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エピソード2 学園都市 ブルバウス

 裏社会の街中に一際大きくそびえ立つ高層ビル。その最上階にて、俺は電話で約束した彼を待っていた。


 時刻は正午12時5分。空席の椅子が並ぶエグゼクティブテーブルの前で俺は大きくため息を吐いた。


「決められた時間に来れないって……俺の頭はどうかしているのか……?」


 苛立ちを隠しつつ、俺は誰もいないこの部屋で、待ち続けた。――更に5分程経過した頃に、彼は「いや〜ごめんね〜」と片手で謝るポーズをしながら入室した。


 寝癖が付き、ボサボサになっている紫色の髪を手ぐしで軽く直す彼は桐谷真護キリタニシンゴ。裏社会を取り仕切る組織『ブラックスワン』の九代目頭キュウダイメカシラであり、俺の上司だ。


「昼寝をしていたら時間に遅れてしまったよ。まぁ、朝方まで僕も仕事をしていたからね……寝て身体を休め――」


「だとしても約束の時間は守ってください」


「ちぇっ……君は釣れないね。他の人は笑って許してくれるのにな〜」


「許してるのではなくて、呆れてるのだと思います」


 そのような会話を交わしながら、彼はテーブルの一番奥に座った。「ど〜ぞ」と勧められたため、それは会釈をして、向き合うように椅子に座った。


「さて、話はこれくらいにして……電話で話した仕事について話そうか。『ABYSSアビス』……いや、『無能力者 黒井蒼弥クロイソウヤ』君」


 両肘を机に乗せ、顔の前で指を絡ませながら言う彼を真剣な目付きで見た。


「今回、君は日本内閣総理大臣である『愛川純一郎アイカワジュンイチロウ』氏から頼まれた仕事をやっつけてもらうよ」


「日本内閣って……そんなお偉いさんが裏社会で暗躍するこの組織に仕事を頼むなんて世も末ですね」


「まぁまぁ、そんなこと言うもんじゃないよ。で、仕事内容は『娘である愛川恋子アイカワレンコの護衛』そして、『愛川恋子アイカワレンコの命を狙う者の排除』さ」


「……警察の人に頼めばよくないですか?」


「警察に頼めないから、うちを頼るんだよ」


 そう言った後に彼は、ある資料を机にスライドさせるようにして渡してきた。


 渡された資料を確認してみると、そこには裏社会トップクラスの暗殺技術を持つ実力者の多くが所属する中国を拠点とする組織『龍牙』の幹部達の情報が書かれていた。


「娘の命を狙う者が、裏社会の領域に片足すら入り込めていない中途半端な実力しか持たないものだったら、表社会の治安維持を行う警察組織に頼むはずさ。表社会の人間、しかも総理大臣である愛川アイカワ氏が僕達のような裏社会の組織に頼るなんて行為はしたくないからね〜」


「……つまり、その娘の命を狙う者が領域に全身浸かっている『龍牙』だと知ったから同じ裏社会の組織である俺達に仕事を頼んだ……ってコトですか?」


「そ! そんな感じ!」


「『黒龍の飛龍フェイロン』に『青火の仔空シア』……仕事を受けた俺が言うのも何ですが、正直勝てるかどうかわかりません」


「そうかな〜? 案外、君なら勝てると僕は思うけどな」


「何故俺と出会う人達は勝手に俺のことを過剰評価する人ばかりなんですか……俺はただの『無能力者』なんですよ? それ、お世辞で言っているのでしたら今すぐやめた方がいいですよ? 他の無能力者にそんなこと言ったらボコられますよ?」


「大丈夫だよ。君にしか言わないし、言ってしまったとしてもボコられることはないからね」


 フッと笑う彼を睨むようにして見た。


「そんな目で僕を見ないでおくれよ……はぁ、とりあえず今から君は『学園都市 ブルバウス』の寮内で生活する愛川恋子本人の所へ向かってもらうよ」


 そう言って車のキーをこれまた同じようにして渡される。


「臨機応変に、そして、決して愛川恋子アイカワレンコの機嫌を損ねるようなことはしないこと。いいね」


「……受けたまりました」


「うん。頼んだよ〜」


 会話を終え、俺はすぐさまその学園都市に向かおうと彼を背に向ける。


 そして、ドアノブに手をかけた。




 関東圏内の山の中を通る高速道路。そこを俺は、頭から借りた黒塗りの車で走っていた。学園都市 ブルバウスに行くためにだ。


 ブルバウスは山々に囲まれた平野が、丸ごと『能力値の向上』を目的とした生徒が生活する都市となっており、外部との交流を遮断するために、学園都市の外に繋がる道はこの高速道路、ただ一つだけとなっている。


 俺は無心で車を走らせていると、料金所に辿り着いた。


「来客者様。『許可証』をお持ちですか?」


 そう帽子を深々と被った警察官に問われ、俺は助手席に置いてあった鞄に手を伸ばし、そこから名刺入れを取り出すと、頭に作ってもらった『偽物の許可証』をその人に見せつけた。


「……確かに」


 まじまじとその許可証を見た後にそう言った彼は、ゲートを開かせる。


「行ってらっしゃいませ。『黒井蒼弥クロイソウヤ』様」


『愛する妹』そして、『組織のメンバー』にしか知られていないためか、許可証には本名で書かれていた。


 不服に思いつつも、そのことを悟られないように顔に出さないようにしながら、開かれたゲートを通った。


 10分程道なりで走り、差し掛かった長い長いトンネルを通過した次の瞬間――視界に映る世界が変わった。


 自然に囲まれた景色から近未来的な建物が立ち並ぶ景色に変わり、「おぉ……」と呆気にとられる俺。


 今日から始まる護衛生活に少しの不安を胸に秘めつつ、俺はその近未来に向かうのであった。

最後まで読んで頂き、ありがとうございます。ブックマークをして頂けると今後の執筆のモチベーションとなりますのでよろしくお願いします。

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