、右手を差し伸べながら続けて言った。


「一目見ただけでわかるなんてな」


「凄いでしょ」


「そうだな」


 そう言って差し伸べられた手を握る。ブンブンと2回ほど上下に振られた後に、「とりあえず、詳しいことは部屋の中で話しましょ?」と入力装置に6桁の暗証番号を入れながら言ってきた。


 毎日利用しているがためか、彼女は一発で正しい暗証番号を入れ、開かれた半透明の自動ドアの中へと入っていく。俺は彼女の後を付いていく形で、その建物へと入った。


 寮内は白で統一され、ホコリ一つない清潔な状態で保たれていた。また、女学園に通う生徒が生活しているためか、建物全体が愛する妹であるアユミが使うラベンダーの香水に似た匂いが漂っていた。


「1階は共有スペース。主に食堂や大浴場があるところよ」


「ふーん……」


「2階は寮を管理するスタッフさん達のプライベートルームが連なっていて……」


「ほうほう」


「そして、3から5階は寮生のプライベートルームが連なっているの。3階から1年生、2年生、3年生の順番ね」


「ほーん……」


「……貴方、会話下手?」


 そんなことを聞かれ、俺は「えっ?」と返す。


 俺の返し方が気に触ったのか、彼女は大きなため息をつきながら上へと向かう階段を上る。


「自分で気づかないの? 貴方、言葉の返し方が下手なのよ」


「返し方が下手って……他にどんな返し方があるんだ」


「例えば、『みんなでお風呂に入るんだ〜』とか、『スタッフの人もここで生活してるんだ〜』とか、『3年生共有スペースへ行くの大変そう〜』とか普通あるでしょ」


「そうなのか。興味がなかった」


「興味がなかったって……今日から護衛対象となる恋子レンコが生活する寮なんだよ? 構造くらい頭に入れておいた方がいいじゃん」


「頭に入れるならこの寮の間取り図を見た方が早い」


「モテないよ。そういうの」


「生憎と、この仕事を引き受けている時点でモテないから」


「諦めんなよぉ……」


 そんな会話を交わしていると、彼女の部屋がある4階へと辿り着いた。


「あら、恋子レンコちゃん? その人誰?」


「あ〜、恋子レンコの叔父さん。仕事の転勤で新しい住居が決まるまでここで生活することになったの」


「へ〜。こんちは!」


「こ、こんにちは……」


 叔父さんと言われ、ガッと彼女を睨むが、彼女は睨まれたのと同時に俺の腹に肘打ちした。


「? 恋子レンコちゃんどうしたの? 急に叔父さんのことを肘打ちして」


「ううん。何でもないよ――ね?」


「あぁ、うん。何でもない何でもない……」


 そんな俺だけが傷つつ会話を続けていると、午後6時を報せる鐘が寮に鳴り響く。


「あっ! もうこんな時間! 恋子レンコちゃん一緒に食堂行こっ!」


「いいよ。行こっか」


「ほら! 叔父さんも早く!!」


「あぁ、叔父さんは食堂では食べれないの」


 ――おいおい、叔父さん扱いした挙句に飯無しか?


「え〜!? なんでなんで?」


「寮費払ってないからに決まっているじゃない。叔父さん。貴方の部屋は407ね。部屋の冷蔵庫にお弁当入れてあるし、勝手に温めて食べて」


 そう言った後に彼女は他の寮生と一緒に階段を下った。「お、おい!」と呼び止めようとしたが、聞こえていなかったのか、はたまた聞き流したのか、戻ってくることは無かった。


「護衛対象なのにボディーガードから離れてて大丈夫なのかよ……」


 そんなことを言いつつ、俺は言われた407号室へと向かい、ドアノブを捻り、部屋に入った。


 ――白髪の女性が、机に座ってライトノベルを読んでいた。


「「……え?」」


 目が合う2人――刹那、互いに装備していた凶器を取り出し、相手に向ける。


 回転式拳銃リボルバーを向けた彼女は俺の顔を見て一言。


「娘様の命を狙う人物とは……貴様なのか? ABYSSアビス


 と俺に問いかけた。

最後まで読んで頂き、ありがとうございます。ブックマークをして頂けると今後の執筆のモチベーションとなりますのでよろしくお願いします。

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