第18話 御坂へ
少女とエルを連れて麓の村まで行くと、待機させていた本軍の兵士達が颯達の元へと駆け寄ってきた。
そのまま少女を衛生兵へと引き渡し、エルを外套とフードを被せた状態で馬車へと乗せる。当然、両手両足は手錠をかけ拘束したままだ。むしろ両手両足を切り落としておくべきだとアスカは不満げだったが、待機させていたのは本軍の兵士達だ。流石に再生し始める手足や青い血を彼らに見せるわけにはいかない。
颯も手錠を使っての拘束程度でエルの力を制御できるとは思っていなかったが、少しでも逃げようとすればその瞬間に少女を殺すと零が強く脅したせいだろう。エルも全く口答えをせずに従順な態度を示していた。
「本当によかったんですか」
本軍の兵士とのやりとりを終え、ようやく1人になった零に颯は声をかける。
エルを監視するよう零に命じられたアスカは既に馬車に乗り、エルの正面を陣取っていた。
お前が俺たちの中で一番腕が立つだろうと言われれば、アスカも断れなかったのだろう。心底嫌そうな顔ではあったが、大人しく監視に当たっていた。
「いくらあの少女が首席で御坂に所属予定だったとしても、誰にもバレずに死体を処理するやり方なんて、いくらでもあったと思いますけど」
そう、やり方はいくらでもあったのだ。
エルと少女が殺さずにいた亜種を、殺したときのように。
結局、山道に残され気絶していた亜種達を零は殺す判断を下した。少年がエルだということを知っている以上、生かしておくには危険すぎると判断したのだ。
死体は今頃御坂が用意した業者が手際よく海にでも捨てていることだろう。当然彼らは自分達が処理している遺体がどんな遺体かということなど知らないままに。
颯が何を想定して尋ねているか、わかった上で零が言う。
「奴らは元々金目当てで動いていただろう。もしアモウから所在を尋ねられたとしても、俺達が知らないと言えばエルに殺されたと勝手に解釈してくれるさ」
「でもあの少女を殺してしまったとしても、エルは俺たちに従わざるを得なかったと思いますよ。第一、アスカにあれだけコテンパにされていたわけですし」
「…そうかな」
思いがけない反応に颯は横目で零の表情を伺う。
零の瞳は、衛生兵に連れていかれる少女を見つめるエルを捉えていた。
「あいつは手足の再生以外にほとんど魔力を使っていなかったと、俺は思うけど」
「わざわざ手を抜いていたってことですか? だとしたら何のために?」
「さあ、そこまではわからないが」
でも、と一度言葉を切り考え込むように零が目を伏せる。
「他人を傷つけるくらいなら、自分が傷つく方がいいと思っているのかもしれないな。あいつは」
不意に兵士から声をかけられ零がその場を離れる。
その背中を眺めながら颯は静かに考える。
どうして零があんなことを言ったのか。あのエルに対し何を思ったのか。
それが想像できてしまう程度には、それなりに長い時間を颯は零と過ごしてしまっていた。
颯の脳内に零と少しだけ似た青年の姿が浮かぶ。
ーー全く、痛々しくて見てらんないな。
そう思うと同時に仕方がない人だと思う自分もいた。
まさに矛盾。それでもこの矛盾を抱えたまま、こんなところまできてしまった。
「颯」
零が颯の名を呼ぶ。
「お前も来てくれ。御坂までの行程について聞きたいことがある」
それに片手を上げて応対しながら、颯もその場を後にした。




